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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第3章 「違う。私の願いはそうじゃない。」
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第八十七話 「悩める若者たち」

「どうしたのみんな?道中の魔物は私が何とかするから、早く行こうよ。」


 私はあくまでも平静にみんなを誘った。けれど、誰一人私に応えてくれない。


「なになに?…あ、そっか!カイルは連れていけないんだっけ!ポラル君に約束破られちゃったからなあ!でも、カイルを一人だけで帰すのは可哀想だし…。そうだ!私もカイルと一緒に下山するよ!だからみんなは、ポラル君と一緒に操魔族の里に行ってきてよ!」


 みんなが何も言ってくれない理由は分かってる。それは、私がイカれているように見られているからだ。でも今更だよね。もう取り返しはつかなかくなっている。


「クレア…。」


 エリスが小さく私の名を呼んだ。哀れみを含んだ悲しい目。やめて、そんな目で見ないで。こうなることは分かっていたけど、私はまだ、みんなから嫌われることを恐れている。


 今度はカイルが口を開いた。けれど、私に答えるのではなく、カイルはアースの方を向いて話しかけた。


「アースさん。ここはクレアの言うとおりにしましょう。僕とクレアで、これから下山します。」


「ああ、そうだな。このバカを連れて、先に【セティア村】へ向かっていろ。用を済ませたら、俺たちも後から追う。」


「はい。」


 セティア村とは、クレアたちがデビルズ山脈に向かうことを決定する前に、アースとカイルが考えていた次なる目的地のことである。


「悪いな坊主。怖い思いをさせてしまったが、俺たちを里に連れていってくれないか?このお姉ちゃんとお兄ちゃんは、一緒には来ない。」


「う、うん…。」


 ポラルは戸惑いながらも、小さく頷いた。


「ありがとうな。俺たちは本当の事を知りたいんだ。坊主の言っていることが本当なら、もう争う必要は無くなるかもしれない。」


 アースのその言葉に、ポラルは少しだけ喜びが戻った。


「そういうことだみんな!ラナリーアとエリスは俺について来い。あとウィルドもだ。」


 アースが全てを取り決め、私たちを突き放した。思うところはたくさんあるけれど、私の意見が通っちゃってるわけだし、何も言えなかった。それに今は正直、みんなと一緒に行動したいとは思えない。


「ちょっと待って!私もクレアと行く!」


 話が纏まりかけたと思った矢先、エリスが声を上げた。なんで?今の私について行きたいとか、ありえないでしょ。こんなになった私でも、一緒にいたいと思ってくれているエリスに私は嬉しいと思うけど、今は一緒にいては駄目な気がする。


「駄目だ。エリスは俺について来い。」


 そうだ。アースの言うとおりだ。


「どうして?私はクレアと一緒にいたいから村を出たの!クレアがいないなら、操魔族の里に行く理由なんて私の中には何一つないよ!」


「それでもだ。今のクレアはカイルに任せて、エリスは俺について来い。さっきも話したが、クレアたちとはセティア村で合流する。悪いが少しの間、我慢してくれないか?」


「ったく…。分かったわよ…。」


 アースから頼み込まれるようにお願いされたエリスは不貞腐れながら、急にバッグを地面に下ろして中身を漁り始めた。そしてエリスは、中から見覚えのある気色の悪い丸薬を一つ取り出し、私に向けてきた。


「はいこれ。」


「あ、ありがとう…。」


 私は素直に丸薬を受け取った。エリスはその後、バッグを背負い直してアースのもとに歩いて行った。


「クレア。お願いだから、自分を見失わないで。」


 エリスは私に背を向けて、最後にそう言った。けれど私は、何も返事をすることができなかった。



 エリスたちと別れて、私はカイルと2人きりで下山した。暗い山道を、魔法の光で照らしながら進んでいく。私たちは今、セティア村へ向かっている。だから、来た道をそのまま戻っているわけではない。


 セティア村はエルヴァ村に次ぐ大きな村らしいが、カイル曰く、14年前の戦争で、連合軍側の総隊長がいた村なのだという。もちろん、その彼は14年前の戦争で命を落としているので、今は亡き人物である。


 さて、アースとカイルがなぜ、次の目的地にセティア村を選んでいたのか、という話である。これはカイルも初めてアースから聞かされたそうなのだが、セティア村にはあのアークトリア騎士団の団長レンドルートが、度々足を運ばせに来る村なのだそうだ。すなわち、セティア村に居座ってレンドルートの動向を探ろう、というのが、今回の魂胆である。ところで、レイナはもういいのだろうか。


「クレア。さっきは僕を庇ってくれてありがとう。」


 小さな光だけが私たちの足元を照らす暗い山道で、カイルから唐突に礼を言われた。


「私おかしかったよね。自分でも分かってるの。」


「うん…。でも、クレアは最後まで僕の味方だった。態度がどうであれ、僕は嬉しかったよ。それに、あれがクレアにとっては不本意だったことも、僕は知ってる。」


「ふふ。カイルはやっぱり優しいね。まだ私に、救いの道があるとでも言ってるみたい。」


「僕が一つ、クレアの心を読んであげようか?」


 何の脈絡もなく、カイルが私に微笑を向けてきた。いつも無表情のカイルが、珍しく笑っている。私は少しドキッとした。それは心を読まれる緊張感からではなく、優しい目が私に向けられていたからだ。


「急にどうしたの…?今の私の心は、きっと汚いよ?」


 私もカイルと同じように微笑を浮かべ、意地悪く返事をしてみた。しかしカイルは何一つ動じることなく、私の目を見て、こう言ってきた。


「クレアは間違いなく、僕のことが好きだ。」


「はっ!?!?」


「僕だけじゃない。エリスのことも、ラナリーのことも、アースさんのことも、クレアは絶対みんなのことが好きだ。」


 なんだ…、そういうことか。できれば、後の話もまとめて一つにして欲しかったな。顔を赤くした私が、バカみたいではないか。


「どうだい?当たっているだろ?」


 カイルが微笑を作り直して、またも私を見つめてくる。心を読むなんていう大袈裟なことを言ってくるものだから、もっと痛いところを突いてくるのかと思っていた。これでは正直、拍子抜けもいいところだ。


 気づけば、私は小さく吹き出し始めていた。


「当たりよカイル…!私はみんなのことが好き。でも、今日できっと嫌われちゃったよ。アースからはバカって言われちゃったしね…!」


「僕は好きだよ。」


「っ…!?」


 何でこの青年はそんなことをさらっと言えるのだろうか。いや、それが仲間としての意味だということは分かっているけど、いくら何でも私にそれは効き目が強すぎる。


「アースさんはああ言ってたけど、クレアを嫌いになったとか、見損なったとか、そんな風には一切見えなかったよ。あんなに感情を露わにしたアースさんは久しぶりに見た。」


「それはどういう意味?」


「それを自分で考えてご覧。」


 まただ。カイルはいつも肝心なところで答えをあやふやにする。別に私は、何も間違ったことは言っていなかったと思う。強いて反省点を挙げるなら、ポラル君を怯えさせてしまったことだろうか。あれは確かに、やり過ぎたかもしれない。


「みんなは決して、クレアの意志を嫌がったんじゃないんだ。言葉と態度はね、常に表裏一体なんだよ。これが矛盾すると、人は壊れたように映ってしまう。」


「難しいよカイル。」


「まあ、僕もエリスに言われてからずっと悩んでいて、さっき気づいたんだ。きっとクレアは、さっきまでの僕と一緒だよ。」


 アースの推測から始まって、カイルが最初に疑われ始めた時か。


 ――仮にそうだとしたら、僕はとんでもない疫病神だね。


 ――そうかもしれないって話をしているのに、どうしてそんなに悠長な態度でいられるの?


 あの時のカイルが、今の私と一緒?それでカイルは、もうすでにその答えに辿り着いたというの?


「エリスはそういうところをすぐに見抜いてくる。本当に凄いよ。」


「まあね!」


「いや…、何でクレアが誇らしげなんだ?」


 カイルから突きつけられた難問を、私はすぐに答えを導き出せそうにはなかった。けれど、答えを探してみようとは、少なからず思えた。


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