小椋と絵島
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
小掠は、丸末興業の創立メンバーである。ずんぐりむっくりとした体形で、ひげが濃い。身長が低く、熊のような見た目だからか、周りからは小椋とは呼ばれず、コグマと呼ばれていた。みんながコグマさんと呼ぶものだから、コグマが本名なのだと勘違いされることもよくあった。本人も電話に出る時に、はいコグマです、なんてやるものだから、その誤解に拍車をかけていた。
昭和的スパルタ志向が強い創立メンバーの中では、比較的温和な性格で、後輩の面倒見もいい。だからか、生意気な後輩を預かることも多い。その預かってきた生意気な後輩たちの中に、絵島もいた。
絵島も、温和な小椋のキャラクターに絆されて、文句を言いながらも言うことを聞いてよく働いた。その内、他の若い衆と同じように、グマさんと呼ぶようになる。
絵島も相当小椋の世話になったようで、頭の上がらない恩人となっていた。
その小椋が、会社を辞めると言い出しているらしい。
大きな事故を起こしたのは伝え聞いていたが、辞めるほどショックな事故だったとは思えない。絵島は、小椋を飯に誘った。
「グマさん。事故起こしたまんま辞めるのはナシだって。晩節を汚したらダメだよ。俺が掛け合うからさ、もう少し居ようよ。どうしても辞めたいんだったらさ、花道を飾るじゃないけど、まっとうな最後の仕事を回してもらうからさ。」
似たような内容の説得を、2時間続けたが、小椋は、1杯目のグラスを両手で握りしめたまま、ずっと押し黙っていた。
ラストオーダーまで、あと5分ほどとなっている。
「なあグマさん、」
絵島がもう一度呼びかけたところで、小椋が口を開いた。
「もう重機には、乗れない。乗りたくないんだ。」
他にも客はまだ残っているというのに、店の中が、やけにしぃんと静まり返ったような、そんな気がした。
「ラストオーダーでーす!」
という店員の言葉に、はっと我に返った。
「場所を変えるか。」
小椋に言われて、行きつけのスナックに場所を移した。別名、年金会館と呼ばれているその店は、80近くの婆さんが切り盛りしている。客の年齢層も60代以上とやや高い。
店に入ると、今日は大事な話があるから、と奥の席に座った。ママが水割りの用意だけをして、その席には時折、水割りを作りにママがくるだけで、店の女の子が席に着くことはなかった。女の子と言っても、全員、絵島より年上なのだが。
会話のないまま、水割りを2杯飲み干して、3杯目をママが作り終わって席を立ってから、ようやく小椋は口を開いた。
お前だから言うんだが、と前置きをして、小椋はポツリポツリと、自分の身に起こったことを話し始めた。




