第四十話 「忍び寄る二人組」
第二章開幕です!よろしくお願いします!
「ねえアース!《防御魔法》のテストをしてよ!」
私たちは故郷を旅立ってから早くも18日が経過していた。魔物との戦闘はほぼカイルが担当している。時々私が援護に入るのだが、正直言って私など必要ないくらいにカイルは頼もしい。それゆえに最強アースの出番など一度もなかった。所々でエリスが吹き矢を構えて見せたが、私たちは腫れ物を触るかの如く、やる気を見せるエリスを何とか抑止している。
そういえば、私は昨日初めて魔物を食した。最初こそ抵抗はあったものの、いざ口に入れてみればなんてことはなかった。むしろ、美味しいと言って良いほどである。それから私の好奇心に火がついて、倒した魔物は全て食べたいとカイルとアースに言ったのだが、食べられる魔物はかなり少ないらしい。ちなみに、それは毒性があるということではなく、ただ単に吐き気を催すほどのクソみたいな味だからだってアースは言っていた。
いかん、いかん。話が逸れてしまった。《防御魔法》のテストである。私は野営時に皆が眠りについてからもコツコツと練習に励んでいた。その成果を今、見せつけてやる!
「いくよ!………《防御魔法》!!」
形は初めて出した時と何ら変わらない六角形のシールドである。ただし、サイズは少しだけ小さくなっていて硬さを凝縮しているつもりだ。
「おいカイル。クレアの《防御魔法》を壊してみろ。」
なるほどね。試験官はカイルか。かかってきなさい!
「本気でやるよ。」
カイルは大きく剣を振りかぶって、私の自信作に本気の力を叩き込んできた。お願い…、お願い…。私は割られないことを切に願ってシールドを見つめる。しかし…
「はっはっは!カイルの剣を防げないようじゃあ、まだまだだな。」
くっそ〜。こうなったら一回魔力の器を無視して、最硬で堅牢なシールドを作ってやる。私は悔しい気持ちを払拭するため、すぐさま再テストを懇願した。しかし、アースは私の考えを、簡単に見破ってきた。
「今、魔力の器のせいにしただろ?」
ギクッ…!!
「その話は俺も初めて聞いたが、断言する。クレアの魔力の器でも、十分に堅牢な《防御魔法》を作ることはできる。生まれ持ったものを言い訳にはするな。」
厳しいお言葉を頂戴したところで、このテストは不合格となった。自信があったからこそ、軽々と壊されてしまったことは正直辛い。壊した本人のカイルはというと、ただ自分の手を見つめて何かを思い詰めたような表情を浮かべていた。
「クレアならできるわよ。私も吹き矢の練習は頑張るから。」
そっと私の肩に手を添えて、エリスが励ましてくれる。しかしどうか、エリスには毒以外の戦闘方法を考え直して欲しいところである。
「はいこれ。とりあえず1つね。」
複雑な気持ちのまま受け取る魔力増幅薬。私はこの薬に依存しなければならない。こういう悔しい気持ちもエリスがいなければ生まれてこなかったのであろう。ちなみにエリスだけは大袈裟な荷物を背負っている。その中では今もなお、魔力増幅薬が作られているらしい。持ち歩き可能な自動調合装置を開発し、コンパクト形状に収めたのだという。どこまで天才なのだ。
長い平原をひたすら歩き続ける私たちの背には、綺麗な夕陽が今日の終わりを告げようとしている。カイルは手にした地図を広げて、エルヴァ村まであとどれくらいで着くのかを皆に知らせてくれた。
「この調子なら明日には着きそうかな。」
「ふーん。案外あっという間だったわね。」
意外にもエリスが最初に反応した。私も正直同じような感想である。エルヴァ村に入るには最後に大きな森を通過しなければならない。アース曰く、その森には魔物がたくさんいるらしいが、どれも小型で特段危険というわけではないそうだ。
「そういえば、エルヴァ村に入る前に二つ忠告することがある。」
アースがやや深刻な表情で私とエリスに向かってエルヴァ村の実情を伝えてきた。
「あそこはアークトリアの暴政がとにかく悲惨だ。死んだ目をしている人間も大勢いる。同情の目を向けるようなことだけは絶対にするな。」
私たちの故郷であるポコポコ村は14年前の大戦時、連合軍に加盟することなく開戦前から白旗を上げていた。ゆえにアークトリアからの圧政度合いもかなり低い。参戦しなかった理由については、そもそも戦える人間がいなかったことが大きな要因だったらしい。なんにせよ、私が今こうして魔女を目指していることがアークトリアにバレていないのだから、当時のポコポコ村の英断には感謝しなくてはならない。
「それから、これは万が一俺やカイルと村ではぐれた際の心構えの話だ。いいか?アークトリアの人間と出会っても絶対に敵意は見せるな。まだお前たちが敵うような相手はアークトリアにはいない。何かあればすぐに俺を探せ。」
二つ目は少しだけ身の毛がよだつ様な忠告である。しかし、何とも頼もしい最後の言葉が、私たちの不安を大きく和らげた。
アースから告げられた二つの忠告を肝に銘じながら、薄暗い平原を静かに歩く。そして、私たちはエルヴァ村到着の前夜を迎えた。野営の準備に取り掛かり、私の手料理をみんなに振る舞う。
今日のメニューは【ドッカンラビット】という、危機に陥ると自爆する魔物の肉だ。爆発部位は脳であり、そこ以外は全て美味だという。ちなみに、自爆前に仕留めなくてはならないのでドッカンラビットの肉はかなり入手困難な代物らしい。そこで私の登場であった。《光輪分断》の奇襲で首チョンパをすることにより、爆発前に仕留めることができる。私はご馳走を楽しみに首から下を回収していたが、エリスは逆に爆発する脳に惹かれたようだった。頭を捌いて脳ミソを取り出し、バッグに仕舞い込んでいた。…正気の沙汰ではない。
「美味しい…!」
「久しぶりに食ったがドッカンラビットはやはり美味いな!」
明日はいよいよエルヴァ村到着。最高の料理で前夜を過ごし、私たちは温かい雰囲気のまま、ゆっくりと眠りについた。
太陽が一際目立つ、雲ひとつない快晴の昼時。森の中に聳え立つ、一つだけ背の高い木の天辺に立って、一人の少女が辺りをキョロキョロと見回している。すると、何かを見つけたのか下で見守る男にそれを伝えた。
「師匠!!西の方角から誰かくる!………ん〜〜?」
「西だと!?アークトリアか!?」
「たぶん違う!!男二人に女二人!!」
男は自分の目でそれを確かめるために、木の天辺にいる少女の下へと向かう。軽い身のこなしでひょいひょいと登っていく。そして男は、目を細めて遠くにいるその4人を観測した。
「ん?あいつアークトリア騎士団の元副団長じゃねーか?他の奴らは知らんが、今世間を賑わせるお尋ね者がこの村に何の用だよ…。」
「どうすんだ?」
少女の問いに、男はしばらく長考している。中々考えがまとまらないことに痺れを切らした少女が、物騒な提案をふっかけた。
「お尋ね者なんだろ?殺っちまおーぜ?」
男は少女の頭をポカンと叩いた。
「ばか、お前じゃ瞬殺される。」
「イッタ…!ぶたなくてもいいじゃんか…!」
しかし、その男はニヤリと不気味な笑顔を浮かべた。徐々に湧き上がる強者への闘争心が、その男の本能を呼び覚まそうとしている。
「まあでも、久しぶりに面白い奴が来たな。大方逃亡中ってところだろ。手を出してもお咎めはないし、少しおちょくってみるか。お前はいつでも逃げられる準備をしておけ。」
「何だよ!結局やんのかよ!」
少女はただ、理不尽な暴力を受けただけであった。




