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24.あざとい彼女。

◇エノテラ視点


 この世界の人類種の共通の敵・オグル。

 今回は自然に野蛮種大行進(スタンピード)が発生して私とアリナ。ラストウスの街の冒険者達は討伐に繰り出して来ている。

 面倒臭い。これがこの地方の領主キシニア様直々の依頼でなければ私は断固拒絶をしていた。

 数が多いだけで弱い。紫のオグルもちらほらと見掛けるけれど、私の敵としては大いに力不足。

 少量の魔力の塊をぶつけるだけで彼らはいとも簡単に散っていく。

 早く終わらせて帰りたい。冒険者達が邪魔。図らずも私からオグルを守る形態になっている。

 苛々が募る。鬱陶しい。鬱々とした気分を晴らす為。癒しを求めて私の傍で戦闘を繰り広げている私のアリナを横目で見つめる。

 真剣な表情も可愛い。苛立ちで絡まった糸が解れていく。

 それにしても、器用に戦っている。アリナが放出した魔法は右へ左へとうねり、冒険者達を避けて相手のいないオグルに的確に命中。屠っている。

 彼女と共に魔法の研鑽をしてきた私でさえも驚いてしまう彼女の成長ぶり。

 目を見張るものがある。能天気に過ごしていたら、そう遠くはない未来。彼女に追いつかれて、やがては追い越されてしまう可能性がある。飼い主の私が愛玩奴隷(ペット)にそんな(ざま)を見せるわけにはいけない。

 小さく口角を上げる。()る気が出てきた。相手がいようがいまいが関係ない。

 私が纏めてオグルを屠る!!


 人の姉妹に例えると姉に当たる私の杖。妹は私のアリナが持っている杖。

 姉の杖に魔力をここのオグル全てを屠るに充分な量を集わせる。

 杖を空に向けて紡ぐは魔法を発動させる為の言霊。


魔酸電磁砲(アシッドレールガン)


 魔法の発動。私の杖から放たれる幾千もの光線。

 オグル達を射貫き、彼らを絶命させる。

 自分達が死んだことが認識出来ていないかもしれない。

 戦闘終了。私に突き刺さる冒険者達の視線を無視して私は杖を異空間に仕舞う。

 その後は瞬息で戦闘が終わったせいで唖然としているアリナに駆け寄って、彼女を拉致。

 さっさと家に連行して彼女を堪能しようとしたら、冒険者達に周りを囲まれた。


「「「ちょっと待って」」」

「何? こう見えて私は忙しいのだけれど」

「「「さっきのだけどさ」」」


 私がしたことは敵の横取り。冒険者達にとっては面白くない[事]だろう。

 これから言われるのはきっと苦情と苦言。

 私はそう思っていた。



 ……………。

 どうしてこうなったの?

 現在、野蛮種大行進(スタンピード)が被害無く終ったことを祝して宴会の真っ最中。

 オグルを残滅させた私は立役者として街の人々に持て囃されている。

 人嫌いの私にはそれが辛い。人々の話は適当に受け流して、私は私の身体に自身の身を寄せて私に甘えているアリナに目をやる。

 ……違和感がある。彼女は私と戯れあっている時のような様子。

 この現象は、もしかしてもしかする? 心当たりが1つある。[あれ]を口にした?

 確認の為にアリナに話し掛けてみる。

 私の予測が当たっていれば、今の彼女は頓珍漢なことを言ってくる筈。


「アリナ、もしかしてお酒呑んだ?」

「あははははははっ。何を言っているんですか? エノテラ様。オグルなんて煮ても焼いても食べられませんよ」

「吞んだんだね」

「ふふふっ。エノテラ様、大好きですよ。一心同体になりたいです。エノテラ様の生命が失われた時には私も共に逝けるように隷属の首輪に細工出来ないですかね? 身体に強烈な電撃を受けるようにするとか。そうしたらエノテラ様と一緒に冥界に旅立てますよね。あっちの世界でもエノテラ様と一緒がいいです」


 私をそんなにも慕ってくれるのは嬉しいけれど、言ってることが物騒。

 お酒の勢いだけではなく、割と本気で言っている気がするのが怖い。

 後日、モニカに隷属の首輪の細工を依頼するかもしれない。

 電撃を受けて、地をのたうち回りながらアリナが逝く。

 想像しただけで"ぞっ"とする。


「そんなのダメだよ。アリナ」

「おかわりください」

「同じのでいいかい? アリナちゃん」

「はい!」


 恰幅の良い女性がアリナが手にしているジョッキに並々と液体を注ぐ。

 宙に漂うアルコール臭。液体の色はワインレッド。

 アリナが口にしているのは色を示す品。そのもの。ワイン。


「アリナ、呑むの止めよう?」

「エノテラ様、私のこと嫌いなんですか? 酷いです」


 酔った彼女を私以外の人に見せたくなくて、彼女からワインの入ったジョッキを取り上げようとすると、そんなことを言われる。

 涙目を見せられたら、彼女に弱い私は何も言えない。

 諦めて静観することにする。


 アリナは注がれたワインを一気に吞み干した。


「ん~、このぶどうジュース美味しいです。料理との相性も抜群ですね」

「アリナちゃん、イケる口だね。次は白ワインを呑んでみないかい? これは魚介の料理にぴったりだよ」

「白ワイン? 白いぶどうジュースですか? 吞んでみたいです」

「いいねいいね! すぐに持って来るからね」


 恰幅の良い女性が自身が経営する店の中へと消える。

 ちなみにここは路上。数滴だけワインの残ったジョッキを道の前に設置をされた机の上に置いて、彼女は視線を彷徨わせてから"ほぉ"と息を付く。


「皆、楽しそうですね。エノテラ様は楽しいですか?」


 冒険者に貴族に商人に庶民。この場は無礼講。彼女・彼らの間にいつもの垣根は無い。

 ……返答に悩む。私は何も言わずにアリナを強く抱き締めた。


「エノテラ様、苦しいです。でも幸せです。えへへー」

「……っ」


 私のアリナは可愛すぎる。

 やはり他人には酔った彼女の姿を見せたくない。

 彼女は私が独り占め。彼女が薦められた白ワインを彼女が呑んだら、何が何でも家に連れて帰ろうと決意する。


「アリナちゃん。白ワインお待ちだよ。……っとお邪魔だったみたいだね」


 机の上に置かれる白ワイン。恰幅の良い女性は私達の様相を見て、意味深な笑みを顔に浮かべて私達の前から去って、別の人の元へと寄って行く。


 片手を伸ばして白ワインを手にするアリナ。

 彼女がジョッキを持ったところで、私達の傍から2人共に良く知った人物の声が聞こえてきた。


「お姉様とアリナちゃん。ごきげんよう」

「モニカ。回れ右」

「分かりましたわ。……って相変わらず私の扱い酷くありませんか。お姉様」

「都合が悪い時にモニカが現れるからだよ」

「都合が悪いってどういうことですの? ……あら、アリナちゃん。なんだか様子がおかしいですわね」


 アリナの酔った様子に目敏く気付くモニカ。

 私はアリナをモニカから隠そうとするけれど、1歩遅かった。


「モニカさん。丁度良かったです」

「発音が若干変ですわね。お姉様、もしかしてアリナちゃん。酔ってます?」


 はぁ……。見られた。知られた。

 全力で杖でモニカの頭を殴れば記憶を失ってくれるかな?

 酔ったアリナのことを忘れさせたい。


「モニカさん、隷属の首輪に細工することって出来ますか?」

「細工? どういうことですの?」

「エノテラ様が生命を落とした時に私の身体に強烈な電撃が走るようにして欲しいです。で、私も死ぬのです」

「それは……。物騒ですわね。お姉様?」


 アリナの発言にドン引きしているモニカ。

 無理もない。私はアリナの頭を優しく撫でて彼女に言い聞かせる。


「そんなこと言ったらダメだよ。アリナが苦しむと思うと私は冥界へと旅立つことが出来なくなるからね。この世に未練を残した生ける屍のオグルになるよ。それはアリナの望むところじゃないよね?」

「エノテラ様がオグル……。絶対に嫌です!」

「だったら、分かるよね?」

「はい、ごめんなさい」


 "しゅん"とするアリナ。

 現実には無い、犬の垂れた耳と尻尾が幻として私に見える。

 どうしよう。この()。さっさと私達の家にお持ち帰りしたい。

 白ワイン。まだ口をつけてないけれど、ダメかな? 先の恰幅の良い女性にボトルを頼んで買ってあげるから私に持ち帰られて欲しい。


「アリナ、帰ろうか?」

「エノテラ様、怒ってますか?」

「怒ってないよ。アリナは可愛いね」

「エノテラ様は世界一綺麗です。皆の視線を集めていますけど、エノテラ様は私のですからね」

「ふふっ、アリナも私のだよ。絶対に解放してあげないよ。逃げるつもりなら監禁するからね」

「エノテラ様の愛情は激重ですね」

「アリナの想いも激重だね」

「キスしたいです」


 私もしたい。だけれど、ここは人の目がありすぎる。

 好ましい場所じゃない。人の目が届かない所で彼女とは戯れたい。

 以前、カフェで彼女にキスをした私が言っても説得力に欠けるけれど。


 色々と葛藤していると、焦れたアリナが自分の唇で私の唇を塞いできた。


「大好きです。えへへ、皆に見せつけちゃいました。エノテラ様は私のなのです」


 "プツン"と私の理性の糸が音を立てて切れた。

 こんなにも可愛い()。甘えてくる()

 耐えられない。もう待てない。一刻も早く彼女を抱きたい。


「アリナ、帰ろう。帰って私のアリナを私に抱かせて」


 彼女をお姫様抱っこ。帰ろうとする私にモニカから呆れた声が発せられる。


「お姉様もアリナちゃんもどっちもどっちですわね。重くて甘々です。口から砂糖を吐きそうですわよ」

「モニカ、まだいたんだ?」

「モニカさん、まだいらしたんですね?」


 私とアリナのハモり。

「2人共酷いですわ~」とさめざめと泣き始めるモニカ。


「じゃあ行くね」

「エノテラ様、温かいです」


 私の胸の中。頬擦りしているアリナ。

 この()は私の胸を愛して止まない()

 薄っすらとした笑いが漏れる。不思議そうな顔をして私を見る彼女。

 あざとい。あざとくも自身が自身のあざとさを分かっていないのが堪らない。


 モニカは放置。私はアリナを抱いて家路を急ぐ。

 身体能力強化(ボディスキルメント)の魔法を使って加速。

 到着したら大急ぎで玄関ドアを開けて、彼女を寝室へと連れ込んだ。


「アリナ、酔って気持ち悪いとかない?」

「大丈夫です。でも……」

「でも? もし何かあるなら遠慮なく言って」

「エノテラ様の温もりが遠のいて寂しいです……。傍に来て私に触れてください」


 何処迄私を煽れば気が済むの?

 ベッドの上。先に寝転がした彼女の身体の上に覆い被さる。

 私が顔を彼女の顔に近付けると、彼女の両腕が私の首に回された。


「エノテラ様。私の胸の中央でエノテラ様が暮らしています。1日の殆どの時間、ふと気が付くとエノテラ様のことを考えているんです。仕事中もエノテラ様に想いを馳せながら霊薬(ポーション)を作ると高霊薬(ハイポーション)が出来るんですよ。えへへ……」

「アリナ……」


 名前を呼ぶと彼女は目を瞑る。

 重ねあった唇は互いにいつもよりも熱く、甘い気がした。

 目が覚めた。

 最初に目に飛び込んでくるのは私の胸の中で未だ眠っている私のアリナ。

 何気なく彼女の頭を撫でると口元が緩んで彼女の口から私の名前が呼ばれる。


「エノテラ様……。えへへ……」


 名前を呼んだ後、彼女は私に"ぎゅっ"としがみ付いてくる

 寝ながら甘えてくる彼女が狂おしい程に可愛らしくて愛おしい。


「アリナと出会えたから私の人生は豊かになったよ」


 長い長い[(とき)]。彼女と出会ってからとそれ迄とは色彩が全然違う。

 出来ればもっと早くに彼女と出会いたかった。

 そうであれば、私の人生はもっと早くから光を帯びていた。


 でも、彼女と出会う為に過去があったと前向きに考えると暗い[(とき)]も私に必要な時間だったと思える。

 こんな風に良いように物事を考えられるようになったのも全て彼女のお陰。


「ありがとう。私のアリナ」


 例を告げて、彼女の頬にキス。

 キスが目覚めの引き金になった? 離れると彼女が目を開けて私を捉えた。


「……ふぁ。おはようございます。エノテラ様」

「おはよう。アリナ」

「あの、エノテラ様」

「うん?」

「頬じゃなくて唇にキスして欲しかったです」

「起きてたの?」

「いえ。寝ていましたけど、感覚で……」


 明朗な顔で朝の挨拶をしたと思ったら、次はむくれ顔となる。

 朝からころころと表情を変えるアリナを私はベッドに張り付けにした。


「可愛い……」

「では唇にキスしてくださいますか?」


 期待の篭もった目と声で唇へのキスをせがまれる。

 この()。毎日毎日、本当に、もう。理性が辛い。


「キスだけじゃ済ませられないかも」

「私に飽きないでくださいね」

「それは無いよ!」

「即時回答ですか。約束ですよ。飽きないなら、良いです」

「ふふっ。手加減しないからね」

「えっ! それはちょっと待っ……。ひゃっ!」

「待てないよ」


 アリナが可愛いのが悪い。

 可愛いから、手加減出来ないのは仕方ない。

 私は朝から彼女を抱き潰した。



 昼過ぎ。

 失っていた意識を取り戻した彼女のお腹から聴こえてきた音。

 顔を深紅に染める彼女をお姫様抱っこしてリビングに移動して来た。

 太腿の上に彼女を乗せて、彼女が異空間から取り出した食事を共に食す。

 美味しそうに食べる彼女。食事風景も彼女自身も目の保養になる。

 先日に組み敷いてから彼女はそのままの姿。

 今朝方に飽きないかと聞かれたけれど、飽きよう筈がない。

 寧ろ、家にいる時は現状の姿で暮らして欲しいくらい。

 

 あ! ダメだ。理性を保てる自信がない。

 寝室に彼女を監禁してしまいそう。


 彼女の身体を見て、無意識的に"ごくり"と唾を呑む。

 私の視線に気付いた彼女にそっぽを向かれてしまった。

 けれど、長い耳が紅色に染まっているところを見るに照れているだけ。


「アリナ。キスしたいな。こっちを向いてくれる?」

「はい! 唇にしてくださいね」

「ふふふっ。良い笑顔だね」


 振り向くの早かった。どんな時でも可愛いアリナ。

 その中でも笑顔の時と私に抱かれている時の顔が同率で最も可愛い。

 私の唯一無二の愛玩奴隷(ペット)。生涯、私の傍にいてね。

 良き飼い主と思って貰えるように全身全霊でアリナを可愛がることを誓うから。

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