リスクアセスメント
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
ハリスの言い分も分かる。
社員旅行では、社員旅行に限ったことではないが、行程をずらして、2班に分けることが多い。大昔、どこかの企業の重役が全員、同じ飛行機に乗って移動していたら、飛行機が落ちて全員亡くなってしまった、という話がある。幹部全てを失ったその会社は、立ちいかなくなった。多くの会社は、その教訓から、幹部の一団を分けて、移動させるようになった。
要は、万が一のリスク回避だ。そんなことは、まず起こらないが、起こった時のリスクがでかい。
会長と社長を分ける。常務と専務を分ける。部長と次長を分ける。もしもの時の、リスクの分散だ。
ハリスが残ることで、何かあった時の対処になる。それは分かったが、この文明の感じで、そこまでのリスクアセスメントが出来ているとは思えない。
ハリスが臆病風に吹かれたというのが、本当の理由だろう。ハリスの理屈で言えば、サイモンが残ってもいいわけだから。
揉めている時間も惜しいし、理にかなっている。怯えている者を連れて行っても、足手まといだ。見た目は全然違うが、ハンスとハリスがごっちゃになってかなわない。ここは、ハリスを置いて出港しよう。
「出してくれ。」
ハンスにそう告げた。
日が暮れかかっている。
川島は、夜になる前に、幽霊船に会える予感がしていた。怪談話によくあるように、死者には生者が明るく見えて、夏の虫のように寄ってくるというのであれば、ましてや血の繋がった自分が現れるのであれば、直ぐにでも寄ってくるのではないか、と。
その通り、港の灯台が少し低く見え出したあたりで、霧が立ち込め、あっという間に濃くなって、何も見えなくなってしまった。
「出るぞ。」
ハンスが言った。
みんなが身構えている中、霧を破り、にゅっと船首が突き出してきた。
「ん?」
想像していた幽霊船とは、まったく違う。いや、これは、この船には、見覚えがある。




