川島の好奇心
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
近隣への工事再開の挨拶の際、自治会長の連絡先を教えてもらっていた。電話番号が書かれたメモを片手に、入力した番号を繰り返しチェックして、自治会長の斎藤へ、連絡した。
つかぬことをお伺いするのですが、と前置きをして、
「今回、解体をおこなう社宅の周囲で、一番古くから住まわれている家は、どのお宅になりますかね。」
川島は、何かが引っかかると、無性に調べてみたくなる癖がある。例えば、クリスマスイブ。宮田が、12月25日の夜に、家族でクリスマスディナーをすると言ったことがあった。クリスマスディナーは、クリスマスイブにするものでは、と反論すると、クリスマスの夜だからいいだろう、などと、ああいえばこう、本当にどうでもいい言い争いをした。しかし、クリスマスディナーはクリスマスイブ、を常識として思い込んでしまっていたのは、なぜだろう。クリスマス特集の記事にも、前々日をイブイブと煽っている。イブを前夜として、世間は認識している。なぜ前夜にディナーを?その日が降誕の記念日ならば、25日の夜に祝ったっていいじゃないか。気になって気になって、とうとう調べ始めた。
結果、クリスマスイブのイブはイブニングの略で、クリスマスイブとは、クリスマスの夜を差す。前夜ではない。ユダヤの暦(及び教会暦)では、日没から日没までを1日とするらしい。日没が1日の始まりであり、1日の終わり。だから、24日の日没から25日の日没までが、クリスマスで、24日の夜は、クリスマスの夜、クリスマスイブニング、クリスマスイブなんだ。
こう言う話でしたよ、と一応、宮田に伝えた。そうか、とだけ宮田は答えた。
川島が今回気になったのは、井戸のことだ。
前に、木造の社宅を取り壊した際、床下から井戸が出てきた。今回の社宅も、木造の社宅も、同じグループが所有する社宅だ。
グループの不動産関連、用地を管理している部署に問い合わせようとしたが、部署の面子は、若返っている。何も知らないだろう。生き字引として有名な社員がいたが、10年以上前に退職している。川島も面識があったが、そういった、こみ入った内情、事情などを詳しく引継ぎするようなタイプじゃないし、簡単に引継げるような量でもない。
それでも一応、井戸のことをそれとなく、役職に長の付く社員に聞いてみたが、井戸?と疑問符が実際に見えるんじゃないかってくらい、素っ頓狂な返しだったので、これは無理だ、とあきらめた。
迷った。部外者に聞くほどのことだろうか、と迷った。
「あの辺りは、みんな古いが、石田さんが順当ですな。」
好奇心に耐えられなくなったら、石田さんに聞いてみよう。
野帳に、石井さん、とメモした。




