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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第2章 「助けて。誰でもいいから私を認めて。」
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第五十一話 「破魔魔法部隊ウィルド」

 アースの俊敏な反撃による踏み込み横払いが、ウィルドを間違いなく捉えた。完全勝利かと思い、木の上で見ていてたクレアたちは今にも飛び出してしまいそうなところであった。しかし…。


「《幻影魔法(ファントム)》!?」


 アースが斬ったウィルドはフワッと風に流され消え去った。


 ――《幻影魔法(ファントム)》。イメージを幻に変える高等魔法。並のイメージ力では本物にはほど遠いものが作られてしまうため、簡単に見極めることができる。そのため、戦闘でこれを扱う魔法使いはウィルドを除いて他にいない。戦闘の最中でも完全なイメージを思い描けることがウィルドの最大の武器であり、決定力に欠けていても破魔魔法部隊に所属できている最大の要因である。


 漆黒の霧と光の矢、そして幻影までがウィルドの陽動であった。


「…《影狼の闇牙(スコルズ・ファング)》。」


 幻を斬ったことで翻弄されたアースに、ウィルドの数少ない攻撃魔法が直撃する。


「ぐっ…!」


 肉体的な損傷はなく精気を削がれる。たまらず跪いたアースに、今度は光の矢が迫る。


 追い込まれた状況にカイルが助太刀に入ろうとするが、まだその必要はなかった。アースは力を振り絞ってウィルドの連続攻撃を防いだのである。息が上がり始め、早くも戦況が傾き始める。


「おーい!君たちは何やってんの!!今の畳み掛けるところでしょ!?ボサっとしてないで仕事してよ!」


 ウィルドが騎士団の加勢を強制した。それを聞いていたクレアがようやく動き出す。


「ふ、副団長…!ご覚悟を…!」


 傍観していた騎士団員が剣を握りしめる。その手はかなり震えており、闘志はまるで感じられなかった。


「《希望の煌紐(リヒト・バインド)》。」


 クレアは木の上から光の紐を操り、自分の位置を悟られないよう森の中をぐるりと回して騎士団員の一人を縛り上げる。突然の魔法に声を上げたことで、そこに注目が集まった。


「奇襲!?それも魔法だと!?」


 ウィルドが一番驚いている。辺りをキョロキョロし始めるウィルドに対して、アースはその隙を狙いにいく。


「くっそ!嵌めやがったな!」


「俺一人だけと言った覚えはない。」


 アースの一振りとウィルドが咄嗟に展開した《防御魔法(バリア)》が衝突する。剣は弾かれ、《防御魔法(バリア)》も砕けた。生憎の相殺とはなってしまったものの、実体との接近戦にもつれ込むことに成功する。


「おいてめーら僕の前に立て!!!」


 ウィルドが乱暴な命令を騎士団に下すが、動き出す者はいなかった。それはアースを恐れているからではなく、このまま押し切られれば憎きウィルドの敗北は間違いないと感じ始めたからである。ウィルドは単体でアースの猛攻を《防御魔法(バリア)》で防ぎ続けているが、限界は近い。


「何をしているんだ!!反逆者になりたいのか!?」


 ウィルドのたったその一言で騎士団員の意識が変わった。決死の覚悟でアースの前に出る。私情と反逆を天秤にかけた時、彼らの重みは後者であった。あまりにも信念が薄い騎士団員を相手に、アースはあからさまに手を抜き始める。


「よしいいぞ…!」


 ウィルドとアースの間には有象無象の壁が出来上がった。その隙に詠唱に入ろうとするウィルドに、アースの剣は間に合わない。しかし、辺りを泳がせていたクレアの《希望の煌紐(リヒト・バインド)》がウィルドを捕らえた。


「うわあ!!さっきのやつか!」


(いい判断だクレア…)


 クレアはそのまま《光輪分断(リヒト・ディバイド)》に移行する。グイグイと締め付けられ、悲鳴が増していく。今度は実体で間違いないようだ。


「おい!!これを早く切れ!」


 ウィルドの間一髪は近くにいた騎士団員に防がれてしまった。クレアの《希望の煌紐(リヒト・バインド)》は、破魔魔法部隊を相手でもかなり有効であることが分かった瞬間である。


「術者はどこに隠れてやがる…!?」


 この状況を芳しくないと考えたウィルドは、クレアの索敵に重きを置き始めた。木の上で息を潜めるクレアとカイル。二人の素顔はウィルドに把握されている。万が一にでも見つかれば先回りをしたことが明らかになってしまう。そして、身を潜めている者はもう一人。遂に、ウィルドの隙を見つけてしまった幼きハンターが毒矢を射る。


(ラナリーちゃん!?)


「くっそ!!どうなってやがる!!」


 ウィルドは肩に突き刺さった毒矢を引き抜く。魔法と弓、それから目の前にいる反逆騎士。偶然の出来事ではないことにようやく気づいたようだ。


「最初から僕を倒しに来たな…?目的はヴォルフか?」


 クレアの《希望の煌紐(リヒト・バインド)》は作戦範囲内であった。しかし、この場面でのラナリーの矢は、想定外の行動である。敵に目的を勘づかれてしまった以上、ここで必ず仕留めなくてはならなくなった。ヴォルフの救出だけではなく、エルヴァ村のためにも。


「君たちはその男を連れてアークトリアへ帰還しろ!今すぐだ!」


 ヴォルフを連れて走り出す騎士団。無論、追いかけるアース。しかし、この時はまだウィルドの中でアースたちの目的は憶測でしかなかった。ヴォルフを追いかけるまでは。


「やっぱりな…!っていうことは、この矢はあのクソガキか!」


 目的を全て見透かされた。アースたちの注意がヴォルフに向けられた隙を見計らって、ウィルドは魔法で毒の治療を始める。ラナリーの身勝手な行動で、戦場に混乱を招き始めていた。アースは咄嗟の判断でカイルにヴォルフを追わせるが、ウィルドに背中を向けて走り出してしまったことで魔法の餌食になる。


 光の矢が、カイルの背中に刺さる。そのまま追撃を仕掛けようとするウィルドに、アースはまだ届かない。分厚い肉壁が行く手を阻む。


 カイルのピンチを救ったのは、クレアだった。《希望の煌紐(リヒト・バインド)》でカイルを絡め取り、釣り上げた。その結果、クレアの居場所も特定される。


 ラナリーは自分の軽率の行動を省みて、震えながら反省していた。少女の目からは、戦意が失われ始めている。打開を模索するアース、矢が刺さったカイル。そして、《影狼の闇牙(スコルズ・ファング)》を喰らって木から落下するクレア。戦況がこちらに傾いたかと思われた、その刹那である。


 アースも騎士団相手に手を抜いている余裕がなくなってきている。ウィルドを倒して、すぐにヴォルフを追わなくてはならない。森の中で、多くの血が流れ始めた。


「ラナリーア!!カイルたちを連れて村へ戻れ!!あとは俺に任せろ!」


 アースの力強い声が森に響く。それを聞いて失笑したウィルドが、多勢を次々と蹴散らしていくアースに向かって魔法を放つ。勇気を振り絞ってアースに挑む騎士団員は、まだいる。


「深淵の狐狼!闇に誘え!――《影狼の闇牙(スコルズ・ファング)》!!」


 アースは膝をつき、大剣で体を支えた。ウィルドの魔法を2発喰らってもなお、その精神は潰えない。それでも大きくダメージが入ったことで、すぐには立て直せない状況である。最大の好機と捉えたウィルドは持ち得る最強の魔法を放つため、長い詠唱に入っていく。


「冥界の門に刻まれし鋼鉄の呪い…」


 詠唱の一節目でアースは気づいた。これはウィルドの十八番。最強の結界魔法であることを。


「軋轢する神々の失墜。贖罪を嘲笑する地獄の番兵…」


 アースは他の3人に自分の下に集まるよう大声で知らしめる。クレアたちに駆け寄っていたラナリーはもちろん、魔法で負傷した二人もアースの掛け声に反応する。


「極限の牢獄は閉ざされた。喚け、嘆け、跪け!…」


 離れていた3人がアースに駆け寄ってくる。そして、ウィルドの結界魔法は、最終節まで詠唱された。


「苦痛に彷徨う愚鈍者よ!永遠の懺悔に溺れ堕ちろ!――《裁きの地獄檻(ジャッジメント・ヘルケージ)》!!」


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