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弾劾のソルシエール  作者: 春野 集
第1章 「私はそれでもやっていくしかないんだよ」
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第十八話 「エリスの新薬」

 エリスが逼魔草(ひょくまそう)に興味を持ち始めてからというもの、月光草の話題が上がることは無くなった。私は旅から帰ってきて、毎日のように村の外れにある小さな森で魔法の練習に明け暮れている。


 小石を飛ばす魔法を初めて使えるようになってから10日が経っていた。分かったことは3つある。


 1つ目は全力で飛ばすと一日一回しか使えないということ。


 2つ目は飛ばすスピードと石の大きさ次第で数十回は使えるということ。つまり、さじ加減が大事というわけだ。


 そして3つ目はわざわざ石を生み出す必要がないということ。私はそこら辺に落ちている小石程度の重さであれば、何でも浮遊させることができるようになっていた。


「さて、今日は同時に2個の石を操れるように練習しよ!」


 カイルはもう私の練習には付き合っていない。次の満月まで残り3日となっている今、剣術を鈍らせたくないのだと言って一人どこかで剣を振るっている。


 それよりも私はこのまま月光草の採取に向かって良いのだろうか。本当にあの三人組が言っていたとおり、足手纏いになってしまわないか不安になっている。


(まあ、最悪私はエリスの援護に徹底しよう。私の魔法で魔物を倒したらびっくりするんだろうな…。)


 私の心は浮ついていた。そんな妄想を現実にするために、私は今日も杖を力強く握りしめる。


「よし!とりあえず、小石を見つけよう。」


 クレアは自らの魔法で小石を作ることをやめていた。魔力の消費をできる限り抑えるためだ。いつもの練習場付近で適当な石を探し始める。ぶつぶつと小石に喋りかけながら楽しんでいるその姿は、まるで砂場で遊ぶ幼女のようであった。


「クレアーーー!!!」


 遠くから私を呼ぶ声が聞こえてくる。声の主はエリスであった。


「はあはあ…、ちょっとクレア…」


「どうしたのよ、そんな血相変えて。」


 エリスは私に何か伝えようとしているが、息がすごく上がっている。


「はあ…、出来たのよ…!」


「何が?」


「新薬よ!」


 以前、私に言っていた内緒の新薬のことだろうか。


「私に内緒にしていたやつ?」


「そうよ!クレアがくれた逼魔草(ひょくまそう)のおかげでね。」


 あの生意気な薬草がエリスの新薬開発に貢献した?尽きることのない魔力放出、そして私からエリスを奪ったあの生意気な薬草が?


 私は嬉しいのか嫉妬しているのか分からない心持ちになる。


「それでどんな薬なの?」


「聞いて驚きなさい!」


 エリスが鼻高々に語り出そうとしている。あまり長くならなければいいのだけれど…。


「魔力の増幅薬よ!!」


 私はポカンとした。予想に反して一言で話を終わらせたエリスにではなく、その端的な内容を飲み込めなかったからである。


「さあ、これを飲んで魔法を放ってみて!」


 話についていけない。エリスが私に見せてきた新薬は少し大きめな丸薬で、色は逼魔草と同じく禍々しい黒色だった。


「い、いや…。」


「まだこれは完成品第一号で魔力量はそんなに含有していないわ。それでもクレアの魔力量の何十倍もあるはずよ。」


 私は一旦落ち着き、これまでの話を自分の中で整理した。


 エリスは以前、月光草を使った新薬と言っていた。それに逼魔草が加わって魔力の増幅薬が完成した?そんな新薬、この村だと私しか必要としないじゃない。私はふと、エリスの発言を思い出す。



「ふふふ、完成したら最初にクレアに紹介してあげる。きっとクレアの役に立つ新薬よ、それまでは家族だけの秘密。」



 私の役に立つ新薬。エリスはずっと私の魔力量の少なさを気に掛けていて、この新薬を作ってくれたのだろうか。《吸収魔法(ドレイン)》の話で機嫌を損ねたのはまさか…。


 野暮な質問は避けて、真意だけを確かめた。


「これ、私のために…?」


「他に誰がいるのよ。」


 エリスは少しだけ顔を赤らめてそっぽを向いた。


「ありがとうエリス…。」


 驚きが強すぎたせいか、私は嬉しさを全面に出すことができなかった。


「とにかく使ってみてよ。副作用に関しては一応保証するわ。試作品で私が試した時は何も起きなかったわよ。」


「う、うん。」


 エリスの新薬を疑っているわけではないが、薬の大きさと不気味な色が若干の拒絶反応を引き起こしていた。


「噛んで飲み込んでね。丸薬が潰れると蓄積された魔力が放出を始める仕組みになっているの。その魔力はクレアが本来持つ魔力と結びついて、結果的に自身の魔力増幅に繋がるってわけ。」


 最後によく分からないことを言ってきたが、とりあえず噛めばいいようだ。私は勇気を出して丸薬を口に近づけていく。


「いくよ?」


 エリスは黙って頷き、私は大きい丸薬を奥歯で噛み砕いた。


「ガリっ…!」


 その瞬間、じわじわと温かさが全身に広がり始める。まるで、血液が熱を帯びて全身を駆け巡っているような感覚だ。


 私は手のひらを見つめる。微かに震えているが、それは恐怖や昂揚といった感情の類ではない。


 力が…溢れてくる。


「今なら何でもできそうな気がする…。」


「とびっきりの魔法頼むわよ!!」


 私は杖を構えて大きく息を吸う。空気が身体に入り込み、肺が膨らむ。全身の感覚すらも鋭くなっていた。


「永劫に脈打つ大地の心臓よ。私に力を授け給え。」


 クレアの詠唱が始まった。小さな無数の石が杖の先端から生まれ始める。それは次第に一つになり、大きな岩へと形成していった。


「岩石の意思を一つに集い、今こそ、万象の真理に争わんことを!」


 詠唱を唱え終えたクレアの頭上から、出来上がった大きな岩が勢いよく前方へと飛んでいった。目の前にある木々を薙ぎ倒していく。その岩の着地と同時に大きな地響きがクレアとエリスの足元に伝わった。


 大きな岩は森の中で静かに止まり、小さな森の中で圧倒的な存在感を放っていた。まるで隕石でも降ってきたかのような光景だ。


 私はその場で動けなかった。自分で生み出した魔法であることを信じられなかった。でも確かに、私はその力を呼び寄せた。魔法を唱え、この岩を生み出したのは他でもない、私自身だった。


(大丈夫、冷静に…)


 心を落ち着かせようとしたその瞬間、胸の奥で激痛が走った。思わず痛みの先に手を伸ばして、力強く掴む。


「ううっ…!!」


「クレア!?」


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