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14.私と彼女のクリスマス その1。

 朝ご飯を終えた後。

 私はエノテラ様に背後から抱かれつつ寝室の床に座っている。

 俗に言う恋人座り。背中に彼女の女性を感じる。

 何度でも言う。大好きな人。彼女をより感じたくて研ぎ澄ませる神経。

 その為に無言でいる私に彼女が耳元に顔を寄せていつもの優しい声で私に囁く。


「アリナ。去年は私達はこんなに甘くなかったよね」

「そうですね。朝から密着とかはしていませんでしたね」


 去年。私達のクリスマス前夜祭は気が向けばお互いに抱き締めあったりはした。

 でも朝からキスをして、密着するのは今年が初。

 新鮮であり、エノテラ様との[縁]が固く結ばれたことが喜ばしい。


 寝室の窓から見える外。私が出掛けた時には気配の無かった雪がいつしか空から舞い落ちている。

 ホワイトクリスマス。魔王様はクリスマスに雪が降ることは華やいだ祝福の意味があると言っていた。

 特に前夜祭に降る雪は世界が私達に送ってくれるプレゼントだとか。

 エノテラ様と2人で外を見て、彼女への想いが大きく膨らむ。

 今日は彼女と1日中じゃれ合っていたい。他のことは何もしたくない。

 キスをしたい。日付けが変わる迄に何回出来るだろうか?

 彼女に触れたい。私にも触れて欲しい。好きを沢山伝えたい。伝えて欲しい。

 彼女だけを目に映していたい。彼女も私だけを見ていて欲しい。

 我が儘だ。これはきっとクリスマス前夜祭の魔力によるもの。

 今年は魅惑の魔法が発動されている。

 私は魔法に取り憑かれてしまった。彼女はどうだろう?

 顔を見たら検証が出来る。自分の顔を曲げれるだけ曲げて、彼女の顔を見ようと企んだ私に[事]が起きた。


 ……彼女にお姫様抱っこをされている。

 恋人座りからのこれ。どうやったのか混乱が止まらない。

 私の瞳に移る彼女の顔。目的は果たすことが出来た。

 検証結果。彼女も魅惑の魔法に取り憑かれている。

 私を見る瞳が妖しい。言う迄もないと思うけど、オグルとは違う。

 彼らは外面に妖しさが表れている。彼女は内面に妖しさがある。


 彼女に運ばれる私。移送先はベッドの上。

 優しく丁寧に寝転がらされて、続いて彼女が私の隣に寝転ぶ。

 私の腰に回される彼女の腕。抱き寄せられてキス。


「アリナ」

「はい」

「今日は私以外を見たらダメだよ」


 私の顔の目と鼻の先に彼女の顔。

 お互いにお互いの唇を啄ばみ始める。

 そのうち徐々に変化していくキスの形態。

 啄ばみから重ね、重ねから濃厚なキス。

 休憩時には私は彼女の胸の中に抱かれる。

 頬擦りして匂い付け。エノテラ様は私のご主人様。

 愛玩奴隷(ペット)らしく振舞っていると、頭を撫でてくれるエノテラ様。

 胸の中から見上げて見つめる彼女の顔。

 またキスしたくなる。今日は[欲]に私を任せる。

 彼女にキス。同時進行で私は彼女の服の中に手を侵入させた。



 腰が痛い。主導権はエノテラ様が握っていた。

 始めたのは私なのに。私の順番は圧倒的に少なかった。

 今はもう夜? 気絶なのか眠りに落ちたのか。どちらが正解なのか。

 意識を失ってしまったから時間の感覚が狂ってしまっている。

 丸1日寝てしまっていた可能性もある。

 魔王様の誕生日を祝福する祈りに間に合う時間帯であれば良いのだけど。


 ところでエノテラ様は何処に行ったのだろう? 姿が見えない。

 大好きな人がいなくてとても寂しい。


「エノテラ様……」


 彼女の名前を口にする。と、"ぶるっ"と震える私の身体。

 お手洗いに行きたくなってきた。

 上半身を起き上がらせ、服を探すけど見当たらない。

 彼女に隠された? 身体に何も纏わずにお手洗いに行くのは憚れる。

 ここは寝室。私の私室は右隣。彼女の私室は左隣。

 2室とも殆ど使用されることはない。

 使用されるのは、服を着替える時と場合によって化粧等をして身なりを整える時だけ。

 その他の時間は私達はリビングで過ごす。


 背に腹は代えられない。服を私室に取りに行く為に身体にシーツを纏う。

 身体を動かし、ベッドに座った感じで寝室の床に足を付ける。

 立ち上がろうとすると、それ迄は閉じられていた寝室のドアが開く。

 開いたドアの隙間から顔を覗かせるエノテラ様。


「アリナ、起きた? よく寝てたね」

「エノテラ様!」


 もしも私に尻尾があれば"ぶんぶん"振り回していただろう。

 喜ぶ私を見て、彼女が顔を綻ばせつつ私の元に歩いてくる。


「身体は平気?」


 聞かれると恥ずかしさが心中に広がった。

 頬が熱い。大丈夫かと聞かれると、応えるのが難しい。

 健康ではあるけど、腰が痛いし、お手洗いに行きたい。

 どう応えたものか? 数秒間思案して導き出した結論。今の私のありのままの状態を彼女に言うことにした。


「腰が痛いです。後、早急にお手洗いに行きたいです。それから、ついでに教えてください。今は何日の何時ですか?」

「分かった。まずはアリナの身体の処置をするね」


 彼女が両腕を自身の肩の位置に上げる。

 掌に集まる魔力。魔法の発動。


上級治癒魔法(ハイヒール)。それから洗浄魔法(クリーン)


 エノテラ様の上級治癒魔法(ハイヒール)で腰の痛みが無くなった。

 それでもって洗浄魔法(クリーン)。こないだ彼女が翻訳していた魔導書の中にあった魔法。

 こ、これは諸手を挙げてエノテラ様を称賛したい。

 下腹部へと溜まり、取り除く必要のあった老廃物。お手洗いに行った後のようにすっきり消えた。

 それにお風呂から出てすぐな感じがする。身体が綺麗になってる。シャンプー等を使用したみたいに髪や身体から花の香りがする。

 汚れていた布団も洗い立てのよう。陽だまりの香りがする。

 この魔法、私も習得したい!! エノテラ様に教示をお願いしよう。そうしよう。


「どうかな?」

「はい! 控えめに言って洗浄魔法(クリーン)って極上の魔法です。私も是非行使出来るようになりたいです。ご教示お願いします」

「ん! 良いよ。1日につき3回迄っていう回数制限があって、効果はこの部屋と同じ範囲内だけっていう限度があることを先に知っていて」

「分かりました」


 1日3回迄の回数制限。行使できる範囲は約20平方m。

 この家全部を掃除するには足りないけど充分だ。

 掃除が更に楽になる。時間が余った分だけ彼女と遊べる。

 さて、後は日付けと時間を聞くだけ。


「エノテラ様」

「ん? ああ、今は前夜祭の20時だよ」

「丸1日寝てたりはしてなかったんですね。安心しました。……それはそうと服。何処に隠しました?」

「何のこと? 私は知らないよ?」

「異空間の中ですか?」

「……………知らないよ?」


 当たりだ。そしてこれは絶対に返してくれないやつ。

 明日の朝迄は私は現状維持。エノテラ様は服を着てるのにずるい。

 頬を膨らませる。見なかったことにされた。

 座卓に移動するエノテラ様。床に座って私を手招きで呼ぶ。

 夕ご飯の時間。シーツを纏って彼女の元に行こうとしたら、牽制の声が彼女から発せられる。

 恥ずかしさを押し殺して裸で彼女の元へ。座らされる彼女の太腿の上。

 料理を並べると「あーんして」と甘い誘い。

 その後、私は最後の一口迄彼女に夕ご飯を食べさせて貰った。

 今日食べた料理は例のご飯だったのに全部激甘だった。


 夕ご飯を終えた後。再びお姫様抱っこでベッド上に移送された私。

 彼女が私の両頬を押さえてキスをくれる。

 抱き着きたい衝動に駆られる。

 けど、今日という特別な日のうちに彼女にプレゼントを渡しておきたい。

 魔法を発動させて、異空間から取り出す彼女へのプレゼント。

 彼女も私を見て私と同じことをする。

 中身が入っている箱と箱へと見目好く施されている紐が同じように見えるのは、私の見間違い? 思い違いだろうか?


「エノテラ様。私の気持ちを受け取ってくれますか?」

「アリナ……。私の想いを受け取ってくれる?」


 プレゼントの交換。エノテラ様がくれた品物は私が渡した品物と同じだった。


「これ……」

「ふふっ。同じこと考えてたんだね。相性が良いってことだよね?」

「はい!」


 オリハルコン製の三日月形の髪留め。単に平たいだけじゃない。

 ちょっとした細工が施されている。桃の昼咲月見草の花と二本の溝。

 裏にはエノテラ様の名前が彫ってある。

 もしかしてと期待して裏返してみると、やっぱり私の名前が彫ってあった。


「あの、提案なんですけどいいですか?」

「ん? どうしたの?」

「えっと、それぞれ自分が買った品物になってしまうんですけど交換しませんか? ご主人様と愛玩奴隷(ペット)。絆の証になるのではないかなって思うんです」

「私もそう思ってたよ。付け合おうか?」

「はい!」


 プレゼントを交換。お互いの名前が彫られた髪留めをお互いの髪に留める。

 頭の中で空想していた以上だ。エノテラ様の髪に三日月の髪留めが優美に映えている。

 心がいっぱい。満足。彼女を称える言葉を口にする私。


「似合っています。エノテラ様。可憐で惚れ直しました」

「アリナも似合ってるよ。私のアリナはやっぱり月だね」

「嬉しいです。エノテラ様」

「可愛い。ねぇ、アリナ。ここはベッドの上だよね?」

「え? はい。そうですね」

「月の髪留めを留めてる私のアリナが私をそそるんだよ」


 この流れはもしかしなくてもそういう流れ?

 私の肩を掴むエノテラ様。私は彼女の手で布団の海に沈んだ。

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