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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第1章 「私はそれでもやっていくしかないんだよ」
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第十九話 「魔力の器」

 私は胸を強く握り締め、痛みに耐えるようにしゃがみ込んだ。エリスが慌てて私に駆け寄ってくる。


「どうして!?なんで!?私が使った時は何もなかったのに!」


 エリスが私の背中に手を当て、泣き出しそうな表情をしている。私は胸の痛みよりも、エリスのその表情のほうが辛かった。お願いだから、泣かないでほしい。


「だ、大丈夫…。」


 私は強がって答えたが、エリスの表情は変わらない。こんなことなら、痛んだ瞬間から耐えるべきだった。


「ちょっと待って、今お父さんを…」


 必死に痛みに耐えて平常を装う私だったが、気づくと徐々にその痛みは和らいできていた。私はハンスさんを呼びに走り出そうとしていたエリスを引き止める。


「エリス、本当に大丈夫。もう大丈夫だから。」


 痛みの原因には勘付いていた。エリスが先に試したということに嘘はないに決まっている。だから薬自体に副作用はないはず。違いがあるとすれば、魔法を放った直後ということだけだ。


「私そんなつもりじゃ…。何回も安全性は確認してて!」


「わかってるよ。きっと原因は私。」


 自分の身に起きた出来事は自分が一番よくわかっている。お互いに知らなかった魔法の真実を、私なりの見解でエリスに伝える。


「私の魔力の器がそもそも小さいからだと思う。あんな強大な魔法を私の器で無理矢理放ったら、それはこうなるよね…。あはは。」


 私はあくまでも明るく答える。この事実は私もエリスも知らなかったこと。いや、この世界でも知る人は少ないだろう。なぜなら、魔力の増幅薬なんて代物はきっとこれが初めてだからだ。


「じゃ、じゃあ、私がやってきたことは……。ううん、もうこの薬は作らない。クレアのあんな痛がる姿を見たら私…。」


「ちょっと待って!」


 私の中で考えはあった。エリスが私のために作ってくれた薬を無駄にはしたくない。それでいて、私自身もあんな痛い目に遭うのはもう御免だ。私が導き出した答えは単純なものだった。


「小さい魔法の連発ならできるんじゃないかしら?」


 ずっと辛そうな表情をしていたエリスの顔が和らいでくる。


「前に話していた《希望の煌紐(リヒト・バインド)》だっけ?そういうのってこと?」


「そうそう!それにエリスが新薬の研究に没頭している間にもう一つ新魔法を習得したのよ!」


 話が明るい方向に進み始めている。その機を逃さないように私は新魔法をエリスに見せつける。小石を生み出し、勢いよく飛ばした。さっきの強大な魔法と比べて、酷く見劣りしてしまう魔法だ。


「どう?これなら何発打っても大丈夫よ!」


 その魔法の直後に胸を締め付けるような痛みは一切なかった。私の考えは間違っていなかったということになる。あの薬を使えば何回だって魔法を生み出せる。


 クレア自身は深く考えていないが、ここでいう魔力の器とは魔力を保持するための容器のことではない。


「この薬をたくさん作るには逼魔草がもっと必要になるってこと?」


「ううん、逼魔草から放たれる魔力を使っているだけだから、あれ一本で十分なのよ。本当に尽きることのない魔力ならね。」


 エリス曰く、月光草はその名のせいで光を蓄積することで発光する薬草として広く知れ渡っているが、本来の力はその蓄積効果にあるという。月光草といえば照明という概念に囚われていた私にとって、エリスの着眼点には感服させられる。


「でもね、逼魔草の魔力放出は本当に微弱で量産はできないの。さっきクレアに渡したのはそれでも1日分の魔力を蓄積しているわ。」


 次の満月までは残り3日。カイルの言う通りになれば、魔物の軍勢がテンラン山に押し寄せてくる。私の魔法でエリスたちを守ると心に決め、次の満月までにその薬をあと一個だけ作ってくれるようエリスに頼み込んだ。


「あ!忘れてた…。もう3日後か。」


 どうやらエリスは新薬の研究で何も見えなくなっていたようだ。私は少し呆れてしまったと同時に羨ましくも思った。ここまで周りが見えなくなるほど、没頭した経験がないからである。


「クレアはもう見学でいいわよ。それまでにもう一個だけ同じ薬を作ってあげる。でも2度とあんな強大な魔法は使わないって約束して!」


 私はエリスを見つめてしっかり頷いた。


 結局私はただの見学…。いや、護衛として同行することになった。私の魔法が遂に誰かの役に立つ日が来る。そう強く願ってからどれだけの月日が経っただろうか。私の思い描く未来が、すぐそばに近づいている気がした。


 最後に、他に誰もいないこの場でエリスが私に囁いた。


「この薬のことは内緒よ。多分これは、アークトリアに目をつけられる…。」


 私はゴクリと息を呑み、小さく頷いた。



 そして3日後。夕日に照らされた村の中央で、私たち一行は満月の夜を迎えようとしていた。


 二十人くらいはいるだろうか。私たちと同じように薬草に関する仕事に就いている者たち、中には趣味で同行する者もいる。他には村の護衛団が5名。


「クレア、君は今回が初めてだね。あまり無茶せず、我々から離れないように。」


 そう私に告げるのはポコポコ村護衛団団長のダッケンさんである。優しい言葉をかけてくれるが、私の持つ杖に疑問を抱いている。


「その杖は必要なのか?余計なものは持っていかないほうがいい。」


 皮肉でも何でもない純粋な気遣いである。だから余計なものというワードに嫌気が差すこともなかったが、私は何かを誤魔化すように言い訳を述べた。


「ま、万が一のために…です。」


 緊張と照れが混ざったような表情でクレアが答える。ダッケンはクスクスと笑い、それ以上クレアの杖に対して何かをいうことはなかった。


 そして、カイルが甲冑を見に纏い、私たちに合流してきた。久しぶりにみるカイルの甲冑姿は、やはり騎士団であったことを思い知らされる。


 かしゃかしゃと音をたてて登場するカイルに一行の目線が集まり、ダッケンさんは慌てた様子でカイルに話しかけた。


「あ、アークトリア騎士団様がなぜ!?」


「すみません。訳あって同行させてもらいます。」


「と、とんでもない!!」


 アークトリア騎士団には頭が上がらないというこの村のことも、カイルのことを知っている私にとっては最早笑える光景であった。


 全員が揃っていることを確認したダッケンさんが出発の号令をかける。


「さあ、皆さん!それでは参りましょう。テンラン山は魔物が少ないはずですが、くれぐれも我々から離れないように!」


 私たち以外は今日魔物の軍勢が襲いかかってくることを知らない。ハンスさんは最後まで今日の採取には一人で行くと豪語していたけど、私とエリスが何度も副団長がいれば大丈夫と説得し、渋々同行を許可してもらえた。


 私は一応カイルに確認をとる。


「今日、本当に副団長さんはくるの…?」


「そのはずだ。でも小隊との合流までは君たち家族は僕が守るよ。」


 心強いカイルの言葉に私たちは安心した。カイルがいて、副団長もくる。それに村の護衛団も付きっきりで私たちを守ってくれる。盤石の布陣に恐れはなかった。


 私の出番はないかもしれない…。


(というか!私の魔法を騎士団の人達に見られたらまずいんじゃない!?)


魔法と魔力の関係についてですが、電流、電圧、抵抗の関係でイメージしていただければと思います。

魔力が電流、イメージ力が電圧、そして魔力の器が抵抗です。

クレアはイメージ力があるので電圧は高いのですが、電流は雑魚、抵抗はゴムです。まあ正確には電気通っちゃてるので抵抗ではないんですが…。

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