06 彼岸竜〜バハムート〜
転生者、7才、男
前世の死因、老死
俺は大きな港街で漁業を生業としている家庭に生まれ育った。
転生してから七年目が過ぎた頃になる。
「んじゃ、今日も行くか!期待してるぞ」
「うん!」
これから父ちゃんと一緒に舟で沖に出て魚を捕える手伝いをするのだ。
五歳の俺に出来る事は少ないけど、密かに練習してた水魔法で編み出した必殺技がある。
半年前、その技を父ちゃんに見せてからは俺も魚取りに連れてくようになった。
ウチ等の船はオーバーテクノロジーである古代の遺物と呼ばれるモノの一つ、このバトルシップ………とは比べ物にならない小さな舟である。
巡洋艦?駆逐艦?こっちではバトルシップと呼んでる街の守り神を横目に沖へと向かった。
「この辺りにするか」
帆付きの小舟でやってくるには少し遠すぎやしないかと思うほど、港が離れて見える。
「父ちゃん、ちょっと離れ過ぎじゃない?」
「そうでもねぇさ。父ちゃん一人だったらもっと先まで行くぞ」
だそうで、子供連れという自覚は一応あるみたい。
近くには小島が浮いていて父ちゃん曰く、ここは穴場スポットで時折大量の魚が捕れるとのことなんだけど。
「全然ダメだなぁ」
漁開始から二時間、俺の考案した水魔法漁でも一匹も上がっていなかった。
場所を変えようかと問おうとした時だった。
バァンッ!!
港に停泊しているバトルシップから信号弾が空へと放たれる。
「父ちゃん…」
「こりゃヤバいな…掴まってろよ」
それが意味するもの、モンスターの出現だ。
数十キロ先の異変を感知出来るソナーによってモンスターがコチラに向かっていると判断され信号弾が打ち上がったようだ。
俺達は近くの小島に避難しようと、出航準備を急いでいたが、突如として荒れ狂う海上に悪戦苦闘していた。
一体何が来るんだと怯えて紐を解こうとする指先が言う事を聞かない。
更に沖へと出ていた他の連中から上がる悲鳴はさらなる恐怖を掻き立てる。
もう目視出来てしまった真っ黒なソレは、水飛沫を上げて他の船を薙ぎ払いながらどんどんと迫ってくる。
「大丈夫だ!見ろ、守り神が出払ってきたぞ」
震える俺の手を握った父ちゃんの視線はバトルシップにあった。
水上から噴き上げる水柱と轟音、海上へと押し上げられたモンスターはその姿を現した。
本の挿絵と同じ…『バハムート』、翼のような四枚の腹ビレをもつ長弩級のサカナ、ソレが空を飛んでいる。
「バハムート…飛べるのか」
「こんな時に何呆けてやがる!次が来るぞ!」
父ちゃんに抱き寄せられると同時に、ミサイルと単装砲による砲撃が始まった。
その巨体故に空での動きが鈍いバハムートはほぼ全弾喰らっていたが、効いてる様子がまるでない。
単装砲の直撃も、機銃の掃射も、頭上から降り注ぐミサイルも有効打になり得なかった。
「あんだけ食らってもピンピンしてやがるぜ」
「どうやってあんなの倒せるの?」
「…大丈夫だ、きっと何とかしてくれるさ」
そう言い終えると、バハムートの口許から放たれた光線がバトルシップを貫き、爆発音と衝撃波が俺達を襲った。
…
…
…
気が付くと、海はいつもと変わらない静けさを取り戻していた。
俺はどうやら小島に流れ着いたみたいだけど、父ちゃんの姿がない。
「父ちゃーん!!」
叫びながら必死になって浜を走り回ったけど、ここには俺以外誰の姿も確認出来なかった。
少し離れた海には燃え広がるバトルシップ、その奥に見える街から上がる煙を目にして感じたのは絶望の二文字だけ。
生きる気力をなくした俺は、浜辺で数日間座り込み、流れ着いた死体に群がる蟹を眺めていた。
「俺も…死んだらお前達の餌か」
不思議と喉も渇かないし腹も空かない。
ただ…眠い、そう感じるのみだった。
バハムートの侵攻は、敵対している隣国によるものだったと判明し、国有数の貿易路であった港街の崩壊は大打撃となった。
この襲撃による死者及び行方不明者は一万を超え、生存者はほんの一握りだったという。
『バハムート』
召喚獣
ステータス?
全長150メーターを超え、四枚の巨大な腹ビレで空も飛べる真っ黒い鱗をもつ魚。
隣国が使役している召喚獣だが、契約している召喚士の命と引き換えの召喚となる為、滅多な事では喚び出さない。
契約者が死亡した場合、召喚獣は新たな契約者が現れるまで精霊界へ帰還している。
『ズムウォルト級ラキエータ駆逐艦』
全長150メーターの大型艦。
遥か昔に建造されたアーティファクトの一つであり、バトルシップとも呼ばれる。
既に製造方も失われている為、現存する十数機は貴重なモノとなっている。
武装は、155mm単装砲、対空対潜ミサイル、エネルギー機関砲となり、艦内部の製形炉で各補充が出来る。
また、当時は垂直離着陸式無人戦闘機が随伴していた記録が残っている。