第五十八話 「地下遺跡到着」
私たちは地下遺跡到着まであと少しのところまで来ていた。昨日に比べ、テングとの遭遇率も格段に上がっている。それはおそらく、レクト樹海の中心に寄って来ているからであろう。閃光弾を使った戦いは一回のみで、その他は全部ゼフィロさんがやっつけてくれた。残りの閃光弾はあと2つ。ゼフィロさんがいなければ、行きの道中で閃光弾が底を尽きていた。本当に感謝である。
「ほっほっほ。もうすぐじゃのう。気を引き締めていくぞい。」
鼓舞するゼフィロさんが一番余裕そうだ。そういえば、私は地下遺跡の全容を知らない。ふと、軽い気持ちで地下遺跡についてどのような構造なのか、最も博識そうなゼフィロさんに質問を投げかけてみた。しかし、全然わからないと即答されてしまった。少し心配が募ってきたところで、カイルが私のそばに寄ってきた。
「これから行く遺跡はなんのために作られた遺跡なのかはいまだに分かってないんだけれど、昔ナイトフォールが住み着いていたところなんだ。だからみんな気味悪がってわざわざ足を踏み入れないのさ。」
「ふーん。カイルは怖くないの?」
「うん。怖くはないかな。何かあれば必ず守るから、絶対に逸れないようにね。」
私はその言葉を聞きたかっただけなのかもしれない。カイルの背中が大きく逞しく見える。私はその後ろにベッタリとくっついて、離れなかった。
「詳しいなカイル。どこでそんな知識覚えたんだ?」
私とカイルの会話を聞いていたのか、アースが振り返って話しかけてきた。
「僕の両親が歴史好きで、昔よく聞かされていたんですよ。」
しばらく歩き続けた後、先頭にいたアースが急にピタリと足を止めた。またテングが来たのかと思ったが、変わった様子もなくこちらを振り向いてくる。
「ここら辺のはずなんだが…。」
どうやら地下遺跡の入り口はこの近辺にあるらしい。しかし辺りを見回しても、何ら変わり映えのないレクト樹海が視界を覆い尽くしているだけである。
「何もないじゃない。」
私は率直な意見を言い、その流れでゼフィロさんにも問いかけてみた。
「儂も来たことはないからのう…。セレシアは知らんのか?お前ナイトフォールじゃろ。」
「知らないわよ!」
全員入り口が分からないのであればどうするというのだ。手分けしてくまなく探すとなれば一苦労である。すると、ラナリーちゃんがテクテクと大木の根本辺りまで歩き出して、地面に触れ始めた。
「おい!足跡があるぞ!3人だ!」
アースがいち早く駆け寄る。
「でかしたぞ!」
ラナリーちゃんはこれでもかというほどのドヤ顔を披露した。実際そのくらいの価値はあるのだろう。そして、足跡の先を指差す。
「この先に続いてる。」
私もラナリーちゃんの足元を観察してその足跡を探した。しかし、それらしきものは全く見つからない。
「足跡なんかどこにあるの?」
「これだから素人は困る。どうみてもそこら辺にあんだろ!」
いや分からないって!私だけなのかと思ってカイルとエリスに目で合図してみたが、やはり2人も分からない様子であった。ラナリーちゃんが嘘を言っているようにも思えないので、とりあえず付いていってみる。すると、ラナリーちゃんが二股に分かれた巨大な木の根の前に立ち、腰に手を当てた。
「入口っていうのはここだろ。」
後ろを黙って歩いていた私はラナリーちゃんが見つめる先を確認するため、駆け足で近づいていく。そこには、大きな穴が果てしなく下に続いていて、全然先を確認できない。
「これ遺跡っていうより洞窟なんじゃ…。」
全員が気味悪そうに眺め始める。アースが私に穴の中を照らすように指示をだしてきたので、少し大きめの光を作って穴の中に放り込んでみた。すると、ちょっと先に石階段が連なっているのを確認できた。
「間違いなさそうだな。エリス、ランタンを貸してくれ。」
エリスはバッグからランタンを取り出してアースに手渡した。青白い小さな光が灯りだす。節約のためなのか、光度がやや乏しい。
「いくぞ。俺が先頭を歩く。」
心の準備は無しのようだ。ゆっくりと穴へ入っていくアースに私たちは黙って付いて行く。最後尾はアーセント村の2人に託された。
石階段を下り始めてから会話は一切なくなった。聞こえてくるのは緊張で鼓動が速くなった自分の心音と皆の足音だけ。ちなみに私は相変わらずカイルの後ろをくっついている。天井を見上げると、ゴツゴツとした岩肌がびっしりと覆い尽くされていた。ふと後ろを振り向いてみても、外の光はとっくに届いていない。頼りになるのは、先頭でアースが持っているランタンの灯りのみだ。
はあ。もうどれだけ下っただろうか。どうせならこの石階段の段数を数えながら下ればよかったと、本当にしょうもない後悔が私を悩ませ始めていた。気温もどんどん下がっている気がする。地下なのだから当然だ。いろいろなことに思考を巡らせ気を紛らわせていると、先頭を歩くアースがハンドサインで私たちの歩みを止めた。
「あそこから光が漏れている。おそらく先客のレイナたちがご丁寧に灯りを点けているらしいな。いきなりご対面っていう可能性もあるから覚悟しておけ。」
私はゴクリと息を呑む。破魔魔法部隊序列3位のレイナ・ナイトフォール。あのアースを追い詰め、火の精霊を奪った人物。恐ろしい実力の持ち主であることは分かっているが、なぜか私はワクワクしている。そして、私たちは石階段を下り終えた。隊列は崩さずに、光の先へと進んでいく。
「これが地下遺跡…。」
私の目に飛び込んできた光景はただの小さな正方形の空間。綺麗に並べられた石の壁、そして中心に置かれた一つの篝火。その他には何もない。たったそれだけの空間にも関わらず、私は異常なほど感動していた。左右には別の部屋へと繋がっていると思われる開口部が、私たちを誘っているかのように感じられる。
レイナはこのどちらかに進んで行ったのであろう。そして、地の精霊もこのどこかにいるはずだ。地下遺跡到着早々、私たちは2択を迫られる。
「二手に別れたほうがいいんじゃないかしら。」
そう言うのはセレシアであった。確かに効率を求めるなら二手に分かれるのは得策だ。しかし、いつどこでレイナと鉢合わせるか分からない。戦闘を避けられないのであれば、固まっていたほうが安全だ。別れるとしても、アース班とゼフィロ班になるのは確実である。というか、別に私たちを一緒くたに考える必要もないのか。ここでアーセント村の2人と別れるのは自然な流れの気がする。私は今の考えを述べようと口を開こうとしたが、タイミング悪くセレシアに遮られてしまう。
「私とジジイは一緒に行くとして、あと1人。」
なぜかセレシアが主導権を握る流れになっている。あと1人ってなんだ。私たちの中から1人だけそっちに行くってことなのか。アースもカイルもエリスもラナリーちゃんも絶対に渡さないぞ。行くなら私が行ってやる。そう心に誓った瞬間だった。
「あなたがいいわね。」
セレシアが指差した先はあろうことかカイルであった。私は考えるよりも先に、言葉を発していた。
「カイルはだめ!」
「あら?なんか必死ね。そういう関係だったならごめんなさい。」
私はムキになってセレシアの顔を見つめる。そういう関係ってなんだ?少し考え始めると、よからぬ想像に頭を支配され、顔がぽかーっと赤くなり始めた。
「ち、違う!カイルとはそういうんじゃないけど…!だめなものはだめなの!!」
私は子供のように駄々をこねた。余計な考えが邪魔をして、もうそれしかできないのである。しかし、指を差されたカイルが、セレシアの提案を許諾しようという雰囲気を出してきた。
「クレア落ち着いて。人数的にも誰かがあちらに付くのは当然だろう。」
「だったら私が行く!」
威勢よく立候補した。しかし、セレシアが明らかに嫌味な態度で私を拒絶する。
「あなたじゃダメよ。パワーバランスっていうのを考えられないのかしら?こっちは3人、そっちは4人。あなたがこっちに来たら戦える人間はジジイしかいなくなっちゃうじゃない。そこの元副団長を指名しなかっただけ有り難く思いなさいよ。」
隅から隅まで鼻につく言いかただ。心の中で何度も地団駄を踏み鳴らしてみたが、一向に腹の虫が治らない。
「僕が向こうに行くよ。道中ではゼフィロさんに何度も助けられた。その恩を無下にするわけにはいかない。」
ごもっともな意見だ。アースも黙って了承する。ゆっくりとセレシアの方へと近づくカイル。私は悔しい気持ちが込み上げてくるが、これ以上は何も言えなかった。すると、最後にカイルが強気にセレシアの発言を否定してみせた。
「セレシア…。でも一つ間違っている。残念ながらクレアは強いよ。」




