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01.私達の始まり。

 魔族の国ソロモン。

 その国の地方の一角・ルクセリア。

 私。エルフ族の女性・アリナがこの国に住まう魔女のエノテラ様に拾われてから今日で1年が経過した。

 拾われた当時の私は悲惨な状況下にあった。

 この世界の人類種、人間(ヒューリエ)魔族(グリエル)・エルフ・ドワーフ。

 それぞれの種族の共通の敵・オグル。

 彼らを討伐する者。冒険者(アドベンチャラー)だった私はそれ迄は苦楽を共にして来た仲間に突如裏切られてオグルへの捧げものにされた。

 暴行を受けて、身体を暴かれて、私はオグルの慰み者に。

 この時の私はオグルからの暴行と仲間に裏切られたショックで無気力な状態。

 好き勝手されていたところに流麗の魔女エノテラ様が偶然通り掛かり、オグルを瞬く間に排除。私を救出してくれた。


 ……正確には救出してくれたわけじゃない。

 オグルを排除したのは山菜採りに邪魔だったから。

 私を救出してくれたのは、私を気に入って私を愛玩奴隷(ペット)にしようと考えたから。

 その証拠に私はエノテラ様に傷の手当てと暴かれた身体を元に戻して貰った後で隷属の首輪を填められて自由を失った。

 私はエノテラ様を中心に半径2km以内でしか活動出来ない。

 それ以上は透明な結界に阻まれて、その先にはどう足掻いても進めない。

 他に自死を禁じられて、エノテラ様を傷つけることも禁止されている。

 填められた当初はエノテラ様を罵った。彼女には全く相手にされなかったけど。


 けど、人は置かれた環境に慣れる生き物だ。

 数日が経過した頃には私はエノテラ様の愛玩奴隷(ペット)として生きることに不満を持つことは無くなっていた。

 エノテラ様が毎日可愛がってくれるから、私は彼女に絆されて懐いた。

 毎日一緒にお風呂に入って背中を流して貰い、湯船に抱っこされての入浴。

 毎日一緒にベッドに入って、彼女に抱っこされての睡眠。

 他に魔法の研鑽、様々なる講義、雑学を彼女から習って私が上手く操作、理解が出来たら微笑みながら優しく頭を撫でてくれる。

 これで懐くなという方が無理だ。人としての感性を普通に持っていれば私のようになると思う。

 愛玩奴隷(ペット)。存外に幸福な毎日。


 ただ、エノテラ様には困らされることも多々ある。

 今も私は彼女の真横に立って頭を抱えているところ。

 この人、1度眠りに就くとなかなか起きてくれないのだ。

 放置していると3日3晩は眠ったままだったりする。

 しかも起こそうとすると、私を布団に引き摺り込んで抱き枕にしようとする習性がある。

 この1年。エノテラ様の(トラップ)に引っ掛かって私が2度寝をしてしまった回数は一体どれくらいのものなのか。考えるだけで恐ろしい。

 それに家事が出来ない。掃除して綺麗にした先から汚される。

 キリがない。せめて元あった場所に物を戻すくらいのことはして欲しい。


「はぁ……っ」


 ため息を吐いてエノテラ様の身体を揺する。

 これくらいではこの人は起きない。

 止むなく魔法を行使しようとすると布団の中から伸びてくる手。

 捕獲されたが最後。2度目の眠りに(いざな)われる。

 素早くエノテラ様の手が届く範囲内から距離を取って改めて魔法を行使。


異空間(ディファレント)魔法(スペース)


 魔法を行使するのに必要な言霊を唱え終わると私の横に開く異空の穴。

 そこに手を突っ込んで私はアイアン製のレードル(杓子)とフライパンを取り出す。

 異空間魔法は便利だ。財布やらなんやら持ち歩かなくていいし、この中に入れた物は時が止まるので例えば温かな料理を収めておけば取り出した時も温かなまま。

 腐りもしないので美味しく頂くことが出来る。

 エノテラ様に習った魔法。なのに自分は余り使わないのが意味が分からない。

 使ってくれたら掃除の回数を減らすことが出来るのに。


 私はレードルを右手に。フライパンを左手に持ってレードルでフライパンを全力で叩く。

 自分でやっておいてなんだけど、煩い。

 我慢して5分程叩き続けたのにエノテラ様が起きる気配はない。

 毎度のことながら呆れる私。諦めてレードルとフライパンを異空間に収める。

 こうなったら最後の手段を使うしかない。


 エノテラ様の元へと行って強引に布団から引き摺り出す。

 "ずるずる"とリビングへと引き摺って行って、椅子に座らせたら机の上に朝ご飯を並べる。

 ワンプレートなお皿の上にフレンチトーストとコーンポタージュとスクランブルエッグと野菜サラダが乗っかっているもの。飲み物はレモン水。


「エノテラ様。朝ご飯が出来ているので食べましょう」

「ふわぁぁぁ。ん~、ありがと。アリナ」


 料理の匂いに釣られてエノテラ様が"もしゃもしゃ"と朝ご飯を食べ始める。

 半分寝ている。それでいて朝ご飯を口から零すことはない。

 完全に覚醒している時のエノテラ様は凛とした姿で麗しいけど、今のエノテラ様はだらしがない。そんな姿が小動物のようで可愛らしい。これだから寝起きが多少悪くても私は彼女を憎むことが出来ない。

 多分、私しか知らないエノテラ様の寝起きな姿。貴重な姿を拝めるのは愛玩奴隷(ペット)の特権。

 頬を軽く緩ませて私も朝ご飯に手を付ける。


*****


 朝ご飯を終えた後は学習の時間。

 今日は食べられるキノコと食べられないキノコについて教えて貰っている。

 エノテラ様は人嫌いなので街からはそこそこに距離がある森の近くに居を構えている。

 お陰で不便なことも多いけど、四季折々の食材が無料で手に入るのは嬉しい。


 私の隣に屈んでキノコを指差しつつ、キノコの説明をしてくれるエノテラ様。

 朝のダメダメな姿は何処へやら。現在は凛とした姿。声さえもそう感じる。

 エノテラ様の説明をしっかりと聞きながらメモを取る私。

 次の場所へと移動。アダマンタイト製の隷属の首輪に溶接されているミスリル製のフロント金具に取り付けられた同じくミスリル製の輪っか部に填められたリードが引っ張られる。

 私は愛玩奴隷(ペット)なのだから、エノテラ様にとってはそうすることは当たり前のことなのだろう。

 分かるけど、されている私の側は少々複雑な気分なのが否めない。

 これだけは止めて欲しいと思うのは贅沢だろうか。

 今迄は黙って受け入れて来た。でも今日は当たって砕けろの精神でエノテラ様に言ってみることにした。


「エノテラ様」

「ん? アリナ、どうかした?」

「その、……リードで引っ張るのを止めて貰うことって不可能ですか?」

「アリナは嫌なの?」


 首を少し傾けつつ私に尋ねてくるエノテラ様。

 小顔。左右水平の目型。紅の瞳孔、小鼻で薄い唇。

 エルフ族の私より僅かに短い傾いた三角。尖った耳。

 腰の付近迄伸びた薄桃色のスーパーロングヘア。

 そこそこな大きさの胸に程好い肉付きの身体。

 

 エノテラ様は魔族の特徴を現す部位が少ない。紅の瞳とやや長い耳くらい。

 本人は「禍々しくなくて良かった」と言っている。私も正直そう思う。

 他の一部の魔族には不評のようだけど、エノテラ様には過度の部位は必要ない。


 それにしても、端麗な顔立ちに見惚れてしまう。

 見惚れて呆けていたら、エノテラ様に名前を呼ばれて我に返った私は慌てて弁明を開始した。


「嫌と言いますか、どうしてもこれだけは慣れないんです」

「……アリナは私の愛玩奴隷(ペット)って見せ付けるのに丁度良いのに」

「ここって殆ど誰も来ませんよね? 誰に見せ付けてるんですか?」

「言われてみればそう。じゃあ他の物に変えるね」


 言うや否やエノテラ様が私の傍に歩いてくる。

 リードが外されて代わりにと填められたのは金貨? よく見るとエノテラ様の顔が彫られている。これは良い。リードよりも余程良い。

 私は思ったことを素直に彼女に伝える。


「素敵です、これ。これなら私がエノテラ様の愛玩奴隷(ペット)だということを人々に認知させることが出来ますよ。街に行く時とかは私1人だけじゃないですか。これ迄は隷属の首輪で私が奴隷であることは分かっても、エノテラ様の愛玩奴隷(ペット)なこと迄は分かりませんでしたよね? でもこれならもう大丈夫です」

「100年程は前だったかな。私の顔を金貨に彫ってプレゼントしてきた奴がいた。予想外に役に立つ時がきたね。捨てなくて良かったよ。それと、アリナが愛玩奴隷(ペット)なことは分かるよ。奴隷によって隷属の首輪の造形は異なるからね」

「そうなんです? でも、誰の愛玩奴隷(ペット)なのか迄は分かりませんでしたよね? これで分からせることが出来ますよ」

「そうだね。アリナは私の愛玩奴隷(ペット)だって分からせられるのは嬉しいな」

「……エノテラ様」

「ん?」

「エノテラ様はあいつ等みたいに私を捨てたりしませんよね?」

「アリナは私のお気に入りだからね。一生飼い続けるつもりだよ」


 エノテラ様の言葉が私の心に染み渡る。

 1年も前のことなのに私の心にはまだ傷が残っていたらしい。

 嬉し泣きする私を目の前にして両手を広げるエノテラ様。


「アリナ、おいで」


 私は遠慮なくエノテラ様の胸の中に飛び込んだ。

2025/08/01 思うところがありまして、物語の一部登場人物(主人公含む)の名前を変更させて頂きました。

申し訳ありません。ですが、ご理解頂ければ幸いです。

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