第七十四話 「クレアvs地の精霊 決着」
絶対に逃がさない。私は極限の集中力を発揮し、地の精霊を追い詰める。
「どうしたの!また地中に潜らないの!?…あれ?もしかして私の魔法に逃げることに精一杯で、それができないのかしら!?」
私は地の精霊を挑発し、自分の推測が正しいのかを確かめにいく。
「悔しいがそのとおりじゃよ。…ったく、ワシを小馬鹿にしおって。」
まさか、正直に言ってくるとは思わなかった。杖を持つ手の握力が、無意識に強くなる。戦いの中で見出した地の精霊の抜け穴。これで決めないと、また地の精霊の一方的な攻撃に見舞われてしまう。
しかし、私の《希望の煌紐》は、一向に地の精霊を捕らえることができなかった。間違いなく、追い詰めてはいる。あと一歩、あと一歩。それが何度も繰り返されていく。
地の精霊は最早、人の動きではない。ただ単純に速い、というのとは少し違う。まるで、私がどのタイミングで光の紐を絡めにいくかが分かっているかのような、一点読みの動きをしてくる。
「あれじゃあ、いつになっても捕まえられねーよ。馬鹿だろあいつ。」
ギャラリー全員が息を呑んで見守る中、ウィルドが唐突に口を開いた。緊張感を台無しにしたその発言に、ラナリーの横蹴りが炸裂する。
「いてっ!」
「うっせーよ!じゃあてめぇだったらどうすんだよ!?」
「僕だったらこの最中に、さっきの石の魔法を散らばせて、地の精霊の逃げ道を制限させていくね。」
ウィルドは軽々しく口にするが、クレアの意識は《希望の煌紐》の操作で一杯一杯である。クレアはまだ、破魔魔法部隊のような洗練された魔法使いではない。
「でも確かに、このままだと埒が明かないわね。一見、あの子が優位に立っているように見えるけど、長引かせれば長引かせるほど、癖を見抜かれていく。地の精霊の反撃が、そのうち来るわよ。」
シャルロッテも続いて、冷静に戦況を分析していく。
「クレアに伝えないと…。」
聞き耳を立てていたエリスが、小さく呟く。すると今度は、エリスは長く息を吸い込んだ。クレアに勝ってほしい。エリスはただその一心で、大声を発しようとしていた。しかし…
「待て。」
アースがエリスの前に手を置いて、それを阻止した。
「余計なことは口にするな。かえって混乱する可能性もある。それに、あいつの顔をちゃんと見てみろ。」
エリスは我に帰って、クレアを見つめ直す。そこには、苦しそうな様子など微塵も感じさせない、ワクワクとしたクレアの表情が、エリスの目には映っていた。
「今のクレアに、手助けは冒涜だ。最後まであいつを信じて、見守ってやろう。」
ダメだ。やっぱりこの《希望の煌紐》一本で、地の精霊を捕らえ切るのは難しい。しかも、地の精霊から全く疲労は感じられない。
そういえば、なんで足場を形成させていかないのだろうか。最初に見せた時は、足場をひょいひょい伝って逃げていた。しかし、今は地上にへばり付いて、高低差を作ってこない。
そう、思った瞬間だった。地の精霊が遂に、動きを見せてきた。光の紐の巻き付きを避け切った、一瞬の隙を見計らって、私に向かって岩の弾丸を放ってきた。
「《ロック・バレット》!」
ある程度距離があったこともあり、私は防御魔法を展開することなく回避できた。もちろん、地の精霊から目を離すようなヘマはしていない。だが、光の紐の操作が、一瞬だけ疎かになってしまった。この隙が、仇となる。
地の精霊の反撃が始まってしまう。まずは私の《希望の煌紐》を、砂嵐の魔法でかき消してきた。これで、地の精霊を取り巻く魔法はもうない。私は慌てて《希望の煌紐》を再び発動する。しかしその頃にはもう、地の精霊は地面に手を着いて、次なる魔法を放つ姿勢を私に見せてきていた。
また岩のドーム?私はそう思った。いや、そう思わされてしまった。
気づくと、私を支えていた辺り一面が、きめ細かい砂地に変形していた。さらにその砂地は、私の足を掴んで離さない。ずるずると砂の中に引き摺り込まれていく。
「ちょっと…!何よこれ!」
踏ん張って抜け出そうとするも、私の足はもう膝近くまで飲み込まれている。自力では抜け出せないことを悟った私は、光の紐に引っ張っり出してもらおうと、杖を両手で力強く掴んだ。
そして、光の紐の伸縮を利用した緊急離脱と同じ要領で、私は砂地獄からの脱出を試みる。
「ほほ。格好の的じゃな。」
聞いたことのあるようなセリフが、まさか私に向けられている?
「まずいまずいまずいまずい!!早く早く!!」
しかし、力のベクトルが悪すぎた。このような状況であれば、おそらく真上に引っ張るのが最も効率が良いように思える。だが、この緊急離脱の性質上、引き先はどうしても限定されてしまう。私はそこら辺に落ちている重そうな瓦礫を、無作為に掴んでいた。垂直に埋まっていく私を、横に引っ張る。効率の悪いこと、この上ない。ちょっと待って…。地の精霊が足場を作らなかったのは、まさか…
「大地の心臓、今ここに響け…」
「やばいぞ!地の精霊が詠唱に入りおった!!早くそこから抜け出すんじゃ!!」
ゼフィロさんが大声で叫んでいる。そんなこと言われなくても分かってる…!地の精霊の詠唱は、私の耳にもしっかり届いてるわよ!
「鼓動の先に、見える真髄…」
あれ?でもこれってもしかしてチャンスなんじゃ?詠唱は大きな隙を生み出した時にしかやっちゃダメなはず。私は確かに身動きが取れない。けれど、魔法は使える。こうなったら一か八かだ。一矢報いるチャンスは、ここしかない…!
「心眼、慧眼、天眼、数多を見通す穢れなき神通…」
私は必死に砂地獄から抜け出そうとする演技を、地の精霊に見せつけていく。ひぃひぃと声を荒げながら、注意をとにかく私に向けさせる。
「己を見つめ、世界に目を向けよ!」
そして、私は心の中で笑った。
「断崖の警鐘、狭間に呑まれ、地底の果てに、朽ちて沈め!!――《デザートクライム・エンドフォー…っ!?」
その瞬間、この地下遺跡にいるクレア以外の全員が驚愕した。地の精霊の大魔法より先に、クレアの《希望の煌紐》が、地の精霊を捕らえていた。
「何じゃと!?おぬしはずっとそこで踏ん張っていたじゃろうが!?ワシは目を逸らしてはおらんぞ!!」
ふっふっふ。地の精霊は確かに私から目を逸らさなかった。でも、一つだけ見ていないところがあった。それは、私を引っ張る光の紐の片端。私はあの時、砂に飲み込まれながら、地の精霊の背後にその光の紐の片端を伸ばしていったのだ。
「さあ地の精霊。この砂地獄を解いて、負けを認めなさい!さもなければ…」
「イギギギギギギギ!!!!」
やっぱり効いてる。私は《光輪分断》に移行し、地の精霊の敗北宣言を待った。しかし気づけば、その砂地獄は私の腰まで侵食していた。早く決着をつけなければ、私が先に砂に溺れてしまう。地の精霊がもしこれに耐え切り、私が先に砂に飲み込まれれば、私の負けだ。
と、思ったのも束の間。案外早く、地の精霊は悲鳴を上げてきた。
「分かった分かった!!ワシの負けじゃ!!」
《デザートクライム・エンドフォール》。どんな魔法かはご想像にお任せします!




