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07.彼女のお仕置きと望まぬ再会。

 エノテラ様に連行された寝室。

 私はベッドにうつ伏せで転がされて彼女にマッサージをされている。

 お仕置きとは? これがお仕置き? ……そんな筈ない。

 これだとお仕置きではなくてご褒美だ。

 この後で上げて落とすような事柄が待ち構えているのだろうか?

 身構える私。しかしいつ迄待ってもその時はやって来ない。

 エノテラ様が何を考えているのか分からなくて怖い。


「……エノテラ様。私のお仕置きはいつ始まるんですか? 焦らさずに始めて欲しいです」


 怖気に耐えられなくて、こちらから切り出してしまった。

 やるなら一思いにやって欲しい。

 物騒なこととか、エノテラ様に捨てられたりとか以外なら私は大丈夫だから。


 私の真の想いにエノテラ様から思いも寄らない返事が戻って来た。


「今やってるよ?」


 エノテラ様からの返事。理解に苦しむ。

 戸惑いの極みに嵌った私はエノテラ様に質問を投げ掛けることにした。 


「はい? これってお仕置きではなくてご褒美、ですよね?」

「そう思うよね? 私も魔王様・師匠様からされた時はそう思ったよ。でもね、実は罠なんだよ。アリナ」

「罠……、ですか?」


 どういうことだろう? イマイチ要領を得ない。

 言葉遊び? ……私のような凡人には理解が追い付かない。ヒントが欲しい。


「あの杖の[事]があってから、いつか役に立つ日がくるかもって魔王様直伝の秘儀(マッサージ)を内密に練習してたんだよ」

「エノテラ様。私が引きそうになるくらい執念深いんですね。でも、あの後で杖に勝ったじゃないですか」

「うん。だから封印してた。それを解く時が来たよ。ここから本気で行くから覚悟してね」


 エノテラ様の指の動きが変わる。

 紛れもなくマッサージなのに、[艶]のある悲鳴を出してしまう私。


「エ、エノテラ様っ。ま……待って、ください」

「まだまだ休ませないよ」



 90分後。私は腰が抜けて立てなくなった。

 天界と冥界が交互に見えた。

 息が苦しい。これがお仕置きであること、納得した。

 罠だっていうのも嫌という程に感じ取った。

 ただまぁ、数ヶ月に1度は受けたいような、そうでもないような、複雑な胸中。


 ……………。

 やっと息がし易くなってきた。私は酸素を沢山肺に吸い込んで後、私の太腿の上に身体を乗せているエノテラ様に話し掛ける。


「あの、エノテラ様?」

「ん? どうだった?」

「エノテラ様の手の指って左右全部合わせても10本ですよね? なのに30本くらいの指が私の身体を這いずり回ってる感じでした。一体、どうなってるんですか!!」

「練習の成果が発揮出来て良かったよ」

「マッサージで汗をたっぷりと掻いたので、お風呂に入りたいです。でも、身体が動きません。どうしたらいいですか?」

「私にお世話されるのと、明日迄我慢するのどっちがいい?」

「……エノテラ様にお世話されたいです」

「ふふっ、素直で可愛い」


 今度はお姫様抱っこ。

 浴場迄連れて行った貰った私はエノテラ様に身体も髪も洗って貰って、湯舟にも浸けて貰った。

 他人(ひと)に身体と髪を洗って貰うの、自分で洗うのと違って気持ちが良すぎる。

 モニカさん作成の魔道具・ドライヤーで髪を乾かして貰うのも同様。

 マッサージの快い疲れも相まって、うっかり居眠りしてしまった。

 エノテラ様に起こされなかったら朝迄寝てたかもだった。危なかった。


 日付けが変わろうとする頃。

 私達の寝る時間。今頃になって身体の感覚が戻って来た。

 布団の中、私は彼女の首に腕を回す。

 寝る前に甘えたい。頬と頬を密着させて頬擦り。

 彼女は私の腰に手を回して背中を割れやすいガラスの細工でも扱うように触ってくれる。

 暫くして、私はいつもとは逆に彼女の頭を自分の胸の中に抱いてみた。

 と、エノテラ様の手が私の寝間着の裾から中へと侵入してくる。


「アリナ、変な気分になってきた」

「……私もです」

「アリナに私を刻んでもいい? アリナに残されたモノ、貰っていい?」

「はい! 貰ってください。エノテラ様」

「精神面は耐えられそう? 無理になったら教えてね」

「大丈夫ですよ。でも、お気遣いありがとうございます」


 見つめあう私達。今回はエノテラ様が目を瞑る。

 顔を下ろしていって大好きな彼女とキス。

 離れると私達はじゃれ合い、最終的に一線を越えた。

 もう戻れない。私は手の施しようが無い程にエノテラ様に骨抜きになった。


*****


 翌日。

 2人して寝坊。

 私は昼過ぎに目覚め、ゆるりと洗顔やら着替え等を済ませて、1週間ぶりに街へ繰り出して来ている。

 エノテラ様はまだ寝ていたのでそのまま置いてきた。

 起きていても、彼女は街には近付かない。私が頼めば一緒に来てくれる気もするけど、彼女が嫌がることをさせるのは気乗りがしない。

 という訳で1人で来た。

 今日は冷える。メープル(別名:秋)の季節からヒイラギ(別名:冬)に季節が移ろいをしようとしているのが顔や脚の剝き出しになった肌によって文字通り痛いくらい把握出来る。

 失敗した。タイツを穿いてくるのを忘れた。

 この時期に白の膝上10cmなミニプリーツスカート。

 服。上半身は白の長袖ブラウスの上にアイボリーのカーディガンを着用。

 膝丈迄の薄い灰のフード付きウール100%なコートを羽織っている。

 ついでに首にコートよりも濃い灰のマフラーを巻き、白のもこもこ手袋を填めているのに下半身はそれ。

 しかも靴下は薄い灰のミドルブーツに隠れるサイズな白の靴下。

 上と下の肌の露出度で何だか[私]が"ちぐはぐ"している。

 が、今から家に帰ってタイツを穿いてくるのは面倒臭い。

 買うものを買ってさっさと家に帰ろうと街を早足で歩く。

 しかし私の思いとは裏腹に、街のあちらこちらで人々から呼び止められる私。

 気さくな人々。旬の物を分けてくれたり、食材や昨今の世界情勢について教えてくれたり、たまにお裾分けと称して料理等を無料でくれたりする。

 ちょっとした有名人な気分。いつからか私はそういう存在(街のマスコット)になっている。

 エノテラ様の影響も存分にある。縁の下の力持ち。

 人前に姿を現さずともオグルから街を守っている人だということを人々は知っている。

 私がそんな彼女の愛玩奴隷(ペット)だということも。例の金貨が示してくれている。

 その成果で結局、帰路に就くのが遅くなってしまった。

 異空間(ディファレント)魔法(スペース)の恩恵で手ぶらでいられるのが助かる。

 予定通りの品も、予定外の品も買ったし、貰ってしまった。

 家に向けて歩いている途中で"ちらちら"舞い落ちてくる雪。

 足を止め、白い息を吐きつつ空を見上げる。

 空を覆っている雪雲。今年は季節の移り変わりが競歩のよう。

 帰宅したらエノテラ様とだらだら過ごして温かな飲み物でも飲もうかな。

 などということを妄想。考えていたせいで私は私が立っている場所の真横にある路地裏から手が伸びてきたことに感付くのが数秒遅れた。


「よぉ、久しぶりだな。つかマジで生きてたんだな。お前」


 僅か数秒が生命取り。路地裏に引き込まれた私。

 右手で口を押えられ、左手で私の右手を後ろで捻りあげられて自由を奪われる。


「んんっ!」

「はは。何言ってのか分からねぇよ。ところで俺のこと覚えてるか?」


 私のことを路地裏に引き込んだ男からの質問。

 半分忘れていた。出来れば[(とき)]と共に完全に忘却したかった。

 こちらはそうなのに、この男は私に自身のことを思い出させた。


「俺の名前言ってみ」


 男の右手が私の口から外されて解放される。

 言いたくない。無言を貫きたい。面倒臭い。


「何しに来たの?」


 エノテラ様の愛玩奴隷(ペット)になる前。この男達と共にいた時の私の口調。

 嫌悪感が湧いてくる。2度と使いたくなかった。

 エノテラ様という名のぬるま湯に浸かり続けていたかった。

 湯から引き上げてきた邪魔者に腹が立つ。


「おいおい。久しぶりに会ったってのに随分なご挨拶だな」

「こっちは会いたくなかったからね」

「そりゃ残念。で? お前、俺の名前忘れたのか?」

「癪だけど覚えてるよ。【レイヴンクロウ】の副団長・ゲマイン」


 男の名前を口にしたら、過去の不快な記憶が頭の中の画面に映し出される。

 この男は、ゲマインは団長のシュムッツと共に毎晩[宴]を催していた。

 [色]の宴。対象は男女問わず。声が煩く、私は最初の数日は寝不足に苛まれた。

 冒険者という生業に食欲減退と睡眠不足はオグルよりも余程煩わしい敵だ。

 睡眠不足という強敵がオグルに味方をして、討伐中に不覚にも深手を負った私は以来、彼らから遠く離れた所で寝るようにした。

 日付けが変わる少し前から明け方近く迄毎日毎日、[宴]。

 底なしの体力の怪物。けれども、それは彼らだけで他の者達は違う。

 [宴]に参加した者達は、それはもう怒りを通り越して笑ってしまう程に私の足を悪い方向に引っ張ってくれた。

 足手纏い。こんな異常な状態でも徒党(パーティ)のメンバーをそのように追い込んだ彼らが強ければまだ救いはあった。強ければ……。


 残念ながら彼らの、冒険者の、前衛としての腕前は中の下。

 【レイヴンクロウ】は私を含む他のメンバーで成り立っていた。


「あのさ、いい加減にその手を離してくれない!」


 捻りあげられている右手が痛い。

 私が吠えるとゲマインは私が耳を疑う提案をしてきて、私はこの男の顔を思わず2度見した。

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