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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第1章 「私はそれでもやっていくしかないんだよ」
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第三十九話 「明るい未来に向かって」

 私がこれから覚える新魔法。それは《防御魔法(バリア)》という、魔法使いなら当然のように扱える魔法らしい。基礎中の基礎であり、これがなければ魔法使い同士の戦いでは勝ち目がないと、アースは言う。


 魔法に関して魔導書は愚か、教えを乞える師匠もいない。私は無知識のまま、ただ草むらを掻き分けるかのように突き進んでいた。…いや、そういえば一人いたかな?


 ところで剣士に魔法を教えられるというのも変な話だ。しかし教えてくれる人がいるということに、これほどありがたいと思ったことはない。エリスには大変申し訳ないが…。


「杖を貸してみろ。手本を見せてやる。」


「え?」


 私はアースの自身ありげな態度に少し動揺して、言われるがままに杖を手渡してしまった。別に何かを疑っていた訳ではないけれど。


「いいか?《防御魔法(バリア)》はイメージの強さが顕著にでる。かといって、敵の攻撃が飛んできてから悠長にイメージしていては本末転倒だ。今から見せる《防御魔法(バリア)》を何度も練習して体に染み込ませろ。」


 私はただ黙って聞き受けているが、杖を持つ騎士の姿がどうしても真剣さを損なわしてくる。笑ってはいけない…。笑ってはいけない…。そして、アースが杖を構えて軽く息を吸った。


「すぅ〜っ。《防御魔法(バリア)》!」


 すると、二人の間には六角形のシールドが出現した。青透明のガラスのように美しく、大きさは私の顔くらいだ。私は興味本位でそのシールドを手の甲で2回叩いた。


「硬い…。」


「当たり前だ。自分の身を守る魔法なのだからな。これと同じものを作るイメージでやってみろ。」


 アースから杖が返ってきて、私の番がくる。最初だからイメージは丁寧に…。青、六角形、硬い、うーん…結界に近い感じかな?そして、瞑っていた目を力強く見開いたと同時に、私は杖を思いっきり前に掲げた。


「《防御魔法(バリア)》!!」


 私の初《防御魔法(バリア)》は、なんと見事に成功してしまった。またしても私たちの間に一枚のシールドが出現する。アースが最初に出したものと大差ない出来栄えに、私は更なる自信が芽生えてくる。


「やった!」


 だが、声に出して喜んだのも束の間、アースが剣を振るって、私が初めて放った《防御魔法(バリア)》をいとも容易く粉砕してしまった。パリーン!と音を立てて割れるシールドが、私の心とシンクロする。


「やわいな。」


 芽生えた自信はわずか数秒で失墜させられた。あまりにも衝撃な出来事に、私は苦笑いをすることしかできない。


「だが初めてにしては上出来だ。これを繰り返し練習して強度を上げていけ。ただし、俺が認めるまでは実戦で使うな。」


 実戦での使用を禁止したのは無意味であるからであろう。いや、《防御魔法(バリア)》を貫通されてしまうようであれば、かえって痛い目に遭うからか。今のところ私は、攻撃は避けるしか手段がないらしい。そんなことはさて置き、何でアースは軽々と魔法を使えるんだろうか?ちょっと悔しい…。まあ、考えても埒があかないから、アースは超人ということにしておこう。


 私は心を入れ替えて、来たる出発の日まで《防御魔法(バリア)》を猛特訓した。途中魔力切れを起こしてしまったが、エリスに泣きついて少量の魔力増幅薬を手にいれて、何とか練習を捗らせることはできた。


 ポコポコ村を立つ前日。私たちは再度集まって、エルヴァ村への道のりを確認しあった。ルートについてはアースが選定したらしく、ここから20日はかかるらしい。まだ力のない私たちに気を遣って、なるべく安全なルートを選んでくれたようだ。


「危険な道を選ぶほど、先を急いでいるわけでもないしな。」


 私はなぜか、危険な道のほうに興味が湧いてくる。アースに聞いてみると、最短ルートの場合はレクト樹海を通る必要があるらしい。その樹海には危険な魔物が多く潜み、中でも【テング】と呼ばれる赤面に長い鼻を持つ人型の魔物がかなりの脅威だと言う。人間の数倍はある速さで相手を翻弄し、体力を奪いつつネチネチと追い込んでくるとか…。アース自身もできれば戦いたくはないと言っている。


「うん!安全ルートで行こう!」


 切り替えの速さは大事だ。別に都合がいいとかの話ではない。合理的に考えた結果、レクト樹海は避けるべきだと私も思っただけである。そうしてエルヴァ村へのルートが定まったところで、エリスが急に怪しい液体の入った小瓶を一つ、テーブルの上にそっと置いてきた。


「なにこれ?」


「猛毒を作ってみたの。経皮毒だから触れただけで痺れと激痛が襲いかかるわ。加えて血管に入り込めば全身に行き渡って、ただじゃ済まない。」


 何という恐ろしいものを作っているんだ。もはや私は若干引いている。しかし驚くべき話はここからで、エリスはこの毒を塗った吹き矢で、魔物と戦うと言い出した。


「吹き矢の精度は…?」


 カイルが少し不安そうな表情をしてエリスに問いかける。


「自信ないわ。でもみんなには当たらないよう気を付けるわよ。」


 恐れを知らないアースですら、今の発言には絶句している。自分も戦えるという意思表示でお披露目したつもりなのだろうが、私たち3人は全く別の意味で不安が募り始める。しかし、他人の心境を察することが苦手なエリスは、腰に手を当てて、随分と誇らしげに鼻息を吹いていた。


 出発前の最後の夜。私はいつもより早く眠りに就こうとしていた。しかし、明日の旅立ちが胸を躍らせ、興奮が収まらない。布団にくるまってモゴモゴしていると、扉の開く音が聞こえた。エリスが部屋に入ってきたようだ。子供のようなワクワク感をエリスに見られることが少し恥ずかしくなり、私は急に静まり返った。寝ているフリを貫き通そうとするも、私の布団は無情にもめくられてしまう。


「ちょっ!なによ!」


「どうせクレアのことだから、興奮でまだ寝ていないと思ってね。」


 図星を言われて私はカアーッと顔が火照ってきた。分かりやすい表情を見せてしまったことで、エリスが小さく笑いを浮かべる。するとなぜか、エリスは何も言わずに私の布団に潜り込んできた。


「え、え!」


「私も今日は寝るのに少し時間がかかりそう…。」


 同じ気持ちでホッとした。それから私たちは同じ布団の中で、数分置きにちょっかいを出し合いながら、どちらが先に眠れるかを競い合うという、しょうもない遊びに明け暮れてしまったのである。


 そして私たちは支配国アークトリアへ立ち向かうべく、いよいよポコポコ村を発つ日が来た。村の人間にはこのことを伝えていない。よからぬ噂が立って村に危険が及ばないようにという、私とエリスの二人で出した決断だ。ゆえに、見送ってくれたのは両親だけである。


「必ず帰ってきなさい。」


 ミリーゼさんの言葉に、私とエリスは力強く頷いた。


「無茶はしないでくれ。逃げ出したって構わない…。だからいつでも帰ってき良いように……」


 ハンスさんは話の途中で嗚咽した。私たちが村を出ることが決まってからはずっと明るく振る舞っていたのだが、最後はやっぱり涙を抑えきれなかったようだ。


「娘たちを頼みます…。どうか…、どうか…」


 涙を地面にポタポタと垂らしながら、ハンスさんは深々と頭を下げる。カイルが強い意志でそれに応えると、アースだけがゆっくりとハンスさんに近寄っていく。そして、私たちには聞こえない小さな声で、そっと耳打ちをした。


(二人をクレアの両親と同じ目には絶対に遭わせない。必ずだ。)


 その耳打ちに、ハンスさんの表情が急変した。何を言われたのかを私たちは知らないが、驚いたその表情に不安の色は感じられなかった。


 そうして私たちは歩き出す。何度も何度も振り返ってみても、両親が私たちに手を振っている。二人の姿が見えなくなる直前に、私とエリスも大きく手を振り返す。そして、せーのの合図で同時に叫んだ。


『いってきます!!!』


 大きな挨拶で少し照れくさくなってしまった私たちは、お互いに肩をぶつけ合いながら、小さく駆け出した。


次から第2章です!

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