第五十九話 「破片の文字」
地下遺跡は巨大迷路だった。印を付けずに進んでいたら、今頃最初の部屋には戻れなくなっていただろう。部屋と部屋を結ぶ通路は長いものもあれば短いものもある。部屋の広さも大小様々で、人が生活していた痕跡のある部屋も散見される。そして、訪れる全ての部屋に篝火が灯されていた。
「これって全部レイナたちが通ったっていう証拠よね?」
私が何気なく皆に問いかける。
「それ以外考えられないな。それよりレイナの他に2人いるということのほうが気掛かりだ。1人はウィルドだとして…」
「ウィルドじゃねーよ。」
ラナリーちゃんが口を挟む。そのまま続けて、先に来ている3人の中にウィルドがいないことを説明した。
「ウィルドが履いていたのは踵が立っていないブーツだ。上で見た足跡の中にそれはなかった。」
皆が黙り込む。驚きと感心の目が、ラナリーちゃんに集まった。少し照れくさそうな顔をして、何だよ!と私たちに言い放ってくる。
「流石はヴォルフの弟子だな!」
私は足跡すらまともに見つけられなかったというのに、靴の形状まで見抜いてしまうなんて。それよりもウィルドが履いている靴を覚えていることにも感心してしまう。
「すごいよ!ラナリーちゃん!」
「こ、こんなのあたりめーだろ!」
ラナリーはやはり照れくさそうにしている。ヴォルフの教えの賜物ではあるが、ラナリーはあまり褒め称えられることに慣れていない。優しくも厳しい無口なヴォルフが、ラナリーを素直に褒めたことなどないのである。
「ウィルドではないとなると、一体誰が来ているんだ?」
アースは思考を深めて、思い当たる人物を総当たりしていく。レイナに次ぐ強敵となれば、力の差が歴然となってしまう。遺跡での遭遇に、アース自身も少しばかり不安の2文字が頭に浮かび始めていた。
「この部屋も特に変わった点はないようね。次に行きましょう。」
エリスはそう言いながら、3つある開口部のうち、勘で選んだ方へと歩き出した。どちらに進むかについて、協議する価値がないことを私たちは早くも学んでいた。
長い通路をランタン頼りに進んでいき、次の部屋に到着する。篝火は当然のように灯っていて、今までで一番大きな部屋だった。そして、行き止まりでもあった。部屋の最奥は祭壇になっており、何かを祀っていたと思われる岩の造形物が、ボロボロに崩れていた。
「何だったんだろうこれ。」
私は躊躇いなく祭壇に上がって、崩れた岩に手を触れる。誰かが意図的に破壊した…、そんな風に見てとれる。後に続いてエリスもやってきて、同じく観察を始めた。
「文字が刻まれているようだけれど…。」
「何て書いてあるの?」
「うーん…。この破片には“弾劾”って書いてある。」
「何よそれ。神様祀ってるんじゃないの?」
「そんなこと知らないわよ!」
私は後ろを振り向き、興味津々な目でアースに尋ねてみた。
「ねえ!アースは何のことだか分かる?」
アースは何も答えず、目を伏せてただ首を横に振った。私は少し落胆する。知らないにしても、憶測くらいは語ってくれるだろうと期待していたからだ。続けて、エリスはもう一つの破片に刻まれている文字を読み上げる。
「こっちの大きな破片には“神の魔法”って書いてあるわ。」
「神の魔法!?やっぱり神様祀ってるじゃん!」
私の情緒は大きくバウンドして高く跳ね上がった。神の魔法。何て素晴らしい響きなのだろうか。そんな魔法があるなら、ぜひ習得したい。他の破片も読んでくれるようエリスに頼み込むと、呆れた目で私に言い返してきた。
「いや、自分で読みなさいよ。字体は相当古いけどクレアでも読めるわよ。」
私は破片に刻まれた文字をまじまじと見ていると、何となくだが分かってくる。
「ん〜〜〜。これは“幻”?」
破片をエリスに見せて確認する。
「うん。後ろの文字が半分欠けちゃっていて微妙だけど、たぶんこれは“幻魔”。」
弾劾、神の魔法、幻魔。全く結びつかない言葉が並べられ、私の頭は混乱する。それでも、文字が刻まれている破片を見つけることに躍起になる。
「これ全部組み合わせれば意味が分かるよね!?」
私の好奇心はもうすでに、歯止めが利かなくなっている。いつまでも破片を集めようとする私の行動に、ラナリーちゃんが少し強めに釘を刺してきた。
「おい!いつまでやってんだよ!!ここに来た目的忘れんな!!」
ラナリーちゃんが奥歯を噛み締めて私を睨みつける。そんなに怒らなくてもいいじゃんか…、と思いつつも確かにここで何時間も遺跡調査をしている場合ではない。まだここに居たい気持ちを押し殺して、私たちは一つ前の部屋へと戻って行った。
一方、別行動となったカイルが同行しているゼフィロ班は、特に変わった部屋を見つけることもなく、遺跡探索を進めていた。
「ねえええ。もうこれで何部屋目よ…。やっと見つけたこの大きな部屋も結局何もないじゃない。」
セレシアは年に似つかず、かなりの飽き性である。セレシアの駄々に無口なカイルはもちろん反応することはない。ため息を吐いたゼフィロが仕方なくあしらうと、あろうことか今度は拗ね始めてしまった。
「面倒臭くなってきちゃった…。もう入り口で待ち伏せしてさあ、出てきた奴を全員このジジイが倒せばいいんじゃないの?万が一にでも地の精霊を連れてきたら手間が省けるじゃない。」
一考の余地はありそうである。しかし、これはゼフィロが却下する。
「入り口があそこだけとは限らんじゃろ。それにレイナは火の精霊を有していると聞いているぞ。加えて地の精霊となるといくら儂でも手に負えん。先手を打たなきゃ全滅じゃぞ。」
セレシアは息を詰まらせる。そして、何事もなかったかのように続く通路へと足を進めようとした。相変わらず無表情のカイル。やれやれと言わんばかりの顔を見せるゼフィロ。その、次の瞬間であった。
「こっちの道昨日通って何もなかったじゃない!!」
「それは昨日の話だ!地の精霊だって生きているんだから移動するだろ!」
セレシアが進もうとしていた通路から、誰かの話し声が響き渡ってきた。ゼフィロが声を小さくして、セレシアを引き戻す。カイルがカチャっと音を立てて剣に手を掛けると、その話し声はみるみる近寄ってきた。
「ああああ!!もう本当に地の精霊はいるの!?あなたのとこの団長がウソ言っているんじゃないの!?」
「んなわけねーだろ!」
「ちょっと2人とも落ち着いて。一旦次の部屋で整理しましょう。」
ゼフィロとカイルが部屋の中央で並んで立つ後ろに、セレシアが杖を持ってビクビクと恐れている。声を震わせ、他力本願を発揮する。
「ジ、ジジイ…、それと剣士さん…!で、出番よ…!」
カイルは既に剣を抜いて戦闘体制に入っているが、ゼフィロは杖を遺跡の石畳に着けて、余裕な態度をしている。
「ゼフィロさん…。敵は3人です。僕が何とかして1人は食い止めてみせますから…」
「ほっほっほ。儂に2人を相手にしろと。年長者は労うものじゃぞ小僧。まあ良い…、レイナともう1人は儂に任せい。」
暗い通路からは声だけでなく、足音も耳に届き始める。コツコツと音を立てて近づいてくるアークトリアの強者たちが、カイルの闘志に火を点ける。そして遂に、レイナと対面した。後ろからは、アークトリア騎士団のクロムと破魔魔法部隊のシャルロッテが続く。
ここからゼフィロの戦いです。
一応本作”弾劾のソルシエール”においての最強設定はこのゼフィロと、まだ登場はしていませんが破魔魔法部隊の隊長モーゼが拮抗した感じになってます。ゼフィロ最強、でもレイナもめっちゃ強いって感じを上手く表現できるよう頑張るのでよろしくお願いします!




