表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第2章 「助けて。誰でもいいから私を認めて。」
45/90

第四十五話 「ラナリーア・ライドール 後編」

 レンドルートの尋問は続く。


「ナイトフォールの歴史にどこまで踏み込んだ?」


「私たちはまだ何も知りません!」


「はっは。まあそうだろうな。この真実に辿り着ける者はまずいない。だからこそ歴史を調べることをあえて禁じていないのだ。好奇心に駆られる人間が増えるからな。」


「ではなぜ俺たちはこんな状況に?」


 少し笑っていたレンドルートだったが、急に真剣な表情に切り替わった。


「お前たちはいずれ辿り着いてしまう。俺がそう判断した。」


 二人はなぜか高揚した。しかし、その側面から間も無く訪れる死を感じ取ってしまう。


「研究はやめます!もうこれ以上は何も調べない!」


「無理だな。もうやめることはできない。今の目はまさしくそういう目であったぞ。」


 命惜しさに発せられたわけではないことを、レンドルートは容易く見抜く。


「俺たちは今ここで殺されるのか?」


「ああそうだ。これは法で裁けないからな。」


 非情な死が刻一刻と近づいていく。


「どうせ殺されるなら最後に教えろ。」


 今まさに真実を知る者が目の前にいることで、二人の好奇心は死の恐怖すら跳ね除けている。


「あんた…、こっち側じゃないな?」


 見透かされたような質問にレンドルートは一瞬動揺する。


「フハハ!流石だな。俺の目に狂いはなかったようだ。…いいだろう、特別に教えてやる。」


 二人は息を呑んで身構えた。これから告げられる真実を知るものはレンドルートを除いてこの世界でたった一人。それは破魔魔法部隊隊長のモーゼのみである。なぜレンドルートがこの事実を隠しているのか、そしてなぜモーゼ隊長のみが知っているのか。それはここでは語れない。


「俺の本当の名は【オーディエント・ナイトフォール】。お前たちならこれ以上の説明は不要だろ?」


 その名を聞いて二人はすぐに腑に落ちた。


「ああ、満足だよ。あとは彼らを信じるだけだ。」


「真実に辿り着けたことを光栄に思うがいい。」


 家の外には野次馬が群がっていた。待機している騎士団員も中で何の話がされているのか、何のためにここへ来ているのかも知らされていない。


 同刻。箒を振り回して遊んでいたラナリーに飽きが生じていた。ユークスはその隙を見計らってセカセカと落ち葉をかき集めていく。


「もういいんじゃねーの?」


「うん!これを片付けたら終わりにしよう!」


 ラナリーは全く働いていない。それにも関わらずユークスは優しい顔でラナリーに微笑む。特に語る必要もないと思うが、ラナリーは決してガキ大将ではない。むしろ、根は友達想いである。ユークスが落ち葉を片付け終えて一息ついた瞬間、ラナリーが急にスタートの合図を切った。


「よしユークス!!いつもの場所まで競争な!!」


「あ!ちょ!ずるいよ!」


 村の元気印は、今日も颯爽と走り続ける。



「さて、お前たちの研究を助力した人間は他にいるか?」


「いません!これは夫と二人でやっていたことです!」


「ふむ。では資料もここにあるので全てか?」


「ああそうだ…!全て燃やしてくれ。」


 力強い眼差しでレンドルートに訴えかける。通常このような状況では拷問が始まるところであるが、百戦錬磨の騎士団長に限ってそれはない。


「いいだろう。最後に何か言い残すことはあるか?無論、俺以外に届くことはないがな。」


 ゆっくりと剣を抜き始めるレンドルートを前に、二人の覚悟は本物に変わる。


「最後に真実を知れた。足を踏み入れたことに後悔はない。あるとすれば、妻を知らず知らずに巻き込んでしまったことか…。」


「ばかね。私だって後悔はない。別にあなたを恨んだりもしないわ。でも…」


 たった一つの心残りが胸の奥から溢れ出す。次から次へと零れ落ちる涙に、娘への想いが照らされる。顔がくしゃくしゃになって、嗚咽も止まらない。それでも最後の想いを、必死に言葉へ変えていく。


「ラナリーの成長を…もっと見たかった…!ご飯はちゃんと食べてくれるかしら…。乱暴な言葉遣いもやめてくれたらいいなあ…。あとできれば悪戯も卒業してほしいわね…。私たちがいなくなっても、強く生きてくれるかしら…?」


「大丈夫だ!あの子は強い!きっと前を向いて歩いてくれるさ!」


 夫婦は体を寄せ合う。その間には、可愛らしくもやんちゃな娘が、確かに二人の心を支えていた。


「もういいか?」


 レンドルートがいよいよ剣を構える。ラナリーの父は娘への想いを殺気に変えて、渾身の威嚇を解き放つ。その一瞬。本当にその一瞬だけはレンドルートを凌駕した。


「ラナリーには絶対に手を出すな…!」


「ああ、約束しよう。」



 ラナリーはユークスとのかけっこに圧勝していた。目一杯歯を見せて笑いながら勝利を豪語する。


「またオレの勝ちだ!」


「ラナリーはフライングしたんだから今回は僕の勝ちだよ!」


 ラナリーとユークスが毎日のように遊んでいる場所。村の片隅にある大きな木の下で、二人は今日もじゃれ合っていた。ラナリーが事を知ったのはこの数十分後。村人がラナリーを探し回って村を駆け回っていたようだ。


 慌てて家に戻るラナリーとユークスではあったが、自分の家はすでに燃焼を始めていて近寄ることができなかった。燃え盛る我が家に飛び込もうとするラナリーを村の大人たちが必死に抑え込む。


「離せ!!父ちゃんと母ちゃんがまだ家の中にいるんだろ!!」


「聞けラナリー!お前の父ちゃんと母ちゃんはアークトリアの手によって殺された!」


 村長がラナリーの両肩をガッチリと掴み、嘘偽りのない残酷な事実を少女に伝える。


「何でだよ!父ちゃんと母ちゃんが何したっていうんだよ!」


「それは儂にもわからない。でもなラナリー…」


 村長は齢9つの少女にはあまりにも酷な言葉を並べていく。しかしそれはラナリーが強い人間であることを信じているからこそである。


「お前はこれから一人になるんじゃ。二人の分もしっかり生きなきゃならん。この燃える家を目に焼き付けて、受け止めなくちゃならない!」


「そんなの…、そんなのできるわけないだろ!!」


 ラナリーは手を振り解いて村の外にある森の方へと走り出した。村の大人たちがラナリーを確保しようと躍起になるが、その身軽な少女を捕まえることはできず、森の方へと逃がしてしまう。


「ま、まずいぞ!」


「ラナリーを追いかけろ!」


 ラナリーが向かっている先はもちろんレンドルートのところである。しかし、それ以上にその森には多くの魔物が生息しているため、少女一人での侵入は極めて危険なものであった。慌てふためく村の大人たちを脇目に、一人の男が立ち上がる。


「俺が行ってくる。あの子を連れ戻してくればいいんだろ?」


「ヴォ、ヴォルフさん!?」


 がむしゃらにレンドルートを追いかけるラナリーは自分が危険な森に足を踏み入れていることに気付いていない。それどころかなぜ追いかけているのか、追いついてどうするのか、未だ整理もついていなかった。何度も転び、立ち上がる。


「待てよ!!」


 幸か不幸か。ラナリーはレンドルートに追いついた。ラナリーの怒号に騎士団員が一斉に振り向く。物凄い殺気を放つ少女にビクついてしまう騎士団員が少々。一瞬押されたことが悔しかったのか、脅しのつもりで剣を抜き始める。


「お前らがやったのか!!!」


 剣を抜かれても、ラナリーの勢いは収まらない。すると、ラナリーの目の前に立ちはだかる騎士団の群れを退けて、事態を察したレンドルートが後ろから現れた。


「剣を収めろ。」


「し、しかし!ガキとてこいつは明らかに反逆の目をしています!」


「黙れ。その娘に手を出すことはこの俺が許さん。」


 特定の個人を、それも支配下の村の人間を擁護するレンドルートを見た騎士団員は動揺した。強靭な肉体、歴戦の騎士から放たれるオーラに、流石のラナリーも少し怖気付く。


「何も聞かずに村へ帰れ。」


「なんで殺した!!オレはお前たちを絶対に許さない!!」


 レンドルートの恐ろしさを知らない無垢な少女は、忠告を無視して怒りをぶつけてしまう。そして、2度目の忠告でラナリーの瞳から正気が失われる。


「何も聞くなと言っている。」


 ラナリーは圧倒的な威圧に押しつぶされ、そのたった一言で腰を抜かす。周りにいた騎士団員でさえも身の毛がよだち、息を呑む。初めて感じた絶対的な恐怖を前に、ラナリーは失禁していた。


 レンドルートは微動だにしない少女を置き去りにして、その場を去っていった。ラナリーの硬直はしばらく続き、周りからは魔物が近づいてくる。ラナリー自身も迫る魔物の存在には気付いていたが、最早動ける精神状態ではない。紛れもない大ピンチではあったが、ここでヴォルフがようやくラナリーに追いついた。


「おい立て。魔物が寄ってきている。」


 声をかけても反応が薄い。


「ったくしょうがねーな。」


 ヴォルフは動けないラナリーを仕方なく肩に担いで村に戻った。まだ明るい森の中、ラナリーとヴォルフの関係は、この瞬間から始まったのである。


「うわっ!お前漏らしてんじゃねーか!」


 ◇◆◇◆


不明点残しまくって申し訳ございません。

ラナリーの両親がしていた研究は近いうちに全て語るつもりです。あまり先延ばしにはしないので、なんかやっちゃいけないことやってたんだなあ、くらいで落とし込んでいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ