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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第2章 「助けて。誰でもいいから私を認めて。」
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第七十五話 「クレアvs地の精霊 契約」

 私はまだ、実感が追い付いていない。この私が、誰の力も借りず、一人で地の精霊(ノーム)に…。


 沸々と湧き上がってくる興奮が、ようやく私の喉元まで来た時、突然視界が暗くなった。


「クレア!!」


 エリスの声が、耳元で聞こえる。温もりを、感じる。


 そうか。ここはエリスの胸の中か。柔らかな温もりが、私を包んでいる。勝ったんだ、地の精霊(ノーム)に。これで私も、また一歩立派な魔女に近づいたかな。


 そして、私を強く抱きしめていたエリスが、ようやく私を解放してきた。視界が開け、辺りを見渡す。するとなぜか、全員が私を見下ろしていた。


「まったく!カッコつかねーな!」


 ラナリーちゃんがニシシと笑いながら、腰に手を当てている。私はまだ、体の半分が砂の中に埋まっていた。


「ちょっと…!早く引っ張って!!」


 プライドなんか吐き捨てて、私は大きくバンザイをしながら駄々をこねた。大きなカブになりきって、みんなに引っ張り出してもらう。結局最後はみんなに助けてもらっちゃったけど、これは良いよね。


「あの状況から、まさか自身を省みない打開の手を打ってくるとはの。ピンチはチャンス、とはよく言ったものじゃな。」


 地の精霊(ノーム)が微笑を浮かべながら、最後に私の下へと歩み寄ってきた。地の精霊(ノーム)の次なる発言に、全員が注目する。


「さて、約束じゃ。ワシを打ち負かした身として、おぬしと契約してやろう。」


 来た…!私はゴクリと唾を飲み込んだ。


「憑代は無論、おぬしの杖。ユグドラシルの杖じゃ。それ以外はワシは認めんからの。」


『!?!?』


 誰しもが予想していなかった地の精霊(ノーム)の発言に、全員が声を詰まらせて驚いた。


「あはは。なんか私の杖、そういう名前みたい。」


 私はテキトーに愛想笑いをした。だって私も、今日知ったのだから。大体ユグドラシルの杖って何?凄いの?凄いんだったら今頃私は大魔法使いでしょ。認めたくはないけど、そうはなっていないのだから、どうせこの杖は別に凄くはないんだよ。


「ほー!儂も本物を見るのは初めてじゃ!長生きはするもんじゃのう!」


 ゼフィロさんから、甲高い声が漏れ出す。


「どれ?セレシアよ?おぬしなら見分けがついていたんじゃないのか?昔から興味があったじゃろ?」


 唐突に振られたセレシアに、皆の視線が集まる。すると、セレシアは何かを誤魔化すような、引き攣った苦笑いを浮かべて答えた。


「い、いやいや!!私も今初めて知ったわ…!へぇ…!その杖がユグドラシルの杖だったなんてねえ!」


 ん?明らかに様子がおかしい。


 私は何かを疑うような視線で、セレシアをまじまじと見つめた。目があった途端に、戯けた態度で目を逸らす。


『あ!』


 その瞬間に、私とカイルの声が偶然にも重なった。ようやく思い出したのだ。あれは、アーセント村で受けたセレシアの試練だった。


 ――杖を置いて失せな。


 酒場で言われた、男のセリフ。


「セレシアさん…?あなた、まさかあの時…」


 すると、魔女セレシアは、光の速さで頭と膝を地面に着けた。


「ち、違うのよ!勘弁して!ちょっと脅かしてほしかっただけなのよ!」


 謝罪の姿勢には誠意が込もっているように見えるが、並べられた言葉には言い訳しかない。私はあえて何も言い返さず待っていると、セレシアが恐る恐る顔を上げて語を繋いだ。


「で、でも…!あの後ゲラルドが死んだって聞いて、私凄い罪悪感に襲われたのよ!?それに、約束どおり《吸収魔法(ドレイン)》だって教えてあげたじゃない!」


 セレシアの言い分を要約すると、私も辛い思いをして、約束まで守ったのだから許してほしい。つまりは、そういうことだろうか。


「ねえセレシアさん。私はあの時、間違いなく命を狙われた。あれは、脅しじゃなかったよ。」


 私はなるべく優しい口調で、静かに告げた。情が移ったわけでは断じてないが、あの出来事のおかげで、得られたものがあったのも確かだ。だから、咎めるようなことはしたくない。感謝、とは少し違う。


 セレシアのうるうるとした瞳が、まだ私に向けられている。あざといな!と思いながらも、私はこれ以上言いたいこともなかったので、カイルにパスした。


「クレアが許すなら、僕もそれでいいよ。」


 許す、というのも少し違う気がする。この気持ちを、言葉で表すのは非常に難しい。それでもなんとか捻り出して、簡単にまとめるならば、「目には目を歯には歯を」という考え方が、単に私の性分ではないからである。


「そろそろいいかの!!」


 地の精霊(ノーム)が痺れを切らして、不機嫌そうに声を発した。どうやら、少しばかり皆を置き去りにしてしまったようだった。


「ええ。ごめんなさい。」


「では、杖をワシに向けよ。」


 私は言われたとおりに、杖の先を地の精霊(ノーム)に向けた。これから、何が起こるのだろうか。期待と不安が大きく絡み合いながら、地の精霊(ノーム)が杖の先に触れる。


 そして、地の精霊(ノーム)から目を閉じるように促され、静かに契約の儀が始まった。


 杖を通じて、何かを感じる。不思議な感覚だ。でもこれは、初めて私が魔法の発現に成功した時の感覚によく似ている。決して強くはない、微弱な力が全身に流れ込んでくるような。


 ……!?


 突然、私の頭に一つの単語が響いた。声を聞いたわけでも、文字を見たわけでもない。それは何の前触れもなく、けれど至って自然に、私の中に定着してきた。


 ――【蓮巌(れんがん)


 それが、私の精霊魔法の名前である。


 私はまだ目を瞑っているが、最早開かずとも分かる。地の精霊(ノーム)は既に私の杖に宿っていて、この場にはいないことを。


 私は(かつ)てないほどの興奮を、今胸に抱いている。それでも歓喜の声が湧き上がらないのは、これが嘗てないほどの興奮だからであろう。


 ゆっくりと目を開ける。地の精霊(ノーム)の姿はやはり無かった。


「これでお嬢ちゃんも、大魔法使いの仲間入りじゃな。」


 精霊契約完了後の第一声。ゼフィロさんが何やら、とんでもない発言をしたように聞こえた。私の聞き間違いでなければ、大魔法使いと言っていた。大魔法使いのゼフィロさんが、私のことを大魔法使いと言っていた。


「何じゃその腑抜けた顔は?もっと自信を持たんかい。」


「は、はい…。私、大魔法使いなんですか?」


 私は自分に指を差し、やはり腑抜けた顔でゼフィロさんに尋ねた。


「精霊魔法使いを大魔法使いと呼ばずに、何と呼ぶんじゃ?四大精霊はこの世に4体しかおらんのじゃぞ?」


 いや、それは読んで字の如く、そうであろう。しかし、いざ大魔法使いと呼ばれてしまうと、恐れ多くて萎縮してしまう。照れなんていうものは、微塵も湧いてこなかった。


「ねえねえゼフィロさん。ひとつ聞いてもいい?」


「何じゃ?」


「私の地の精霊(ノーム)、ゼフィロさんの風の精霊(シルフ)、それから今だとレイナの火の精霊(サラマンダー)。四大精霊のうち3体は誰かに宿っているけど、水の精霊(ウンディーネ)は今どこにいるの?」


 それはただ、純粋な好奇心から生まれた質問だった。


水の精霊(ウンディーネ)はのう…。」


 辛い思い出を掘り返してしまったかのように、ゼフィロさんが俯いた。ずっとずっと明るく振る舞っていたゼフィロさんだからこそ、余計にその表情が重く感じられる。何か配慮に欠けてしまったのだろうか。


「おいおい。その質問はこの爺さんにはちと酷だと思うよ。」


 しんみりとした空気を破ったのは、ウィルドだった。


「どういうこと…?」


 やめろ…。これはたぶん、これ以上聞いちゃいけないことなんだ。それなのに、私はウィルドに問い返していた。


次回、第二章の最終話です。

ここまでありがとうございました!引き続きよろしくお願いします!

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