第四十三話 「エルヴァ村到着」
ヴォルフさんの案内で私たちは遂にエルヴァ村に到着した。規模は以前訪れたアーセント村と同程度ではあったが、行き交う人の数があまりにも少ない。村の造りは綺麗に行き届いているにも関わらず、ポコポコ村より活気がない。そして、ヴォルフさんの家は村の末端にある自作のログハウスであった。ボロ臭さはあるが、どこか味が出て良い感じだ。
「カイルとクレアは村を散歩していてくれ。大勢で押しかけるのも迷惑だろ。」
「それならラナリーに案内させよう。頼むぞ。」
「めんどくせーな…。」
少女は私たちを気だるそうな目で睨みつけてくる。エリスの肩を射抜いたこの少女を私はぶん殴ってやりたいと思っているが、それでは被害を最小限に抑えたアースの計らいをおじゃんにしてしまう。エリス自身も最適な対応だったと納得しているし、私がどうこうする場面ではない。…それでも、この少女の態度は鼻につく。
込み上げるモヤモヤを抑え込みながら、私とカイルは謎の少女ラナリーに連れられ、村を見て回ることになった。本来ならエリスも同行するところではあるが、今はひとまずヴォルフさんの家で休ませてもらっている。
「ねえ、ラナリーちゃんは何歳なの?」
「ちっ!子供扱いすんな!オレは最強ハンター【ラナリーア・ライドール】だ!お前らよりも強いんだぞ!」
私の問いは無視されているが、まあいいや。
「ハンター?罠師じゃなくて?」
「は?その呼び方は古いぜ。いつの時代のジジイだよ。」
アースのことか。とりあえずラナリーちゃんに話を聞いたが、[罠師=ハンター]の認識で大方問題はないようであるが、ここ最近は呼び方を重んじる傾向があるらしい。いや、どっちでもいいだろ。
「ふーんそうなんだね。私はクレア。よろしくね。それからこっちはカイル。」
私の紹介でカイルは優しく微笑んだ。しかし、ラナリーちゃんはやっぱりどこか不貞腐れているようで、プイッとそっぽを向きながら歩き出した。
「とっておきの店に連れてってやる。着いて来い!」
アースとヴォルフは堅苦しい空気の中、机を挟んで向かい合っていた。少しばかり空気を和ませようとしたのか、アースは本題とは別の話題で話を切り出す。
「少し老けたんじゃないか?」
「旧友みたいな話はよせ。俺とお前は敵対関係だったはずだぞ。今はどうか知らんが…。」
「その口ぶりからして、俺が今どういった状況なのかを知っているようだな。」
「ああ。アークトリアを仇なす反逆者だろ?つい2年前に副団長になったばかりだと言うのに、随分な大罪を犯したものじゃねーか。」
アースたちはポコポコ村を出てから今に至るまで、他の者との接触はなかった。ゆえに、詳しい罪状についてはアース自身も知らなかったのである。すでにヴォルフも述べているが、アースの罪状はアークトリアへの反逆。危険思想が非常に強いため、生死は問わないという名目で指名手配となっている。これを下したのは破魔魔法部隊隊長のモーゼと国の宰相であった。無論、レンドルートが裏で力を加えていることは歴然である…。
「俺も有名人になってしまったか…。」
「元から有名だっただろ。それでそんなヤバい奴が、俺にわざわざ何の用だ?」
「俺は今…」
「いや待て、大体わかる。」
アースが本題にようやく入ろうとしたその矢先。ヴォルフが手を前に出してアースの発言を止めさせた。
「しばらく匿って欲しいとか、そんなところだろ?悪いがお前の逃亡を幇助してやれるほど俺はお人好しじゃないんだ。そこのお嬢ちゃんが何者かは知らんが、怪我を負わせたことはきっちりと詫びをする。だから他をあたってくれ。」
「違う。そうじゃない。」
間髪入れずに否定されたヴォルフは怪訝な表情でアースを見つめる。いよいよヴォルフを勧誘する流れになったことで、側で見守るエリスにも緊張が走った。
「俺と共に、今のアークトリアを転覆させないか?」
一瞬目を丸くさせたヴォルフは、一拍置いてから声高らかに笑い出した。
「はっはっは!本物の反逆者ってわけか!…なら聞くが、なぜお前は騎士団に入った?なぜ14年前の大戦時にアークトリア側についた?言っていることと今までの行動が矛盾しているぞ?」
核心を突いているような質問に、横で聞いているエリスもこの後の返答には興味が湧いていた。
「14年前の大戦中に、俺はある男と約束した。腐敗へと進み始めたアークトリアを、正しい道に導くと…。」
「ほう?14年前から信念は変わっていないと?自分がアークトリアの頂点に立てば、今のこの世界を変えられると?…それなら尚更腑に落ちないな。なぜ今このタイミングで牙を向けた?お前レベルならいずれ騎士団長にもなれただろ?」
アースが反逆者という事実に嘘はない。アースは元々アークトリアを内側から改変させようとしていたが、レンドルートに嵌められたことでその計画が頓挫したのである。その事実をヴォルフは知らない。
「道半ばでしくじった。それだけだ。しかし、騎士団には俺の意志を残してきた。加えてクレアやカイル、それにそこにいるエリスも同じ志を持っている。敵は強大だがやれない相手ではないと思っている。お前の力があれば尚のことだ。……どうだ、ヴォルフ?」
アースが口説きにかかる。しかし、ヴォルフは考える様子を微塵も見せずに即答した。
「面白い話ではあるが、断る。」
「なぜだ?」
「ラナリーを置いてはいけない。それがこの話に乗れない理由だ。無論、連れて行くなどもってのほかだ。」
こうして、ヴォルフの勧誘は失敗に終わった。
エルヴァ村を散歩しているクレアたちは、ラナリーの案内でとある店に足を踏み入れていた。
「ここは雑貨屋だ。オレが作る罠はほとんどこの店で仕入れたものから作られている。何でも売っているから結構面白いぞ。」
私はしばらく店を物色していると、一つの星形ペンダントに目を惹かれたので手に取ってみる。私たちの村では装飾品などという、高価で実用性のないものはまず売られない。
「可愛い…。」
「クレアに似合いそうじゃないか。」
私が女の子の目でペンダントを見つめていると、カイルが急に話しかけてきた。らしくもない高鳴りをしていたことに気づいた私は、恥ずかしくなってペンダントを棚に戻す。
「カ、カイルは何か欲しい物とかないの!?」
「うーん。特にないかな。」
「そ、そうなの!?」
二人の会話を横目で見ていたラナリーはクレアの心境を察していたようだが、カイルは相変わらずの鈍感である。
「なら武器屋に行くか?アークトリアの管理下だから、なまくらしかないけどな。」
私はすかさず賛成し、雑貨屋を後にした。武器屋へ向かっている最中、ラナリーちゃんがようやく私が持っている杖に興味を示してくれた。
「お前その杖本当に魔法使いなのか?」
「そうだよ!」
「ふーん。今時魔法なんて命知らずもいいところだな。お前アークトリアの人間じゃないんだろ?」
「うん…。でも私はね、魔法は自由であるべきだと思ってるんだ。」
「バカだな。そんな理想はいつか破滅する。今はそういう時代なんだ。」
幼い少女が現実を悟ったようなことを口にしたので、クレアは居た堪れない気持ちが込み上げてきていた。
「ラナリーちゃんは今の時代のままでいいと思ってるの?」
クレアは優しく問いかけたつもりだが、これはラナリーにとって触れてはいけない部分であった。
(うっせえ…)
「ん?」
小さな声が聞き取れなかったクレアは平然と聞き返す。しかし次の瞬間、ラナリーの怒りが爆発した。
「うっせえよ!!!いいと思ってるわけねーだろ!!!!」
急に発せられた怒号にクレアは愚か、カイルまでもが圧倒されていた。
ラナリーはあだ名です。本名ラナリーア・ライドール。
キャラ名だけで言えば、個人的に一番のお気に入りです。




