川島の孤独
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
川島には、親友が居たことがない。
小、中、高を通して、居ない。もし大学に進学していたら、居たのかもしれないが、進学していないからわからない。
仲がいいお友達もいなければ、仲の悪いお友達もいない。孤立しているわけでもなければ、中心にいるわけでもない。
なのに、授業や催し物で、クラスでチーム分けをすると、あぶれる。
いじめられているわけではない。いや、いじめられていたらしいが、本人が自覚していない。同級生で同じ部活だった不良の大平と西山が執拗に小突いてきたことがあったが、しつこいなあ、くらいの感想だった。番格の鍋島が、川島が大人しくしているうちに止めとけよ、とすごんで止めさせた。それ以来、不良からも絡まれない。
同級生の中で、仲のいいランキングを作ったとする。上位には入らないが、下位にも入らない。そのランキングを同級生全員が作ったとしても、全員がほぼ同じ順位にする。選ばれないのだ。
小学生の修学旅行で、その傾向に気づき、中学2年の体育祭で自覚した。友情に対して思い入れはなかったから、そのまま、改善もしなければ、友達なんていらない!と自棄になることもなかった。
だから、高校2年の頃、勝手に親友と思い込んで接してきた友人を、些細な言葉で傷つけてしまった。友人は学校に来なくなり、とうとう何をしているのかさっぱりわからない。
社会に出てから友達ができたかと言えば、趣味の仲間はできたが、それが友人と判断してよいか、川島には分からない。
川島は、初恋の経験もない。今もだ。
何人かの女性と付き合っても、好きという感情は、もしかしてこれかも知れない、と思うことはあるが、しかし何か決定打に欠ける。恋人とはこういうものだろうと、無理して好きを演じていたことが見抜かれて、フラれる。24時間演じ続けるのは、不可能だ。ふと、彼女を大事にしない場面が積み重なっていき、疑念が生まれ、未来がなくなり、フラれる。
年齢を重ね気力体力を失い、彼女を作る元気がなくなった。あけすけに言えば、真実は、(関係を持った)女性は、性欲の対象だったが、経年劣化によって性欲が減退し、新しい彼女を必要としなくなってきた、の方が正しいのかもしれない。
60が近いのに、まだ小まめに女性を口説く先輩高畑のバイタリティーに、あの人は特殊だから、と羨ましいと思いつつ、自分にはできないと諦めていた。
年々、年老いていく両親をみて、申し訳ないと思いつつも、妹がちゃんと孫の顔を見せたから、いいか、と勝手に自分の荷を下ろした気になっていた。
川島には、仕事と、小さな趣味しかなかった。
真の意味で、深く家族以外の誰かと付き合うということがなかった。
だから川島は、ニックネームで他人を呼ばない。
そして、他人の名前と顔を覚えるのが、人より苦手だ。
相貌失認などではなく、他人との付き合い、関係が希薄であるケースが多い為、苦手なのだ。覚えられないわけではない。現に、付き合いのある他人は覚えている。関係性が薄い状態の他人を覚えるのが、特に苦手なのだ。加齢がそれに拍車をかけている。
悪い癖が出た。
石田を石井と間違って覚えてしまった。




