第四十九話 「作戦準備」
ヴォルフ奪還作戦成功のためには、アースとウィルドをエルヴァ村から遠く離れた場所でかち合わせることが必須である。ウィルドのエルヴァ村滞在時間はおよそ半日。ついさっき来たことからあと数時間は猶予があると言っていい。その間に皆で作戦を擦り合わせていく。
「まず前提条件としてウィルドと戦うのは俺だけでやる。お前たちは顔すら見られないよう気をつけろ。それからエリスに至っては今回村に残れ。」
「ええ分かったわ。流石にお荷物だからね。」
物分かりの良いエリスは嫌な顔一つ見せずに頷いた。
「俺とクレアが先に村を出て予測ポイントへ先回りする。ガキンチョを一人で行動させるのは心配だから念のためカイルを付けよう。」
私は一つのワードに反応してヒヤッとする。ラナリーちゃんの逆鱗をアースは知らない。
「ガキンチョだと…?オレはラナリーア・ライドール!最強ハンターの弟子にして最強のハンターだ!!一人でできる!!」
最強という言葉の意味を今一度問いたいところではあるが、野暮なことに思考を割いている余裕はない。
「万が一ウィルドに見つかった際にお前一人では取り返しがつかなくなる。そうなったらカイルを頼ってお前は真っ先に俺を呼びに来い。」
「そういう話じゃねーよ。森の移動に慣れてねーこいつは邪魔だ。オレ一人の方が動きやすいし人数が少ないほうがバレにくいだろ!」
ラナリーの言い分にも一理ある。アースは黙って考えを巡らせ、作戦を再構築していく。
「よし。じゃあお前に任せよう。カイルも俺たちと先に村を出るぞ。」
「はい。」
その後、アースから淡々と語られる作戦の内容を私たちは頭に叩き込んでいく。私の役目は隙をみてヴォルフさんの救出をすること。ただし、決戦の場が平野になった場合は私の出番はない。それは姿を見せないのが大前提であるからだ。
「ラナリーア。お前が昨日森の中で俺に見つかった理由がなぜだがわかるか?」
いよいよ作戦に向けて二手に別れようとしていたその寸前、アースがラナリーちゃんにアドバイスを与えようとしていた。アースの問い掛けに答えられないラナリーちゃんは、歯を食いしばって悔しそうな表情を浮かべている。
「ぐぅ…!」
「それは殺気だ。ヴォルフが連行されていく姿をこれから目の当たりにするだろうが、怒りは抑え込め。最強ハンターならそれぐらいできるだろ。」
アースは自分の片足にも満たない体格の少女を煽る。いや、煽るというよりも揚げ足を取っている。
「分かったよ…!」
核心を突かれたのかラナリーちゃんは意外にも声を荒らげることはなかった。そして私たちは二人を置いて先に村を出る。
村に残ったラナリーとエリスは早速ウィルドを探し始める。大勢の騎士団を連れて偉そうに歩き回っていたおかげで、一切の難航なく見つけることができた。そこにはもちろん、縄で縛られたヴォルフの姿があり、ラナリーは今にも飛び出してしまいそうなくらい怒った表情をしている。
「落ち着いてね。」
「ああ…。」
見つからないようしばらく後を付けていると、ウィルドは村長の家に到着した。
「おーいっ!あんたの村の住民が反逆を起こしてくれちゃったんだけどどうしてくれんのかなあ?」
ウィルドはヴォルフの背中を蹴っ飛ばした。受け身を取ることが出来ず、地面に顔を打ちつけられる。ラナリーは当然のこと、陰から見ていたエリスもその光景には虫唾が走った。
「なんて奴なの…!?」
「オレのせいで…。くっそ…!」
村長はただただ謝り続ける。しかし、ウィルドが欲しているのは謝罪ではない。この男は困り果てた人間を追い詰めていくことに快楽を見出している。
「これは村を監督できていない村長の責任でもあるよね〜??」
「ええ…。仰るとおりです。」
「ふーん。じゃあ責任を取って村長の座を降りてもらう。それであんたはこれから村の中央で公開処刑だ。」
「なっ!?」
村長は衝撃のあまり呼吸が止まった。周りにいた騎士団も、今の発言には信じられないような表情を浮かべている。一人の騎士団員がウィルドの横行を阻止しようと前に出てきた。しかし…
「なーんてね。嘘だよ。」
エリスとラナリーを含めたその場にいる全員がホッとする。その後も、二人はウィルドに見つからないよう後を付けていく。店に入れば大きな袋を騎士団員に持たせて出てきたり、若い女を見つければちょっかいを出す。政治的な行いは一切見られず、ただただ最低な娯楽を楽しんでいた。
「エルヴァ村ってあんな奴がしょっちゅう来るの!?」
「3年前からな。」
そして、ようやくウィルドも満足いったのか村の出口の方へと向かい出した。村を出てからはラナリーの一人行動となり、エリスはお留守番となる。
「役に立つかは分からないけどこれを持って行って。」
ラナリーは謎の液体が入った小瓶を受け取る。
「なんだこれ?」
「痺れ毒よ。矢の先端に塗布して使ってみて。かなり即効性があるから一発でも命中すればしばらくは動けなくさせられるわ。」
「おー!お前見かけによらず物騒な物持ってるんだな。助かるぜ!」
「ううん。必ずヴォルフさんを救ってきて。」
「当たり前だ…」
ラナリーはまだ何か言いたげな様子でモジモジとしている。なかなか動き出さないラナリーを不思議に思い、エリスは声をかける。
「どうしたの?大丈夫?」
「い、いや!その…。悪かった…!」
「ん?何のこと?」
急に謝られたことに思い当たる節がないエリス。ラナリーはそのモジモジとした態度を改めることなく、慣れない謝罪をエリスにした。
「お前の肩に矢を放ったのはオレだ…!だからその…。一発ならぶん殴ってもいいぞ!」
不器用というか下手くそというか。謝罪の内容としては0点かもしれないが、それでもラナリーの心からの気持ちはしっかりと届いた。
「ふふ。じゃあ目を閉じて。」
殴る気など毛頭なかったはずではあるが、エリスも時に意地悪な性格になる。
「いてっ!」
だから、ちょっと強めのデコピンをお見舞いした。
「はい。これでおあいこね。…ほらウィルドを見失う前に早く!」
「ああ…。そうだな…!」
ラナリーがウィルドの追跡を始めた数時間後。先に出発していたクレアたちは最初の合流ポイントに到着していた。ウィルドの帰還ルートがどうであれ、一度この場にラナリーが先回って動向を知らせに来る手筈となっている。
「ラナリーちゃんが言っていた廃村っていうのはここね。」
最初の合流ポイントはラナリーちゃんが決めた。辺りを見渡すと人工物と思われる家の柱や瓦礫が転がっている。廃村というからにはある程度建物が形を残しているかと思っていたが、そんなことは全くなかった。ここはエルヴァ村から見て南の方角に位置する。
「ここは14年前の大戦直後に、大規模な反乱を起こして滅ぼされた村だ。ここまで無残にやったのは二人の魔法使い。破魔魔法部隊序列5位の【サンバーグ・デミス】、それから序列8位の【ティア・ラグーン】。」
その二人は最近出来あがったらしい。何でも任務を放棄して国外にそれはそれは長いデートに出掛けているとか。あまりにも帰ってこないものだから、駆け落ちの噂がアークトリアの内部で広がっているのだそうだ。ウィルドといい、破魔魔法部隊は曲者揃いである。
「その二人はどんな魔法を使うの?」
「サンバーグは生粋の武闘派。高威力の魔法を無詠唱で連発できる。剣士としてはかなり辛い相手だ。それからティアは少し特別でな…。あいつは魔法でありとあらゆる物体を作り出して戦う。時には剣を作って剣術を扱うこともある。何でもユグドラシルの杖というかなり希少な杖を持っているらしい。」
杖の性能なんて考えたこともなかった。
「そういえばクレアも石を作れるな。もしかしてその杖もユグドラシルの杖なんじゃないか?」
アースが突拍子もないことを言い出した。私の杖は見知らぬ人からの譲り物。そんな希少な杖を、私なんかに譲ってくれる訳がないだろう。




