第二十五話 「ナイトフォール」
性懲りも無く、まだ採取を続けようとさせるアークトリア騎士団にダッケンさんが反発する。
「これ以上は不可能です!皆が疲弊している!」
この山に更なる魔物がいると知った今、村の人間が仕切り直して月光草採取などできるはずがない。カイルという人間に出会ってから、アークトリアへの印象が変わりつつあった。しかし、あまりにも酷な命令に私は現実を思い知らされる。
「黙れ!本当の意味で月光草がないと困るのはどっちだ?」
その問いに私は全ての真相を悟り始めた。この騎士団員は決して自己満足や自国への貢献のために私たちを強制したのではない。その逆である。
アークトリアへ月光草を納められないということは、村の安寧が脅かされるということ。そもそもこの状況に陥ることを知っていたのならば、カイルや副団長は村に通告することで未然に防げたはずだ。だから副団長はあの時、私には真相を伝えずに次の採取には来るなと警告していたんだ。そして、全てを予測できているカイルを私たちの護衛に任命することで、万が一に備えて最初から私たちの側に配置していたということ。
不器用すぎる言い方ではあった。しかし、全ての意味が紐解かれた。私の中で副団長に対する印象は、尊敬や憧れと言った類の感情を超越した何かに変換されていた。
「みんなもう一踏ん張りだから頑張ろう!私が先に魔物を倒してくるから!」
私の言葉で全員の目の色が変わった。
「ごめんエリス、少しだけ離れちゃうけど絶対に無茶はしないから。採取頑張って!」
「絶対だからね。」
私とエリスは両手を握り合い、確かな絆の中で約束を誓った。
「おい、お前はどうするんだよ。」
頬を赤くしているカイルに向かって、アンベルが声をかける。
「僕は…、クレアと一緒に行く。取り乱してすまなかった。アースさんを信じきれていなかった自分が憎いよ…」
そして私はみんなと離れた。エリスたちには村の護衛団4人と、アークトリア騎士団10人が護衛としてつくことになり、私はカイルを含む6人で更なる魔物を倒しに行くことになる。
まさか、天下のアークトリア騎士団と魔物討伐に向かうことになるとは思っていなかった。変な緊張が私を襲い、カイルの斜め後ろをべったりとくっ付き、離れることができない。
「なんだカイル、随分と懐かれている様じゃないか。…色恋沙汰か?」
「ふっ…」
カイルは鼻で笑い飛ばしたが、クレアは頭から湯気が出るほど顔を赤くして下を向いている。そして、カイルは冷静に話を逸らし始めた。
「そんなことよりアンベル、今日来る魔物についての情報はあるのか?」
「ない。お前と別行動になってから一度アークトリアへ引き戻されているんだ。そのせいで操魔族の足取りを直前のところで見失ってしまった…。」
「団長が今日ここに来ていることと関係しているのか?いや、それよりもなぜレイナと手を組んでアースさんを嵌めたんだ?」
「それもよくわからないが、団長がレイナを唆しているように見えた。昔からあの二人は仲が悪いだろ?立場はもちろん団長が上だが、実力は間違いなく副団長のほうが上だ。だから、レイナを使って憂さ晴らしにでも来たんじゃないかと思っている。」
「なんだそれ!?外道もいいところじゃないか!」
私は話について行くことができないが、そのレイナという女性に俄然興味が湧いてきている。
「そのレイナっていう人はどんな人なんですか…?」
「貴様…!我が国の支配下であるにも関わらずレイナを知らないのか!?」
「す、すみません…。」
私の無知にカイルも微笑を浮かべている。
「よいか?レイナは破魔魔法部隊隊長【モーゼ】の娘で、その血を色濃く受け継いでいる。その才能は若くして芽を出し、14年前の大戦時には齢16という若さで数多くの村を堕とし、アークトリアの勝利に大きく貢献した。そして、その大戦をきっかけに世界に名を馳せた大魔法使い。それがレイナ・ナイトフォールだ。」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。16ということは今の私と同じ年齢じゃないか。天性の才能というものに嫉妬してしまう。ちなみに私は破魔魔法部隊の隊長がモーゼという名であることも初めて知ったのである。
ん?ナイトフォール?どこかで聞き覚えのあるような…。そうだ!魔女セレシアだ。私の好奇心に更なる火が灯る。
「ねぇカイル!セレシアさんもナイトフォールじゃなかったっけ!?」
「そうだね。気になるなら、ここで一つ歴史の勉強をしよう。」
エリス先生の月光草座学より、格別に興味が湧いてくる。私は真剣な眼差しでカイルの話に耳を傾けた。
「簡単に言えば、今から500年近く前に一度この世界に神として君臨した一族だ。…さてクレア、どうやって神になったと思う?」
ま、まさかの質問形式!?
「うーん。今のアークトリアと同じように力を誇示したんじゃないかしら。」
「正解ではあるけど、肝心なところが足りていない。正解は“虚勢で世界を脅かした”だ。」
「どういうこと?」
「ナイトフォールは創造神を打ち滅ぼしたと世界に宣言したんだよ。」
「待って!!創造神なんて存在しない!それくらい私でも知っているわ!」
「そのとおり。でも昔の人は違う。崇拝する神がいなくなった民はどうなる?そう、ナイトフォールは恐怖の象徴としてその日から別の意味で神になってしまった。」
「反乱は起こさなかったの?」
「話はこれからだよ。その天下取りは儚くも1年足らずで崩壊したと言われている。」
「誰かがナイトフォールを倒したのね。」
「それがそうじゃないんだ。彼らはなぜか、突然自害をはじめた。」
「え?神になったのに?」
「面白いだろ?何かに取り憑かれたように次々と自害していったそうだ。中には一家無理心中で我が子を殺める親もいたとか。それ以降世界の人間はこれを創造神の天罰と唱え、ナイトフォールは虚言悪魔のレッテルを貼られた。」
「自業自得ね。」
「それでも、集団自殺の影響を受けなかった者たちもいた。生き残った彼らは影を潜めて数百年近く逃げ隠れしていたそうだ。」
「じゃあ、その末裔っていうのが…。」
「今度は察しがいいね。そう、セレシアやレイナのことだ。どういうことか、今もなおナイトフォールを名乗り続けている。」
「随分と詳しいなカイル。いつの間にそんなに博識になったんだ?」
カイルが語る昔話に興味を惹かれたのは、私だけではなかったようだ。アンベルも自分が知らなかった事実に驚嘆したのか、口を挟んできた。
「両親が歴史好きだったんだよ。小さい頃はよく聞かされたもんさ。」
一通り話を聞き終えたところで、私は妙に世界が広がったかのように感じた。もっともっと色んな歴史を知りたいと思ったが、それは今ではない。
そろそろ第1章の佳境に入っていくのですが、1章のうちにどうしても語っておきたかったことを第二十五話に放り込みました。




