山本の決意
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
丸末興業(現サークルエンド)の営業部長だった柴田は、平社員だった頃から、独立を企んでいた。人生設計を逆算で立てて、いつまでにどうするか、綿密に計画を練っていた。
同族経営の身内贔屓に業を煮やして、ということにしているが、同族経営の会社とわかっていて入社していたし、同族経営の身内贔屓なんてのは、建設業界に限らず、どこにでも転がっている。特に、丸末一族に恨みつらみがあるわけではなかった。ただ、独立するにあたり、社員数を確保する為には、不満分子を囲い込んでしまうのはいい手だと考えた。その方が都合がよかったのである。
会社名は、株式会社シヴァーダ。破壊と創造の神であるシヴァから拝借した。もちろん、自分の名前を基にしている。
創業から10年で大きくなれなかった会社は、もう大きくなれないという。新興企業の勢いのまま、一気呵成に攻めた。
古巣の丸末興業はもとより、丸末時代にパイプを持った孫請け会社の社員にも声をかけて、引き抜いていった。怒りの丸末謙吉なんぞは、自社社員と協力業者、一人親方の隅々末端に至るまで、柴田を着信拒否にしろ!と大号令を発した。守っている者は、ほとんど居なかったが。
比嶋開発の山本も、柴田から声をかけられているひとりだった。流れ者の山本は、拾ってくれた比嶋に恩はあるが、安い賃金でこき使われている現状への不満も随分たまっていて、そろそろ恩はもう返したのではないかと転職を考え始めていた。
そんな折り、サークルエンドの小椋が担当する解体工事の現場へ、内装解体で入ることが決まった。小椋には、何かと目をかけてもらったから、小椋の現場をきっちりやって、恩を返してから、シヴァータに移ろう。そう山本は決意した。
転職を決意すると、もやもやしていた気持ちが晴れて、心が軽くなった気がした。比嶋社長ともこれでお別れかと思うと、怒鳴られても、何か哀れみのような感情が生まれて、ネガティブな心情には陥らなくなっていた。
酒もうまい。煙草もうまい。女でも抱きに行こうかと、ソープ街を検索したりした。
来週の月曜日から、いよいよグマさんの現場だ。山本は、気合を入れた。




