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04.彼女の過去と暴走と。

 私とエノテラ様が暮らす家。

 杖を作ってくれた恩人・モニカさんという名前らしい。

 その人が目覚めたのは翌日の朝のことだった。

 それ迄に私はその人のことをエノテラ様から根掘り葉掘り教えて貰った。

 エノテラ様とその人の邂逅はエノテラ様の師匠様・魔王シズク様に同時期に嬢子(でし)入りを申し込んだ時。

 エノテラ様の師匠様は魔王様! 初耳で色んな意味で眩暈がした。


 それは置いておいて、2人は初めはライバルだった。

 その関係が変わったのはエノテラ様が才覚を現わしてから。

 通常なら才覚を現わしたエノテラ様に嫉妬するところ。

 なのにその人は[嫉妬]とは真逆である[憧れ]をエノテラ様に抱いて執着するようになった。

 エノテラ様は徹底的にその人を拒絶した。執着の仕方が異常だったから。

 病んだ恋慕。当時のエノテラ様は今よりも精神面が幼く、その人に恐怖した。

 ついには心身のバランスを崩したエノテラ様は師匠様である魔王様に相談。

 これで、その人は魔王様から注意を促されることになった。

 漸く平和が訪れると思ったのに、その人は何も変わらなかった。

 相も変わらずに異常な執着をされる日々。

 エノテラ様は心を病み、その人から逃げる為に魔王様の元から去ろうとした。

 所謂夜逃げ。準備は万端。いざ決行の日にエノテラ様に転機が訪れた。

 その人が魔王様の嬢子(でし)を止めたのだ。

 止めた理由は気持ちが変わったから。

 魔女ではなく、魔道具士になりたくなったと。

 魔王様にその旨を願い出たその人の想いは難なく魔王様に受理された。

 思わぬことでその人の呪縛から解放されたエノテラ様。

 夜逃げは中止。魔王様の元に残り、才能を遺憾なく発揮して史上最年少で魔女となった。

 この記録は今も尚、破られてはいない。


 その後はエノテラ様とその人とは音信不通だった。

 それが数年後に破られた。

 ルクセリアの外れ。魔王様の別荘・この家を魔王様から与えられたエノテラ様。

 家から出て散歩をしている最中にその人と再会した。

 過去を思い出し、何か仕掛けてくるなら即座に魔法を行使しようとあらゆる場面を想定。

 備えていたエノテラ様だったけど、備えは徒労に終わった。

 エノテラ様もその人も心身共に成長していて、その人からは邪気が抜けていた。

 しかしながら、エノテラ様への恋慕は残存したまま。

 結果が今のその人。エノテラ様を見掛けると迫ってくる。

 例え、エノテラ様からぞんざいな扱いを受けても。


「会えば挨拶くらいはするし、モニカに魔道具を注文することもある。でもその度に告白されるから疲れるんだよ」


 うんざりした顔で私に言ったエノテラ様。

 私は恩人と思っていた人の本質を知って、その人が起きたらどんな風に接すればいいのか分からなくなった。


*****


 私達の家で目覚めたモニカさん。

 私が作ったご飯を一緒に食べて現在3人でリビングでくつろぎ中。

 欠伸を嚙み殺しているエノテラ様にモニカさんが告白をしている。


「お姉様、私と結婚を前提にお付き合いをしてくださいませんか!」

「何度も言うけれど、嫌だよ。恋愛とか結婚とか興味ない」

「そうは言わずに、考えてみて欲しいですの。私とお付き合いを始めたら気持ちが変わるかもしれないではありませんか」

「変わらないよ。自信がある」

「え~~~っ。私はこんなにもお姉様を愛していますのに」

「私は愛してない」

「ぶ~っですわ。ぶ~っ」


 なんだか、すこぶる面白くない。

 エノテラ様が他人から愛の告白をされているのが気に入らないのは勿論のこと、それよりも彼女が私以外の人と話をしていることが癪に障る。

 

『元気になったのなら、早く帰って欲しいです』


 などと考えてしまって、自身の狭量に"はっ"となって自己嫌悪に陥る。

 私はなんてことを考えてしまっているのだろう。

 クズ過ぎる。外に行って頭を冷やしてこようと思い立って席を立つ。

 歩き出そうとするとエノテラ様が席を立つ音が聞こえてくる。

 私は気が付くと彼女の腕で身体を拘束されていた。


「エノテラ様?」

「何処に行こうとしてたの?」

「外の空気を吸いに行こうとしてました」

「そう。じゃあ私も行く」

「えっ? でも……」


 エノテラ様の温もりに包まれつつ、私は視線を席に座ったままのモニカさんへと向ける。

 私に突き刺さる威嚇の視の矢。そこには明確な敵意と侮蔑の色がある。


「お姉様にはその愛玩奴隷(ペット)は似合わないのではなくて」

「それ、どういう意味?」


 エノテラ様の声音が低い。

 怖い。身体が竦んで震える。漂うは絶対的支配者の雰囲気(オーラ)

 私はエノテラ様の力量を見誤っていた。同じ魔女でも私なんて砂粒。

 息を軽く吹きかけられただけで飛ばされる。

 日頃の魔法の鍛錬で彼女は私が想像していたより遥かに手を抜いてくれていた。

 唾を呑む。エノテラ様の静かなる怒りはモニカさんにも伝わったようで、彼女は青を通り越して白い顔をしている。

 ここでこの後に言う言葉を言わずに心中に留めておけば、彼女は死と隣り合わせの恐怖というものを分からせられずに済んだ。

 しかし、引っ込みがつかなかったのだろう。

 モニカさんはエノテラ様に言ってはいけないことを言ってしまった。

 顔を引き攣らせつつも冷笑を浮かべるという、失礼ながら奇妙な顔で。


「お姉様にはそんな"ちんちくりん"な愛玩奴隷(ペット)よりも、もっと美しくて魅力がある愛玩奴隷(ペット)の方がお似合いだと思いますの。そんなのを連れていたら、お姉様の魅力が半減してしまいますわ。ここは奴隷商館で買い直した方が……」

「黙れ!」


 エノテラ様の身体から放出されて室内を暴れ回る彼女の魔力の嵐。

 触れた者は死を免れないことは確実。人を殺める為に作られて、磨き上げられた剣の刃の如しな力。

 惨憺たる魔力であるのに、エノテラ様の魔女の称号・[流麗]が示すように純白で麗しい。


 ……能天気なことを思慮している状況じゃなかった。

 感情を暴発させているエノテラ様を止めなくてはいけない。

 私はエノテラ様に人殺しになって欲しくない。

 犯罪者になって、憲兵に捕縛されて私を置いて行って欲しくない。


「エノテラ様、それ以上はダメです」


 時間がない。エノテラ様の魔力は今にもモニカさんに襲い掛かろうとしている。


「エノテラ様!!」


 大声で名前を叫んで呼んでも反応がない。

 このままだと間に合わない!


 エノテラ様を絶対的に止める方法……。


 私とエノテラ様の身長差は10cm。私が152cmでエノテラ様が162cm。

 この程度の差で助かった。もっと身長差があれば終わってた。


「エノテラ様……。私を1人にしないでください」


 エノテラ様の唇と私の唇を重ねる。

 彼女の感情と魔力の暴走が止まり、私の身体の拘束も緩む。

 1度唇を離し、彼女の腕に拘束されていた私の腕を彼女の腕から脱出させる。

 そうさせた腕で彼女の頬に左右の掌を添えて再びキス。

 正気を取り戻したエノテラ様はキスを終えると私の頭を撫で始めた。


「ごめんね。止めてくれてありがとう」

「1人になりたくなかっただけです。私の……、我が儘です」

「それでも、私の愛玩奴隷(ペット)を悲しませずに済んだから。ありがとう」

「はい! そう言えば、エノテラ様」

「ん?」

「今更ですけど、今日はいつもみたいに寝惚けていらっしゃいませんね」

「モニカがいるからね。…………モニカ! 言うことがあるよね?」


 エノテラ様がモニカさんを睨む。


「はい!」


 飛び上がるモニカさん。彼女は私の前で、魔王様が広めた文化の1つ。

 魔族の間で最高峰の謝罪方法とされているジャンピング土下座を華麗に決めた。


「申し訳ありませんでした! 愚かなる私は貴女に嫉妬をしてしまいました。どうかわたしを罰してくださいまし。煮るなり、焼くなり、好きにしてくださいですわ」

「謝罪を受け取りましたから、それでいいですよ」

「寛大な方ですわ! ですが、貴女は下層な[位]の愛玩奴隷(ペット)ですものね。謝罪以上のことを[人]様に求めないのは当然のことですわよね」

「モニカ」

「ひっ!」


 エノテラ様の声が冷え冷えしてる。学習しない人だ。

 モニカさんはこの後、怒髪天になったエノテラ様に絞られた挙句の果て。

 私を見下した罰として私達の家の広大な庭の草毟りを1人ですることになった。

 むしり終わる迄、彼女は帰宅出来ない。

 魔道具を使うのも、魔法を使うのも禁止。己の手だけで草毟り。

 何日掛かるのだろう。けどこれはエノテラ様を怒らせたことによる因果応報。

 私は同情と応援と食事の差し入れだけはして、それ以外のことは何もしないことにした。

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