16 大海嘯竜〜ニーズヘッグ〜
五番機=転移者、36歳、男
七番機=転移者、34歳、男
一番機=転生者、17歳、男
二番機=転生者、16歳、男
遠い昔、外宇宙へ進出出来る程発展した文明は、全世界を巻き込んだ戦争によって人類の大半が息絶えて衰退の一途を辿った。
同時期に起こった天界と魔界の争いは、魔界の勝利で幕を閉じた。
魔界の民は天界へ、天界の民は魔界へと追いやられ、後にこの戦いが地上に知れた時『セフィロトの崩壊』と名付けられ広まって行く。
今では白い翼を持つ本来の天使が悪魔、黒い翼を持つ有翼幻魔(悪魔)が天使であると伝えられている。これは子供でも知り得る絵本の御伽噺。
そんな中、現天使を束ねる一柱は己が力を絶大なモノにする為に地上へ種を蒔き始める。
だが、その思惑に気付き始めた者が阻止すべく着々と同胞を集めいた。
『オーディアス級航空母艦三番艦ウォルポール』俺達が拠点とする海上基地だ。
ここに居る殆どの連中が俺のような転移、転生者で、来る日の為に力を蓄えている。
現状、この艦には機械兵もオートパイロットの戦闘機も保有しており、一国の戦力より遥かに高いとされる…けど、まだ訓練不足も否めないんだよなぁ。人数だってまだまだ心許ないってのが本音だ。
「五番機、七番機、飛行訓練を開始する。カタパルトへ」
「「了解」」
今はリーダー達纏め役が出払っている為、俺達は早く機械兵に慣れるようもっぱら飛行訓練を行っている。
足場がある所なら操作も楽なんだが、海上で飛んでいるとまた別の話になってくる。
「この重力に引っ張られる感じ、気持ち良いもんじゃないよな」
『ほんとだよなぁ。ペダルの踏み具合がムズ過ぎる』
そりゃあクルマしか乗った事のない連中が大半だし、大抵の操作が自動化されてるいうても飛ぶって事自体、怖さも違和感も付き纏う。
ちなみにこの艦に搭載されている機械兵『エキュレイユ』は、他と比べて小型で空戦特化なんだとか。
無人戦闘機『ハリアーIV』も飛ばしているが、海の魔物を狩るにしても有人機より優れている…アレを見ていると心が折れそうになる。
「戦闘機より小回り効くコイツ等の方が魔物退治するには優位性あるはずなのに」
『なんだ?独り言か?』
「そう思わないか?」
『思うけどよ、仕方ねーじゃん。ロボなんてこっちで初めて乗って空まで飛べってんだから』
「確かに。無理言われてるんだよな、俺達」
『そうそう。だから早く慣れろって結構無茶な事言ってくれるよなぁ』
これが仕事だと思えば楽しさが半分あるだけマシだと思う…実際一番機と二番機の奴等なんて若いだけあってすぐ慣れて楽しんでるしな。
若いって羨ましいなんて呟いていると、先に訓練していた二番機から通信が入った。
『全各員へ、海中から大型の魔物らしき影が接近しているのを確認』
「大型の魔物?鑑定出来るか?」
『いえ、結構深いみたいで鑑定出来ません』
「了解、すぐ向かう。七番機聞いたな、行くぞ」
『はいよ。っともう来てるぞ!速い!』
長く巨大な魔物は海中から俺達を抜き去り、真っ直ぐ艦へ向かっていく。
一番、二番機は俺達の元へ飛んできて合流を果たすと同時に、正面から爆発音が聞こえてくる。
『ふ、艦が…』
『クッソ!早く行くぞ!ほら二番機、さっさと付いてこい。二人も早く!』
呆ける二番機、叱咤する一番機の二機が先行して煙が上がる母艦へ飛び込んでいく…でも、遅い、もう遅かった…
艦中央が貫かれ姿が顕になった魔物『ニーズヘッグ』、空母であるウォルポールよりデカいソレに対し、兵装されている重機関銃が撃たれているものの効いてる様子が無く、特攻する一番機のライフルも鱗で弾かれていく。
『き、効かない!?弱点は頭か!?』
頭を狙う一番機と二番機、俺達二人も一歩後方で狙いやすい胴体を撃ちまくる。
まるで効いてる気配がない…こんだけ浴びせているのに、そもそもサイズが違い過ぎるだろ…規格外だ、今まで何処に潜んでたんだ。
撃っても撃ってもビクともしないどころか、ウチ等に目もくれないニーズヘッグ、奴は艦への攻撃を最優先にしているらしく、甲板をブレスで焼き払っていく…それでも耐えてくれている艦だったが、幾度目かの攻撃によって真っ二つにされてしまった。
沈んで行く母艦をただ眺める事しか出来なかった俺、怒りのまま近接戦に持ち込もうとする一番機、手にしたソードは鱗に突き刺さるも、全身から放たれた魔法によって爆散し、近くにいた二番機もまた同様に。
『俺達もここまでか…』
「逃げるか?」
『バカ言え、ガキ共が命張ったんだ。俺は行くぜ』
「だな。遅れんなよ」
五番、七番機の俺達もライフルを捨ててプラズマソードを引き抜き挑んでいった。
まぁ、覚悟が決まっただけでどうにかなるもんじゃなかったけど…あがる咆哮と共に放たれるブレスにあっという間に包まれて機体共々木っ端微塵…近付く事さえ…出来なかった。
『オーディアス級航空母艦三番艦ウォルポール』
全長284メーター、搭載機数最大50機の大昔に建造された今尚動く艦の一つ。
現代では搭載する機体も十数機まで減っており、本艦の性能もまた満足に発揮出来ていない。
武装は、重機関銃×6、30mm単装機銃×4、ミニガン複数基で、自動防衛システムのバルカン砲もあるものの今では機能していない。
艦全体をアンチマジックコーティングで覆っていたが、ニーズヘッグの攻撃には耐えられなかった。
『AMAS-02f エキュレイユ』
全高8メーター、艦搭載専用に開発された(A型)機械兵。
飛行、旋回能力と機動性に長けており、兵達から地上配備を願う声も多かった。
武装はEライフル、プラズマソード、予備兵装でシールドとロングレンジライフルも用意していた。
『ニーズヘッグ』
討伐レベル?
ステータス?
全長500メーターを優に越す巨体を持つ蛇型の海竜。
大昔にはレヴィアタンと殺り合っていたが、敗北後はイタズラに世界樹の根を齧る日々を送っていた。
現在ではその頃に出会った者と共闘して地上の海へ舞い戻ってきている。