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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第3章 「違う。私の願いはそうじゃない。」
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第七十七話 「はじめての精霊魔法」

ここから第3章です。

本章では操魔族とナイトフォールを深掘りしていきますので、よろしくお願いします!

 小さく灯る月光草のランタンが、不気味に一室を照らしている。場所はアークトリア帝国。


「クレア・バース…。」


 破魔魔法部隊隊長のモーゼは、その名を呟きながら眉を顰めた。


「フェンリルを倒して、操魔族を一体殺したか。これは信用の崩壊だな。大丈夫なのか?」


「問題ない。奴らは賢いが馬鹿だ。お前を縛って連れてくると言ったら、まんまと信じてその気になったぞ。それにもう頃合いだろ。次の会合で、奴らの根城を吐かせる。」


 モーゼの会話の相手になっているのは、アークトリア騎士団団長レンドルートである。その他には誰もいない。小さな密室で、誰にも聞かれてはいけない秘密の会話が、静かに繰り広げられていく。


「おいモーゼ。俺にウィルドを貸せ。あいつの《幻影魔法(ファントム)》で、操魔族を欺く。」


「それはいいが、そのあとはどうする?」


「用が済んだら殺すさ。別に構わないだろ?」


 一点の曇りもないレンドルートの容赦ない発言に、モーゼは小さく含み笑いを見せた。


「ウィルドには俺から言っておく。それよりオーディエント。クレア・バースという名に、何か引っ掛からないか?」


 真名で呼ばれたレンドルートは、その問いにやや記憶を遡る素振りを見せた後、ゆっくりと答えた。


「【ラインズ・バース】の娘とでも言いたいのか?仮にそうだとしても、ありえないだろ。その妻【カレンデュラ・ストーン】が子を身籠ったのが16年前。お前がその夫婦を殺したのが14年前。いくら何でも、意思を引き継げる年数じゃない。」


「そいつが今、お前が見込んだ男アース・ラドガルドと共に行動しているのは、ただの偶然か?」


「知るかよ。考えすぎだろ。」


 軽くあしらったレンドルートではあったが、その心内はあまり穏やかではなかった。その時、微かに揺れた月光草の灯りが、まるで2人の懸念を、沈黙の中で募らせていくようであった。




「おい。ちゃんと誠意を込めて謝れよ?じゃなきゃ、お前の杖を次の野営で火に()べるからな。」


「分かった…、分かったよ…!」


 私たちは地下遺跡を出た後、一旦エルヴァ村へと戻って来ていた。戻ってきた理由は様々あるが、第一にウィルドを村の全員に謝らせたい、というラナリーちゃんの強い想いが一つあった。だから今、こうして私たちはエルヴァ村の村長さんのお宅の前で、仰々しく並んでいる。


 そしてもう一つは、月光草の調達だ。死活問題をいち早く脱するべく、レクト樹海から最も近いここエルヴァ村で大量に買い付けようと戻って来たのだ。


 あ、ちなみにテング戦の時に使っていた閃光弾の数は残り一つになっていたが、結局帰りの道中で遭遇したテングとの戦いで、閃光弾の出番はなかった。それは何を隠そう、帰りに出会(でくわ)したテングは全て、私の蓮巌(れんがん)魔法でやっつけてみせたのである。


 時は昨日にまで遡り、レクト樹海でテングと遭遇する数分前。


「よいか?蓮巌魔法は他の精霊魔法と比べて、一線を画す力があるんじゃ。」


 私は皆と少し離れた後方を歩きながら、地の精霊(ノーム)と会話していた。もちろん、地の精霊(ノーム)は杖に宿ったままだ。


「一線を画す力?」


「そう。この魔法はあらゆる自然の物体に干渉することができる。」


 ん〜。何か難しいことを言ってない?


「まあ、おぬしは頭で整理してから実行するタイプではないじゃろうし、試しにイメージしてみろ。どの木でもいいから、新たに枝が生えてくる様を、頭で思い描くんじゃ。」


 木から新たに枝が生えてくるイメージ?そんなのほぼ超常現象じゃない。


 まあ、やってみようか…。私は半分心で笑いながら、その可笑しな現象を妄想した。ニョキニョキニョキ…。ニョキニョキニョキ…。今にも笑いが吹き出してしまいそうなイメージを頭で膨らませていると、突然地の精霊(ノーム)の声が頭に響いた。


(今じゃ、唱えよ。)


 それは、私の意思であり私の意思ではないような感覚だった。


「《蓮巌・樹枝創魂(じゅしそうこん)》!」


 杖をバッと前に突き出して、私は魔法を唱えた。すると、私がイメージしていた大木から、ニョキニョキと枝が生えてきた。実に細く、その大木とは明らかに似合わない小さな枝が、まさにその瞬間、新たな生命の息吹として、そこに生まれた。


「ま〜じか…。」


 私は呆気に取られて、自分の魔法で生み出したその小さな枝を、ポカンと眺めた。


「何じゃあの弱々しい枝は?舐めとんのか?」


「うっさいわね!は・じ・め・て・なのよ!!」


 大きく顔を赤らめて、私は反発した。気づくと、みんなは遥か先まで進んでいて、私は1人置いて行かれてしまったようだった。


「みんなー!置いて行かないでー!」


 私は足早に駆けていくと、何やら全員が一本の大木を見上げて静止していた。目線の先には、やはりテングが一体、腕を組んで太い枝の上に立っていた。


「何してたのクレア?早く《防御魔法(バリア)》と《希望の煌紐(リヒト・バインド)》の準備をして!」


 エリスが閃光弾を握り締め、テングを見つめながら言う。


「いや、ちょっと待って。ここは私だけにやらせてくれない?」


 自信ありげにそう言う私を、みんなはテングそっちのけでこちらに振り向いてきた。きっと今までだったら、何言い出してんだこいつ?みたいな表情で私を見てきたかもしれない。でも、今の私は一味も二味も違う。みんなの表情からは、信頼を感じられる。


「生まれ変わった私の力、ちゃんと見ててね!!」


 威勢よく言い放って、私は前に出た。杖を構え、テングを睨む。そして、テングとの一対一が始まった。


 テングは樹海を飛び回り始める。木から木へ移り渡る時に、八手を振って真空の刃をこちらへ放ってくる。ずっと見てきた、何も変わらないテングの動きだ。


 私は真空の刃を《防御魔法(バリア)》で防ぎながら、テングの行方を目で追っていく。今までの私なら、ここでお手上げだった。あのテングの速さに、私の《希望の煌紐(リヒト・バインド)》は届かない。でも今は、蓮巌魔法がある。


 ひょいひょいと木から木へ飛び移っていくテングに目が慣れてきたところで、私は勝負に出た。


「《蓮巌・樹枝創魂(じゅしそうこん)》!」


 私はテングの着地に先回って、大木から2本の枝を生やした。空中を飛び回っているテングは、着地先に私が生やした枝があることに全く気付いていない。


「からの〜!!」


 続けて私は、その枝を自在に操り始めた。テングの着地を捉えたその2本の枝が、ぐるぐるとテングを巻き付き始める。両足から伸びていったその枝は、まるで蔓のようにテングの全身を絡め取った。


「格好の的だね!《創造石の多弾(ジェム・ストーム)》!!」


 枝に巻き付かれて身動きが取れなくなったテングを、石の弾幕が見事に蜂の巣にした。


 くぅぅ〜〜決まった…。


 戦闘中に言ってみたかった台詞ナンバーワンを、私はこの瞬間に達成した。


 あ。ちなみにトドメで《創造石の多弾(ジェム・ストーム)》を選んだのは確実性を求めたからである。カッコつけておいて、トドメの蓮巌魔法を不発させちゃったら恥ずかしいからね。


「まあ、初めてにしては上出来じゃな。」


「でしょ?私やればできるのよ。」


「何を言っておる?こんなの完勝して当たり前じゃ。森林での戦いにおいて、蓮巌魔法の右に出る奴はおらん。」


「何それ?最強じゃん?」


「最強じゃ。」



 とまあ、こんな具合で帰りのレクト樹海は、難なく突破してきたのである。


クレアが地の精霊と契約することは初期設定から決まってましたが、弱いクレアに愛着が湧いたせいで、正直強くなってしまったクレアに少しだけ虚しさがあります…

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