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再びアストリア王国へ

 健太が転送から戻り、自室のソファで缶ビールを傾けていると、テレビ画面に映るアストリア王国の王都では突如として現れた大量の高品質な食料に人々が沸き立っていた。王都郊外の森からやって来た謎の男によってもたらされた食料は尾ひれが付いた謎の男の噂と共に瞬く間に市民の間に広まり、飢餓に苦しんでいた人々は歓喜に沸いた。


『アストリア国王は、この奇跡的な食料の出現を「神の恵み」と称し、全国民に感謝の祈りを捧げるよう命じました。しかし、一部の貴族からは、他国の陰謀ではないかと疑う声も上がっています。』


音声ガイダンスの声が響く中、画面には国王が神殿で祈りを捧げる姿が映し出された。健太は自分の気まぐれやったことが一国の王を動かしてしまうような大きな影響を与えるとは思ってもみなかった。神の恵み、陰謀…どちらも彼にとっては無縁の言葉だ。彼はただ、目の前の人たちが飢えて苦しんでいるのを見ていられなかっただけなのだから。


健太は、自分が持っている無限の食料が、このアストリアという国ではどれほど価値があるものなのかを改めて実感した。そして、この力をどう使うべきか考え始めた。食料を届けるだけでは、根本的な解決にはならない。アストリア王国が抱える食料不足は、魔物の襲撃による耕作地の荒廃と、物流の停滞が原因だと音声ガイダンスは伝えていた。


「食料を定期的に供給できれば、一時的には助けられるけど、それではまた同じことの繰り返しだ…」


健太は、より持続的な支援の方法はないかと、頭を悩ませた。


 その夜、健太は自室でくつろぎながら、改めてこの家の能力について考えを巡らせていた。食料の無限供給、転送能力、そして『認識しました。主の安全を確保した上での外部との交流を検討します』という、まるで彼の思考を読み取ったかのような音声ガイダンス。


そのような経験から健太は、どうやらこの家は、本当に自分の意志に応じて進化し新たな能力を発現させているということを確信した。


「この家は俺の意志に応えて進化する…上位存在…」


健太は、以前頭に流れ込んできた情報について思い出した。彼にこの途方もない力を与えたという「上位存在」とは一体何者なのだろうか。しかし、今はそのことを考えるよりも、この家の能力を最大限に活かす方法を模索することの方が重要だ。


翌日、健太はテレビ画面に「アストリア王国・王都郊外の森」と表示されているのを確認し、さらに詳細な情報を求めて心の中で「転送先、その他詳細」と念じた。すると、画面に新たな情報が表示される。


『転送可能地点:アストリア王国・王都郊外の森(安全度:高)、王都城下町(安全度:中)、王都・王宮(安全度:低)』


「王都の城下町にも転送できるようになったのか…」


健太は驚いた。安全度が「中」ということは、多少の危険はあるものの、結界があれば何とかなるかもしれない。しかし、王宮は「低」…結界があってもさすがに危険なのではないだろうか。


そして、その下に別の文字が追加されていた。


『アイテム生成:主の望む物品を生成します。生成にはエネルギーを消費します』


 健太は目を見開いた。 アイテム生成? これまで漠然と「この家は無限の食料を供給できる」と考えていたが、食料以外のものも生成できるというのか?


「まさか…食料だけじゃなくて、色々なものが作れるってことか?」


健太は興奮を隠せない。食料だけでなく、医療品や工具、あるいは武器のようなものまで生成できるとしたら、アストリア王国を根本的に救う手立てになるかもしれない。


「試しに…」


健太は心の中で「水筒」と念じてみた。すると、彼の目の前に、真新しいステンレス製の水筒がポンと出現した。健太はそれを手に取り、じっと見つめる。ごく普通の水筒だ。


次に、「医療キット」と念じてみると、救急箱のようなものが現れた。中には消毒液や包帯、痛み止めなどがきちんと揃っていた。


「すごい…本当に何でも生成できるのか…」


健太は、この能力の可能性に打ち震えた。



 食料不足は、王国の軍事力にも影響を与えているはずだ。兵士たちが十分に食事を取れなければ、魔物の襲撃に立ち向かうことも難しいだろう。健太は、食料をただばら撒くのではなく、より戦略的に利用することを考えた。


まずは、定期的な食料の供給だ。前回同様、王都郊外の森に食料を届けつつ、今回は種類を増やしてみよう。そして、次に必要になるのは、病気や怪我で苦しむ人々への支援だ。


健太は、食料に加え、生成した医療キットを大量に準備した。そして、もう一つ重要なことを思いついた。言葉の壁だ。前回は身振り手振りでなんとか意思を伝えたが、それでは不便すぎる。


「翻訳…翻訳機なんかは生成できないか?」


健太がそう念じると、テレビ画面に『翻訳機能:主が接する言語を瞬時に理解し、翻訳します』と表示された。


「マジで万能かよ!」


健太は歓喜した。これがあれば、現地の人間と直接コミュニケーションが取れる。


 数日後、健太は再びアストリア王国へ行くことを決意した。今回はもちろん、前回よりも多くの食料と医療品、そして「翻訳機能」を携えてだ。転送先は前回と同じ「王都郊外の森」だ。────村や王都に突然転送されたら大騒ぎになっちゃうしな。


結界が展開される中、健太は周囲を見渡す。前回と同じ場所だ。


リュックサックを下ろし、中に詰まった大量の食料と医療キットを確認する。そして翻訳機能が有効になっていることを確認し、健太は森の奥へと足を踏み出した。


前回食料を届けた村に近づくと、人々が健太の姿に気づき、ざわめき始めた。警戒する様子はなく、むしろ期待と喜びの表情を浮かべている。


一人の老人が健太の元へ駆け寄ってきた。彼は前回食料を受け取った老人だ。老人は深々と頭を下げ、そして健太の耳には明瞭な日本語が聞こえてきた。


「おお、再びおいでくださったのですか、神のご加護を!」


健太は驚いた。翻訳機能が正常に作動している。


「ええ、また来ましたよ。皆さんの食料が足りているか心配で。」


健太が答えると、老人はさらに感激した様子で涙を流した。


「飢えはもう大丈夫です。あなた様がもたらしてくださった食料のおかげで、皆生き永らえることができました。本当にありがとうございます。」


健太は安心した。そして、今回の目的を伝えるため、老人に語りかけた。


「今回は、食料だけでなく、皆さんの傷や病気を治すための薬も持ってきました。もし、具合の悪い方がいれば、遠慮なく言ってください。」


老人は目を見開いた。


「薬まで…!あなた様は本当に神様の使いなのでしょうか…!」


老人の言葉に、周囲の人々もざわめき、健太を見る目がさらに尊敬の念に満ちたものに変わった。


 健太は持参した医療キットを使い、怪我人や病人の手当てを始めた。慣れない手つきではあったが、消毒や包帯の交換、薬の投与など、できる限りのことを行った。人々は健太の手当てに感謝し、その温かさに触れていくうちに、次第に健太への信頼を深めていった。


手当てを終えると、健太は再び食料を配り始める。今回は米やパンや肉だけでなく、缶詰や野菜、それに果物なども用意した。


「これなら、しばらくは持つはずだ」


健太は、彼らが喜んで食料を受け取る姿を見て充実感に包まれた。

それからしばらく経ち結界の持続時間が残り少なくなった頃、老人が健太に語りかけた。


「あなた様…もし差し支えなければ、あなた様のお名前を教えていただけませんか?」


健太は少し迷った。自分の素性を明かすべきか。しかし、この人々の信頼に応えたいという気持ちが勝った。


「俺は、健太です。ただの、しがない一般人ですよ」


健太がそう答えると、老人は深々と頭を下げ、周囲の人々も健太の名を口々に唱え始めた。


「ケンタ様…ケンタ様…」


その声は、まるで祈りのようだった。健太は、自分の行動が人々に希望を与えていることを改めて実感した。

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