01 白狼〜ホワイトファング〜
基本、一話完結型のバッドエンドです。
皆様の暇つぶしとなれば幸いです。
転移者、22歳、男
前世の死因、事故死
痛い…痛い、痛い!痛い!!痛い!!!
「なん…で…こんな、はず……あるわけ…」
視線を落とした先には俺の右腕が転がっている。
朦朧とした意識の中、数時間前の事が頭に浮かんでいた。
〜数時間前〜
俺は死んだのか?
真っ白な光りに包まれた空間に眩しさを覚えながら目を開くと。
「命を投げ出してまで見ず知らずの子を助けた貴方の勇気を讃えます」
長い黒髪をなびかせ、誰もが美しいと思うだろう美貌と透き通るような声の持ち主が話しかけてきた。
「あ〜、歩道に突っ込んできたクルマから男の子を庇って…」
「はい、貴方のおかげと言っては何ですが、あの子は命に別状はありません」
「それなら良かった…けど、アナタはどちら様ですか?」
「紹介が遅れました。私はリヴトートと申します。一応、神をやっております」
目の前の美人は神を名乗った。
この空間にクルマに跳ねられた記憶、別段驚く事ではないのだが。
「何故神様が俺の前に居るんですか?」
と、素朴な疑問が生まれた。
「それは貴方に選択をしてもらう為です」
「選択?何を?」
「善行と勇気を讃え、今とは異なる世界に転生か転移の選択を授けます」
女神はそう言って俺に細かな説明をしてくれた。
ようやくすると、モンスターと魔法が存在する世界に送ってくれるらしい。
転生は人生をその世界で一から、転移は今の姿のまま(もちろん轢かれた後の身体じゃなく健康そのものの肉体で)だとかで第二の人生を送らせてくれるみたいだ。
「その際は今の世界での輪廻から外れてしまいますが」
選択しない場合はそのまま死の世界へ行き、輪廻転生を繰り返すと。
まだやりたい事もある若い身だ、ならば第二の人生を謳歌しようと告げる。
「それからこちらを」
「これは?」
女神から3枚のカードを渡された。
カードにはそれぞれ「魔法」「剣」「知恵」と書かれており、受けとるや否や光の粒子になって体へと吸い込まれていった。
「今のは一体」
「貴方に力を授けました。適性がある魔法を自在に操れ、絶対に折れない剣と力、別世界の言語と鑑定を行う力を習得しました」
「特典ってやつですか」
「私のお気持ちです。それで転生と転移どちらを選びますか?」
これだけあれば俺の答えは決まった。
「転移で!」
「わかりました。貴方の次なる人生に神の加護を」
「はい!有難うございます」
眩い光りに包まれて瞼を閉じる。
頬を撫でる風、鳥のさえずり、緑の匂いを感じて目を開けると、そこには緑豊かな自然が広がっていた。
「むしろ森の中だな」
どうやら俺の再スタート地点は森のようだ。
「轍もあるし、街道だろう。取り敢えずこの道を歩いて行くか」
腰には貰った剣をぶら下げ、道端の木に生っている果物に鑑定スキルを試して一人ではしゃぎながら歩を進めていた時、それは現れた。
「白い狼…モンスターか?鑑定発動」
『ホワイトファング 討伐レベルD』
下に落ちている何かを夢中で貪る立てば俺位の大きさがありそうな一匹の白狼。
街道にモンスターが出るんじゃこの世界の住人はどうしてるんだと疑問に思いつつ、剣の柄を握り鞘から引き抜く。
「モンスター…Dがどのくらいか分からないが」
先手必勝。
俺は剣を構えながら駆け出して行く。
白狼もまた、足音が聞こえたからなのか、食事を止めてコチラを振り向いた。
「初戦闘の相手になってもらうぞ!」
白狼の目前、振りかぶった剣を叩きつけようとした瞬間、俺は見てしまった。
ソイツが食べていたモノ、者、人…既に息絶えているであろう人であった肉片を。
「ひぃ…」
一瞬、多分一瞬だ…怯んだその一瞬に白狼は俺の足に牙を立て、そのまま食い破ったのだった。
声にもならない悲鳴をあげてその場に倒れ込む。
「ぃぎゃぁぁぁぁっ!! 熱い!痛い!!」
剣を放り投げ千切れた太ももを必死に抑え込んでいると、白狼が増えている事に気が付いた。
口の周りを紅く染めている一匹の後ろにもう二匹がゆるりと近付いて来ている。
「止め…て、来るな!来るな!」
尻もちを付きながら必死に腕を振るい後付さりする俺。
先頭の白狼が一言あげると、猛スピードで飛び掛かる他二匹。
それを目を瞑ってやり過ごす事しか出来ず、次に目を開けた時には突き出した右腕は宙を舞っていた。
「なんで…なん…で、神…様の…力…は…」
はみ出た内臓を咀嚼する音と共に意識が遠ざかって行くのを感じてた。
『ホワイトファング』
討伐レベルD
体力E 攻撃力D 速力C
全長1、8メーター程の白い狼。
一匹一匹は大した力は無いが、基本3〜8匹の群れを成して行動している為に厄介さが増している。
討伐レベルCは、戦闘のプロでなければ退治が難しいモンスターと定義されている。
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