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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第2章 「助けて。誰でもいいから私を認めて。」
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第六十四話 「バカ再び」

「ちょっとエリス!ゼフィロさんに当たっちゃったじゃない!!」


「しょ、しょうがないでしょ!こんな凄い威力だとは思わなかったんだもん!」


「ゼフィロさんごめんなさーい!!やったのはエリスですー!」


「ちょっとクレア!」


 絶望の淵に立たされていた直後だ。拍子抜けた言い争いを目の当たりにしたレイナは、パンパンに詰まった風船の空気が一気に抜かれたようにポカンとしてしまう。


(何あの子たち…?)


 その光景にカイルも一瞬目を疑った。クレアとエリスの登場には驚かされたが、それ以上に気掛かりなことがカイルにはあった。


「アースさんとラナリーは!?」


「あ!カイル!無事だったのね!」


 カイルの存在にようやく気づいたクレアが、元気よく手を振る。



 時は少し遡り、クレアたちが地震をきっかけに走り始めた頃。


「ゼフィロさんってレイナっていう人より強いんだよね?」


 私は地下遺跡の通路で、目の前を走るアースに問いかけた。


「まあ順当にいけばな。ただ今のレイナには火の精霊(サラマンダー)がいるから何とも言えんというのが正直なところだ。どこまで滅焔魔法を使いこなせているかによる。」


 アースの回答に不安が募る。それはゼフィロさんを心配してのことではなく、私たちの目的がそもそもレイナにあるからだ。そのゼフィロさんが余裕で勝てる相手ではないとなると、私たちだけで太刀打ちできる相手なのだろうか。ひょっとすると、ゼフィロさんと出会えたことはとてつもない幸運だったのではないか。


「もしあの爺さんがやられた場合、オレたちだけで勝てるのか?」


 ラナリーちゃんの質問には私だけでなく、エリスも興味を示して耳を傾けた。すると、呆気なくアースが答える。


「ゼフィロが勝てないなら無理だ。その時は逃げる。」


 考える素振りも見せずに即答され、私たちは面食らう。


「ちょっと待って!それじゃあ火の精霊(サラマンダー)はいつになっても戻ってこないじゃない!?」


「ああ。だからせめて地の精霊(ノーム)は何としてでも先に見つけるぞ。とはいえ、ゼフィロが負けるところは俺も想像がつかん。大丈夫だ。」


 最初にちらつかせた不安の煽りは何だったのだろう。大丈夫、という言葉の響きが、かえって私の心を揺れ動かした。


 私たちは来た道を止まることなく走り続けた。部屋を抜ける度に、一度訪れた部屋の様子がどこか懐かしく見える。


「そこの通路を抜ければ最初の部屋よ!」


 私の隣を走っていたエリスが、最初の部屋へと繋がる開口部に指を指して言う。私たちはエリスの指差す方へと進み、最後の通路に差し掛かった。しばらく走ると、光が差し込んでくる。戻ってきたのだ。かなり進んでいたつもりだったが、走り出してしまえばあっという間であった。


「よし!とりあえず戻ってきたね!」


 先頭を走るアースが最初の部屋に入っていった。後ろを走っていた私も少し遅れて足を踏み入れいくと、なぜか目の前でアースが足を止めて立っていた。とてつもなく大きな背中が、私の視界を覆い尽くす。


「いや、ちょっ…!」


 気付いた時には勢いが収まらず、そのままアースの背中に突撃してしまう。私は跳ね返されて床に尻餅を着いてしまうが、アースは山の如く聳え立っていた。


「なんで急に止まんのよ…。」


 アースは私が跳ね返されたことなど気にも止めずに、前だけを見つめ続けていた。


「なになになに???」


 私はぶつけた鼻を指先で抑えながら、横にいるエリスとラナリーちゃんにも目を向けた。エリスは息を呑み、ラナリーちゃんは怒っているような表情をして、背中の矢筒に手を伸ばしている。


「ウィルド…!」


 ラナリーちゃんのその一言で私はハッとなり、すぐさま起き上がった。目の前には、2日前に一戦を交えたばかりの破魔魔法部隊ウィルド・レークが、冷や汗を垂らしながらそこに立っていた。


「お、おう!何で君たちがこんなところにいるんだ!?」


 誰がどう見ても、アースに怯えている。


「さっさと国へ帰れウィルド。邪魔をしなければ殺しはしない。」


 アースは本気で言っている。私たちは早くカイルたちの方へと向かわねばならない。そのためには、こんなところでウィルドとどんぱちしている場合ではないのだ。しかし、この脅しはウィルドのプライドを傷つけ、逆上の引き金となってしまう。ウィルドの性格を知っているアースではあったが、先を急いでいたせいで言葉を選んでいる余裕がなかった。


「カッチーン…。やっぱり君は僕がぶっ殺す。火の精霊(サラマンダー)がいない君なんか僕だけでも勝てるっつーの!!」


「くそっ。バカが…。」


 アースは大剣を握り、ウィルドとの戦闘に身構えた。私も援護する気満々で杖を構える。すると、全くもって予想していなかった指示を私たちに下してきた。


「このバカは俺だけでやる。お前たちは早くカイルと合流しろ。」


「え、いや…。」


 私は戸惑ってしまう。それは私だけでなく、エリスもだった。ラナリーちゃんはというと、ふざけんなと一蹴して自分もウィルドと闘う意志を曲げなかった。


「俺も後からすぐに追いかける。安心しろ、こんなバカに2度も同じ手を喰らって足止めなんかされやしない。」


「分かった!いくよエリス、ラナリーちゃん!」


「さっきから聞いてれば、バカバカバカバカうっせーんだよ!」


 ウィルドの怒りなどには目もくれず、私は意を決して、カイルたちが進んでいった通路に向かって走り出した。エリスは黙って私の後に続いたが、ラナリーちゃんだけはその場から足を動かそうとはしてくれなかった。


「こいつはオレから師匠を奪った張本人だ!ぶっ殺してやる!」


 目が血走っている。もはや説得することはできないだろうし、説得するだけ時間の無駄だ。アースは全員で進めと言ってきたが、私は最後に一言叫んで、その部屋を後にした。


「アース!私たちだけでいくから、ラナリーちゃんをお願いね!」


 こうして、私とエリスだけで向かうこととなった。しかし、次の部屋に入ってみると、先に進む道は2つに分かれていて、どちらに進めばいいのか早速悩まされる。


「どっち行くエリス!?」


「静かに…!音がする。」


 エリスは耳を澄ませた。すると、進むべき通路を指差して先導を始めてくれた。


「こっち!!」


 私の耳が別に遠いわけではないが、それからはとにかくエリスの後についていった。4つ目の部屋に差し掛かった時には、もう耳を澄ます必要もないほど通路から音が響いてきた。辺りには瓦礫が散らばっていて、ここら辺が特に地震が強かったことが伺える。そして。次の部屋が間違いなくその現場であると、私の直感がそう言っていた。


「何これ!?行き止まりじゃない!」


 エリスが大きな岩を前にして、呆然と立ち竦んでそう言った。


「違う!この先からゼフィロさんの声も聞こえる!たぶんこれ地震で崩れ落ちた瓦礫だよ。」


 私とエリスは黙り込み、瓦礫の向こうから聞こえてくる声に耳を澄ました。


 ……。


 ………。


「儂に消耗戦を仕掛けるなんて百年早いわ!!」


 エリスと目を見合わせる。


「ほら間違いない!ゼフィロさんの声だ!…でもこの瓦礫どうしよう。」


「退がって。」


 エリスが腰に掛けたポーチを漁りながら目の前の瓦礫から距離を取り始めた。エリスにこの瓦礫をどかす力があるのか。私は不信に思いつつも、さぞ自信ありげな態度に引っ張られて、言われたとおりに退がってしまう。


 すると、エリスは何やら怪しげな球体を手に持って呟いた。


「新兵器《兎脳爆弾(バニーボム)》よ。」


 苦笑いが隠せない。エリス先生の発明には必ずと言って良いほど毎回驚かされるが、今回だけに限ってはどこか不安がある。


「これはドッカンラビットの脳を主原料とした爆弾。威力もニトロ草で底上げしてるから、こんな瓦礫一撃で吹き飛ばせるわ。」


「何それ大丈夫?遺跡ごと吹き飛ばない…?」


 僅かな沈黙。エリスは私と目を合わせずに、声を震わせながら答えた。


「た、たぶん…!いいから私を信じなさい…!」


 毒の次は爆弾だった。エリスに毒の吹き矢を使わせる機会は私たちの配慮で何とか避けてきていた。しかし、もうここまできたらエリスの覚悟もいい加減、(ないがし)ろにはできなくなってくる。


「やっちゃってエリス!!」


「任せて!」


 その威力は、目を疑うほどの大爆発であった。


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