第四十七話 「聞き込み調査!」
エルヴァ村近郊の野原で私たちは次なる目的地について話し合っていた。最初に私が切り出す。
「いきなりアークトリアに乗り込むのはありえないのよね?」
「当たり前だ。」
アースが即答する。私はアークトリアの戦力を詳しく知らない。騎士団のトップがアースとほぼ互角であることは話で聞いているが、破魔魔法部隊に関しては私にとって未知数である。
「破魔魔法部隊ってアースよりも強い人がいっぱいいるの?」
抽象的な質問ではあるが、アースは丁寧に答えてくれた。
「破魔魔法部隊は大きく分けて二つのチームに分かれている。一つはレイナやウィルドのような戦闘員。それともう一つが開発局だ。ここでは一旦開発局は置いておく。」
話が始まるにつれて、私だけではなくエリスも興味津々で喰らい付いていた。
「戦闘員の特徴は何と言っても超少数精鋭。アークトリア騎士団総勢およそ2万人に対して、破魔魔法部隊の戦闘員はたった10人。」
私はどちらかというと、前者の数字に驚愕した。私の目の前にいるのはその2万人のトップ2に立っていた男である。それにしては率いていた部下の数があまりにも少ないような気がしてしまう。
「アークトリア騎士団ってそんなにいるのね。でも元副団長なのに随分な少人数で行動していたのはなぜなのかしら?」
私が聞けなかった質問をエリスが聞いてくれた。こういう時は本当に頼りになる。
「あくまであの時は操魔族を追っていたからだ。大隊だと動きが鈍くなるからな。無論、編成については俺が選んだ。」
なるほど。アースの信念に同意するものは極めて少ないということか。
「話を戻すぞ。戦闘員はその中でも序列が組まれていてウィルドは10位だ。」
「一番弱いってこと?」
「まあそうなる。正直言って滅焔魔法を使えない俺だけでも負けることはない。」
昨日も思ったが、勝てると言わないことに若干引っ掛かる。
「あ、ちなみにレイナっていう人は何位なの?」
「レイナは最近位をさらに上げて今は序列3位。そしてレイナの父であるモーゼ隊長が言わずもがな1位だ。」
アースを追い詰めた天才魔女が3位…。ということは火の精霊を取り戻せばアースは大体この位置になるのか。
「ハッキリ言うが今の俺たちではモーゼ隊長には絶対に敵わない。」
ここでようやくカイルが話に入ってくる。
「火の精霊を奪還しましょう。レイナの行動を調べてみます。」
「ああ頼む。情報収集は俺にはできない。」
とりあえず目先の行動について話が纏まった。私たちはレイナの情報を集めるため、アースを置いてエルヴァ村へと戻ることになる。それまでアースはこの平和な野原でのんびりとするらしい。風が草花を揺らす広大な大地での日向ぼっこは、さぞ気持ちよかろう。
「クレア、杖は置いていけ。ウィルドと万が一遭遇したら面倒だ。俺が責任を持って預かってやるから安心しろ。」
私はこの時、初めて自分の杖を誰かに託した。不安などは微塵もなく、むしろ信じられる存在が近くにいることを嬉しく思う。そして最後に、アースが私とエリスに忠告を下す。
「ウィルドはお前たちのような若い女に目がない。とにかく目を合わせるな。あいつはバカだからすぐその気を起こす。何かあれば一目散にここへ逃げるかカイルを頼れ。」
破魔魔法部隊のウィルドに少しばかり興味が湧いていたが、撤回しよう。絶対にその男には出会いたくない。
「カイル!少し耳を貸せ。」
「はい。」
(ウィルドは人妻とまな板には興味がない。判断はお前に任せる。)
「分かりました。」
私たちはエルヴァ村へ戻って早々に3人まとまって情報収集を始めた。まずは昨日訪れた雑貨屋と武器屋。エリスにとっては初来店だったから、店主との会話を気にも止めずに商品を眺めていた。
武器屋店主への聞き込み結果。強面の男性。
「レイナがどこにいるかって?知らねーよ。」
雑貨屋店主への聞き込み結果。初老の女性。
「悪いけど知らないわ。レイナがこの村に顔を出したのはもう何年も前の話よ。この村に来るのは殆どがウィルドなの。」
武器屋の店主よりも人当たりが良かったので、私は先に繋がる質問を投げかけてみることにした。
「この村で魔法部隊に詳しい人はいますか?」
「うーん。村長のゴールディさんか、護衛団長のマガドさんかしらね?」
「ありがとうございます!!」
早速その二人に会いに行く。私はなぜだか聞き込みが楽しくなってきている。きっとそれは交流が生まれたからかもしれない。会話の内容がどうであれ、私にとってコミュニティが広がっていく感覚は、世界が広がっていく感覚と同義であった。
村長への聞き込み結果。おじいさん。
「レイナはべっぴんさんじゃ。いつも来るのがウィルドじゃなくレイナなら儂もこうふん…」
エルヴァ村護衛団長への聞き込み結果。中年男性。
「今はそれどころではない。今日ウィルドが来ることが分かった。」
4人への聞き込みを終えて成果はゼロ。それよりも最後に別の意味で有力な情報を手に入れた。
「一旦アースさんのところへ戻ろうか。」
カイルが早くも撤収を提案する。まだ続けたい気持ちは山々だが、やむを得ない。エリスもやや不安な表情を浮かべているので、私たちは一刻も早くエルヴァ村を出ることにした。行先を警戒しながら、通りの端をひそひそと歩く。
「何してんだお前ら?」
背後から声が響く。一瞬驚いてしまったが、後ろを振り向くとそこにはラナリーちゃんが不機嫌そうな顔で立っていた。
「なんだラナリーちゃんか…。驚かさないでよ。」
「もうすぐウィルドが来るぞ。」
「ラナリーちゃんも知ってたんだ。」
「知ってるも何も見つけたのはオレだ。さっき護衛団長に伝えに行ったところで…」
急に話が止まった。ラナリーちゃんの目線は私たちの遥か後ろを見つめて動かない。
「早すぎる…。」
私たちもその目線を追って後ろを振り向く。すると遠くからウィルドと思われる人物が、集団を連れてこちらへ歩いてきていた。
「ん?早速若い子を二人発見した。」
目を合わせたつもりはないが、遠くから声をかけられてしまう。このまま逃げれば追われることは間違いない。どうすれば良いか分からず、カイルに判断を任せる。
「落ち着いて。絶対に気負けしちゃダメだ。何かあれば僕が足止めをするから、その時はすぐにアースさんを呼びに行って。」
「分かった。」
私とエリスは力強く頷く。そして、ゆっくりと近づいてくるウィルドに覚悟を決める。
「君名前は?」
「クレア・バース…です。」
名前を伝えて良かったのだろうか。しかし、そんな咄嗟に偽名など出てくるはずもない。
「ふーん。」
ジロジロと私の体を舐め回すように眺めてくる。これが女好きという奴の所業なのか。気持ち悪いが息を止めてただ耐えることしかできない。何があってもこの純粋な体を守らなくては。こんな男に奪われるくらいなら、舌を噛みちぎって死んでやる。
そう強く思いながら、ウィルドの視線をチラチラと追っていると、私の胸のところでピタリと止まった。
「好みじゃない。」
(はあ!?!?!?!?)
「君は?」
「エ、エリス・マートリー…。」
まずい。エリスは決して豊満とは言えないが、私よりかは確実にある…!それに間違いなく美形だ。というか私はまだ成長途中。そう、大器晩成型なのだ。
「僕の妻に何か?」
(は?)
エリスの顔がポッと赤くなる。カイルが機転を利かせただけの設定にも関わらず何照れてるんだ!
「何君?人妻なの?随分と若そうに見えるけど意外とお盛んなんだね。悪いけど僕は人妻に興味はないんだ。ごめんね。」
何とかエリスも窮地を脱した…。いやちょっと待て!何でそれを私の時にやらなかった?どちらかにしか切れない奥義だったのかもしれないけど、私の体を眺めている時間はエリスの何倍もあったよ。
「他を探すか〜。あ!そうだ!君たちヴォルフって男がどこにいるか知ってる?」
なぜここでヴォルフさんの名前が出てくるのだろうか。でも絶対に教えてはいけないことだけは直感で分かる。
「師匠に何の用だよ!!」




