第六十六話 「それぞれの闘い」
火の精霊が顔を出したのは、とんでもない暴言を吐いた直後であった。四大精霊のうち2体が、今私の目の前にいる。わけがわからず皆の様子を伺っていると、レイナはなぜか胸に手を当てて安心したような表情を浮かべていた。
(クソガキって私のことじゃないのね…。びっくりさせないでよ。)
「おいレイナ!俺は反対だ。このクソジジイとはやっぱり反りが合わねえ。同居なんてマジでごめんだぜ。」
どうやらレイナが地の精霊と契約できないことは、この刹那で確定となったらしい。
「ね、ねえ!だったら私と契約して!私はもっともっと強くなって立派な魔女になりたいの!そのためにはあなたの力が必要なの!」
私はなぜか焦り、傍若無人な態度をとってしまった。思いを吐き終えた頃には、後悔の念が押し寄せてきていた。できれば、言葉をもう少し選びたかった。すると、まるで品定めでもするかのうように、地の精霊が私の顔をまじまじと見始めた。
「お前さん使い古した良い杖を持っとるのう。幾分か住み心地は良さそうじゃ。」
その気にさせるような発言に、私の後悔は吹き飛んで、それを聞いていたレイナは納得のいかない様子で割り込んでくる。しかし、地の精霊はレイナの介入を無視して、私に向かって告げてきた。
「ちょっと試してやるからワシについて来い。ここじゃ狭苦しいからの。」
私の目はキラキラと輝きだし、迷いなく頷いた。
「ちょっと待って!横取りしないで!」
レイナの不服な態度は一層強まっていく。それでも、今機会を貰ったのは私だ。地の精霊と契約して、あなたが奪った火の精霊も返して貰う。そう言い放ってやろうと思ったが、ゼフィロさんが先に喋り出した。
「レイナは儂が抑えておくから行ってくるといい。」
私はふと思い出した。シャルロッテの足止め役を買って出たことを。威勢よく言ったにも関わらず、私はその受け持った任を蔑ろにしようとしていた。
「行ってきなさい。私も少しは戦えるってところ見せないとだし。」
エリスが言う。
「僕たちだけでなんとかするさ。地の精霊を連れてすぐに戻ってきてくれればそれでいい。」
カイルも私の背中を押してくる。そうだ、地の精霊と契約してすぐに戻ってくればいい。
「みんなありがとう。行ってくる!」
私は地の精霊が進んで行った通路に足を運んだ。もちろんレイナが止めにかかろうとはするが、ゼフィロさんが睨みを効かせているおかげで、無闇な行動をとれないでいる。
「シャルちゃん!あの子を追いかけて!」
「え!?でもゼフィロ相手にレイナ1人じゃ今度こそ…!?」
レイナたちも待ち構えていたからにはそれ相応の作戦があった。シャルロッテが欠ければ勝率に大きな影響を与えることはレイナも分かっている。けれど、地の精霊を捨てきれないレイナはどうしてもクレアに取られることが気に入らなかった。
「大丈夫。ゼフィロは私とクロムでなんとかするから、今はとにかく地の精霊があの子に渡るのを防がないと…。頼むよクロム!」
「へいへい。」
やる気のない返事を見せたクロムは後ろ髪をぽりぽりと掻いている。
「おい小僧。シャルロッテを追いかけてあの娘を助けてやれ!」
「はい。元からそのつもりです。」
カイルはゼフィロに言われるよりも前に、走り出していた。
「何してるセレシア!お前もじゃ!」
「えぇ!?あの剣士さんなら1人でもうやれるでしょ?それに私は戦闘向きじゃないのよ。」
つべこべ言うセレシアではあったが、その後数回のラリーを経て、渋々カイルを追うことになった。部屋に残ったのは4人。レイナ、クロム、ゼフィロ、エリス。この後、エリスはゼフィロの想像を遥かに超える大活躍を見せ、この場をかき乱すのであった。
一方、一足先にクレアを追いかけていたシャルロッテは、次の部屋でクレアがどちらに進んで行ったのか分からず迷っていた。この時、勘を頼りに迷わず進んでいれば、後ろから続くカイルに追いつかれることなく、逆にカイルに2択を迫らせることができたかもしれない。
「追いつかれちゃったかあ。私割と近距離向けの魔法使いだから剣士苦手なのよね。」
弱点を曝け出しているようにしか見えないが、その口調からはカイルを難敵と認めているようには全く見受けられない。
「クレアの下へは行かせない…!」
「あなたは確かに剣の腕前は相当なものだと思うけど、それでも残念ながら私には勝てないわ。」
カイルは何も答えず、剣を握り直した。闘志に燃えるその剣士を見て、シャルロッテも肘を引いて杖を構える。戦闘は、この直後にカイルの踏み込みから始まった。ゼフィロに尻を叩かれたセレシアもこの後すぐに到着はするものの、すでに始まっている激戦に入り込める余地はなく、ただ傍観するだけあった。
そして、地の精霊に誘われたクレアは、地下遺跡の最深部と思われる広大な空間に辿り着いていた。篝火はもちろん灯っており、レイナたちが訪れた形跡もしっかり残されていた。すると地の精霊がこちらに振り返り、小さな声で名前を尋ねてきた。
「名は何と言う?」
「クレア。クレア・バース!」
私は精一杯の元気で答えた。
「一応この遺跡はワシのお気に入りの場所なんじゃ。」
「そ、そうなの…?」
名前を答えた直後に世間話を切り込まれ、私は意表を突かれてしまった。緊張してしまっているのだろうか。
「それをお前さんらは見事に荒らし、各部屋にこんな火まで灯しおって…。」
「いや、それはさっきいたレイナっていう人が点けたやつで…。」
「まあそんなことはさておき…」
(う〜ん。会話があまり成り立っていないような…。)
「お前さんが持っているその杖、ユグドラシルの杖じゃな?ワシは地を司る精霊。木でできた杖の材質など1発で見破れる。」
「え?」
「ワシはその杖の使い主であれば契約しても良いと思ってる。」
私の杖がユグドラシルの杖…?セレシアが私の杖を狙っていたのはそういうこと?いや、まあ知らなかったとはいえこれはチャンスだ!
「じゃ、じゃあ…!」
「その様子から見てお前さん自分の杖がユグドラシルから出来ているとは知らなかったみたいじゃな。」
ギクっ!?精霊はやっぱり見抜いてくる。嘘はダメだ。ここは正直に答えるしかない。そう思って口を開こうとした寸前、地の精霊が私の返答を待つことなく、そのまま試練の内容を告げてきた。
「ワシを打ち負かしてみよ。さすればお前さんと契約してやる。」
「地の精霊と闘う?この私が?」
「そうじゃ。できんのか?」
私は深く息を吸い込んで吐いた。そして、杖を前に突き出し、これまでに培ってきたものを全力でぶつけてやろうと、ありったけの勇気を総動員させて、地の精霊に言い放った。
「絶対に私が勝つわ!!それでこれからは私と一緒に来てもらう!!」
「やる気は十分ってとこじゃな。けれど言っておくが、ワシは四大精霊の中でも最も戦闘というものに長けておるぞ。」
「いいんじゃない!?私だってそれくらい強い精霊じゃないとこれから不安になっちゃうもん!」
「言ってくれるのう…。ワシも本気でやるぞ。」
空元気だったと思う。だって手が震えているんだもん。相手は精霊だ。戦いの経験だって段違いだろうし、使ってくる魔法もきっと強力に違いない。でも、こんなチャンスが二度と来ないことを私は分かっている。だったら、全力でぶつかるしかない。
「準備は良いかの?」
「ええ。いつでも…!」
クレアvs地の精霊は最後にお届けします。第二章もこの地下遺跡で一旦完結します。
次回はアース&ラナリーvsウィルドからです。よろしくお願いします!




