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03.彼女の強い独占欲。

 3日後。

 青く澄み渡った空、白い雲、眩しい太陽。

 光が私達や地面等を突き刺しているけど、時期が時期なだけに暑さという痛みを感じることはなく、安らぎを感じさせる。メープル(秋)の季節。

 今日はエノテラ様と外で日向ぼっこ中。

 家から程々に近い所に在る草原の上に敷いたレジャーシートにエノテラ様は正座をしていて、私はエノテラ様に膝枕をして貰っている。

 膝枕。頭は太腿に乗せられているのに、どうして名称がそうなのだろう?

 素朴な疑問。こんなことを思う私は変だろうか。


「アリナ、私の太腿はどう?」

「はい、柔らかくて気持ちいいです。でも、贅沢を味わいすぎている気がして恐縮してたりもします」

愛玩奴隷(ペット)の仕事は主人に可愛がられることだよ?」


 エノテラ様の笑顔が太陽よりも眩しい。

 不意にエノテラ様に触れたくなった。利き手の右手を上げると私のしたい[事]を察してくれたのかな? 彼女は私の手を両手で掴んで自分の頬へと持っていく。

 彼女に触れる私の右手。心に"じわり"と想いが広がっていく。


「夢、じゃないんですよね? 私は現実世界にいるんですよね?」

「夢じゃないよ。アリナは現実の世界で生きてるよ」

「幸せすぎて、いつ死んでもいいって思っちゃいます」

「それは許さないよ。私は私の愛玩奴隷(ペット)を愛で足りてないからね」

「エノテラ様……」

「アリナは本当に今の段階で満足してるの?」

「えっと……」

「ふふっ」


 エノテラ様の頬から私の右手が離される。

 私の手を掴んでいた彼女の右手が私の唇をなぞっていく。


「満足してるの?」


 さっきと同じ質問。身体を起こす私。

 隣で正座して私は彼女に告げる。


「してません。もっと甘やかされたいです」

「だったら、簡単に「死んでもいい」なんてもう言ったらダメだよ?」

「はい、ごめんなさい」

「うんうん。良い子のアリナにご褒美をあげるね」


 非の打ち所がないエノテラ様の顔が私の顔に近付いてくる。

 目を瞑る私。重なる私と彼女の唇。

 そうしている間にエノテラ様の右腕が私の腰へと回されて、私はゆっくりと身体をレジャーシートの上に倒された。

 唇は重なったまま。私の身体の上に彼女の身体が乗っている。

 そろそろ酸素が欲しい。と思ったら彼女がタイミングよく私から離れる。


「ふぅぅぅ、はぁ~~っ。ごめんね、苦しかった?」

「すーっ、はーっ。……少しだけ苦しかったです。でも最高のご褒美でした」

「ん! 次は私がご褒美を貰う番」


 エノテラ様が私が着用しているトップス・襟付き中袖シャツに手を掛ける。

 ボタンが上から2つ程外され、捲られて露になる私の肩。

 照れる私に彼女は構わず私の鎖骨付近を甘噛み。

 彼女の吐息が擽ったい。思わず身を捩る。

 ……と同時に聞こえてくる女性の悲鳴。


 私とのじゃれ合いは中止。上半身を起こすエノテラ様。

 顔には有り有りと不満の色が浮かんでいる。

 分かり易い。苦笑いする私。


「……多分、魔族がオグルに襲われそうになってる」

「みたいですね。助けに行ってきます」

「放っておいていいと思う」

「そうすると寝覚めが悪くなりますので」

「アリナが言うなら仕方ない。私も付いていく。けれど、1人で()れる?」

「問題ありません」


 異空間(ディファレント)魔法(スペース)を発動。

 異空の穴から取り出すは先日にエノテラ様から貰った私専用の杖。

 柄は黒。石突きは金。柄の上にある飾り部も石突きと同じ金で中央に輪があり、そこに紅と金を混ぜた球状の物体が填められている金属の杖。

 柄はアダマンタイト。石突きと飾り部はオリハルコン。飾り部中央の球状の物体はヒヒイロカネ。

 この杖をエノテラ様が私にプレゼントしてくれたのは私へのお祝い。

 私は先日、エノテラ様との魔法の勝負で勝利を収め、魔法使いの最高峰たる魔女になった。

 魔法使いから魔導士。その果てが女性であれば魔女、男性であれば魔公。

 魔女も魔公も数は少ない。国内では魔女は22名。魔公は1名。世界規模は不明。

 魔導士だった私が魔女になれたのは奇跡だ。

 魔女となる試験の最中に彼女に私を殺す幻覚を見せた。

 隷属の首輪の規約で私はエノテラ様を傷つけることが出来ない。

 逆は出来る。動揺して精細を欠いた彼女はそれ迄私が使っていた木製の杖を私に喉元に突き付けられて敗北を認めた。


 初めてだったから通じた小手技。私の奥の手。

 鍛錬・研鑽時に見せていたら通じていなかった。

 それに魔女になった今でも私とエノテラ様とでは格が違う。

 手抜きをして貰えなかったら私は確実に彼女に殺される。


「あの、私の身体から放れて貰ってもいいですか?」

「……お風呂の時間にアリナ吸い、いっぱいする」

「日課の1つになりましたね。分かりました」

「ん! じゃあさっさと終わらせよう」

「はい」


 エノテラ様が立ち上がって私に手を差し出してくれる。

 その手を取って立ち上がる私。乱れた服を整えて悲鳴の主・魔族の魔力を辿ってそちらに走る。

 2分弱で現場に到着するとエノテラ様から少々下品な言葉が発せられた。


「げっ!」

「知り合いですか?」

「アリナの杖を作らせ……。作った人」

「私の杖……」


 エノテラ様から視線を外して杖に移す。

 この杖を作ってくれた人物。私の宝物を作ってくれた恩人。

 エノテラ様の表情の理由は不明。だけど、兎に角恩人を助けないといけない。

 使命感に燃える私。杖をオグルに向けて力強く握って構える。と、彼らに危害を加えられそうになっている人物がエノテラ様の姿を見て、こちらへと駆けて来た。


「お姉様! 助けに来てくださったのですね! 嬉しいですわ」

「お姉様?」

「アリナ、話は後。まずはオグルを倒して」

「はい!」


 いけない。恩人の思いもよらない言葉で取り乱してしまった。

 魔力を杖に集中。脳内で魔法をイメージして杖に集めた魔力を魔法に変化させて解き放つ。


千の(サウザンド)土針(アースニードル)


 地面から発生する太く長い水晶の針柱。

 私の魔法は恩人を追いかけていた5体のオグルの肉体を貫いて息の根を止める。

 オグルが確実に絶命していることを確認。

 杖を真横に振ると魔法は消えて元通り。


 上手くやれた。"ほっ"と一息。

 今のが私の、魔女になってからの初陣だった。


「ありがとう」


 私のイメージ通りの魔法を創ってくれた杖に向け、顔を綻ばせつつ呟く。

 エノテラ様達には見えない位置での[事]の筈だったのに、いつの間にそこにいたのだろう?

 目の前に立っている彼女に両腕諸共抱き締められた。


「む~、今の顔は私に見せて欲しかった」

「わっ! エノテラ様? いつからそこにいらしたんですか?」

「私の愛玩奴隷(ペット)が杖にお礼を言ってる時からいた。私の愛玩奴隷(ペット)が!!」

愛玩奴隷(ペット)を強調して2度言った理由を聞くのは野暮ですか?」

「うん、野暮」

「ですよね」


 エノテラ様は案外独占欲が強い。

 私を大切に思ってくれるのは幸福の極みだ。愛玩奴隷(ペット)冥利に尽きる。


「エノテラ様」

「折角、私の愛玩奴隷(ペット)。幻月の魔女の活躍を褒めに来たのに」

「3度目ですね。それと、私の称号はエノテラ様に幻覚を見せて決着を付けたことと私の髪の色を見て決めたんですよね。昼に見える月みたいって」

「気に入らない?」

「いえ。エノテラ様から頂いた称号なので気に入ってます」

「ん! 可愛い。でも杖に向けてた顔の方が可愛かった。私にも見せて欲しい」


 杖に嫉妬。私の目を"じっ"と覗き込むエノテラ様。

 肉食獣と草食獣の対面。冷や汗が流れる。

 要望には応えたい。応えたくても、「やって」と言われて出来るものじゃない。

 無理くり笑ったところで、そんなの作り笑いになってしまう。

 エノテラ様に作り笑いを見せるのはとても嫌だ。


 困り果てている時に、ふと思い出した。

 私の杖を作ってくれた恩人のこと。エノテラ様を「お姉様」と呼んだ人のこと。

 何処に行ったのだろう? 姿が見えない。

 視線を彷徨わせていると空中から声が聞こえてきた。


「お姉様ーーーー!」


 虚を突かれて私は固まる。まさかの空からの強襲。

 その人は私達……。エノテラ様に抱き着こうとして失敗。

 エノテラ様に避けられて顔面から地面に着地した。


「ぐぇふっ」


 言葉で表現出来ない声。相当に痛いことは伝わってきた。

 心配になった私はエノテラ様と恩人を交互に見つめる。

 エノテラ様が恩人を気に掛ける様子は見られない。

 恩人は地面に身体を横たえたまま動かない。


「エノテラ様。あの方、生きてますよね?」


 死なれていたら、オグルを倒して救出した意味がなくなってしまう。

 不安と不満に思っているとエノテラ様はため息を吐きだし、私から離れて恩人の首根っこを掴んで引き摺りながら家へと歩き出した。

ヒヒイロカネ = オリハルコン。

という説がありますが、この物語・世界では別物とさせて頂きます。

ご了承ください。

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