第二十二話 「破魔魔法部隊レイナ」
――ポコポコ村の月光草採取一行がオークと遭遇する数時間前。
アース副団長率いる小隊はクレアたちとは違う山の入り口で思わぬ足止めを喰らっていた。
「なぜレイナがここにいる?」
アースたちの前に立ちはだかるのは【レイナ・ナイトフォール】という女性だった。彼女はアークトリア帝国の破魔魔法部隊であり、屈指の魔力量を誇る天才的な魔女であった。年齢はクレアのひと回りほど上で、大人びた綺麗な容姿をしている。
「あなたのところの団長に良い話を持ちかけられてね。悪いけどこの山には立ち入らせないよ。」
「良い話だと?なんのことだ?」
「教えたら大人しく引き返してくれる?」
「それは無理だな。」
この時、レンドルートがレイナに持ちかけていた“良い話”とは四大精霊の一体【地の精霊】の情報である。地の精霊は現在この世界では誰の手にも宿っていない、言わば野良の状態であった。その目撃情報開示との交換条件で、レイナはアースの足止めを引き受けている。
「団長はなぜレイナを送り込んでまで我々の足止めをするのでしょうか?」
アースの側にいる兵士が真っ当な疑問をぼやく。レイナ自身はただ地の精霊を我が手に納めたいという願望のためだけに動いているから、そのことには全く興味がない。
アークトリア騎士団のトップ2は長い間不穏な関係が続いてはいるが、これに関してはアースも不可解であった。
(俺の命令無視がそんなに気に入らないのか…?だとしてもレイナを使うっていうのはいくらなんでもやりすぎだな。何か裏で糸を引いているのか?)
「よくわからんが、そこは通してもらう。引くなら今だぞ。」
「あれー?私舐められてる?一応あんたの足止め程度なら余裕だと思って来たんだけど。」
先を急いでいるアースはこれ以上の会話は無駄だと思い、速攻をかける。大剣を握りしめて距離を詰め始めるアースに対し、レイナは一瞬焦ったが、すぐに杖を横向きに構えて応戦した。
「《爆裂突風》!!」
レイナの放つ魔法がアースの猛進を拒んだ。強烈な風魔法をまともに受けたアースだったが、吹き飛ばされることもなく大剣を地面に突き刺して耐え忍んでいる。
「誇り高き騎士団のくせに不意打ちみたいな真似やめてよね。」
魔法は止まり、アースは一歩も下がることなく耐え切った。何事も無かった様な顔で平然としているが、無詠唱とはいえ《爆裂突風》をまともに喰らって無傷に近い状態でいるアースのほうが異常なのである。
実際、単純な力の差ではアースの方にやや分がある。しかし、レイナが扱える魔法の数はこの世界でもトップクラスで、手数で攻めることに長けている。そのため、レイナは“足止め程度”と表現していた。
そして、アースの番である。横に振りかぶった大剣は赤く光りだし、バチバチと音を立てながら火花が散り始めた。
「《滅焔・流火斬》!!」
大剣を上へ振り切ると同時に、津波のような炎が出現した。躱しきれないほどの広範囲な攻撃が、レイナを飲み込む。後ろで見ていたアースの部下達はやったと思ったが、アースは違った。滅焔魔法を放った直後からすでに走り出していたのである。
炎の津波は間違いなくレイナを飲み込んではいたが、消えかかる炎の中からは結界で身を守るレイナの姿が無傷の状態で現れた。余裕な顔を見せてはいるが、そこまでアースは読んでいた。
「うぉらあああああ!!!」
炎が晴れた途端、結界で身を守るレイナの目の前にはアースが剣を大きく振り上げて迫って来ていた。滅焔魔法を防ぐほどの強固な結界ではあるが、アースの会心の一振りには耐えられない。
(あっぶなあああ…!)
レイナは紙一重で躱しきっていた。アースのその一振りは凄まじいもので、結界を破るだけではなく地面にまでその剣がめり込んでいる。
その隙にレイナは少しだけ距離をとる。魔法使いは元より接近戦が得意ではないので、剣士との戦いでは遠距離に持ち込むのが定石である。
しかし、相手がアースの場合はその限りではない。距離を取り過ぎると、滅焔魔法の波状攻撃の餌食になるからである。モーションが大きい分、ある程度距離は詰めて滅焔魔法を放つ隙を与えないようにするのが、レイナの作戦であった。
「あんたやっぱりズルすぎるって…。」
「引く気になったか?」
「残念。私にはまだとっておきがいくつもあるのよ!」
レイナのこの発言は決してハッタリではない。詠唱して魔法を放つことができれば、いくらアースでもタダでは済まない。
詠唱の隙を作るため、レイナは防壁を作り出す。地面が揺らぎ、二人の間からは巨大な土の壁が隆起し始めた。もちろんアースはこの魔法の直後にレイナが詠唱を始めようとすることはわかっていた。
しかし、二人を遮る防壁の先でレイナがどんな魔法を放ってくるかまでは予想が付かず、詠唱の声もアースには届いていない。防壁を打ち破ることはせずに、次の攻撃に備える。
「天より轟く雷霆よ、今ここに降り立ち、全てを打ち砕け!神々の力を集めしその雷撃、天地を揺るがす一閃を以て、全てを灰燼に帰せ!」
遥か上空で禍々しい黒い稲光がゴロゴロと鳴り始める。レイナは長い詠唱の後に高威力の魔法をアースに向かって解き放つ。
「《裁きの天雷撃》!!」
黒い雷の刃が光の速さで地に向かって降り注ぐ。アースは咄嗟に大剣で受け止めようとするが、レイナの放った魔法の威力は凄まじく耐えきれなかった。
若干ではあるが攻撃を受け流せてはいたため、致命傷とはならなかった。アースは手と膝を地面につけて余裕のない表情を浮かべている。髪はチリチリになっていた。
《裁きの天雷撃》の衝撃で隆起していた土の壁は崩壊し、再び二人は顔を見合わせる。アースにダメージを与えて、膝をつかせていることを確認したレイナは追撃の魔法をすぐさま放った。無数の光の矢がアースを射抜きに掛かる。
すると、意図せず二人の間には炎の防壁が出現していた。
「おい!なにぼさっとしてるんだ!」
火の精霊が姿を現していた。幼い容姿をしているその姿を見たレイナが目をハートにして反応する。
「きゃー!可愛いいいい!」
所謂、ショタコンである。
「えぇ!?火の精霊って初めて見るけど、こんな子だったんだ!ねえねえ私に着いてこない?そこの騎士さんよりずっと可愛がってあげるから!」
一般的な男子であれば、おじさんと美女のどちらにつくべきかについては議論の余地などない。しかし、見た目が男児とはいえ精霊には煩悩がないのである。
「…何だこいつ?燃やしてやろうか?」
ちなみにレイナは知らないが、今追い求めている地の精霊の見た目は醜い小人のおっさんである。




