違和感
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
川島の勤める会社は、地方にある。さらに地方の営業所へ、川島は飛ばされていた。
グループ会社から受注した、社宅の改修工事の工期3ヶ月の間、マンスリーマンションを借りて、川島は小さな町に居た。
工事着手前の近隣への挨拶に、珍しく本社の営業が同行した。いや、営業部長の岩橋がわざわざやってきたのだ。岩橋は、営業らしく、川島の後ろについて、一緒にぺこぺこと頭を下げて回った。
「あと、何軒回るんだ?」
ランチの生姜焼き定食のキャベツを皿の端に寄せながら、目を合せずに岩橋は訊いた。
「目星をつけたところは回り終わったので、タオルも余ってますし、後は回るか迷ってたところにでも。」
と川島は、ハンバーグを半分頬張った。
「新見に行ってもらっている、解体現場なんだがな。」
新見は、川島の4年先輩にあたる。猪突猛進、イケイケの新見と呼ばれた男だ。傍から見ている分には面白い男だが、一緒に仕事をすると振り回される。下請けからの評判は、良かったり悪かったり。川島は、新入社員の頃に、助けてもらった恩があってか、悪くは言わないが、良くも言わない。ただ川島は、新見がやらかした現場の尻拭いを何度かしている為か、やや含んだ物言いになる。
「解体なら、ほとんど業者さんに任せられるんだから、新見さんでも大丈夫でしょう。」
「まあそうなんだが。」
と食事を進める。
食事が一段落して、サービスのコーヒーを待っている間、窓の外を眺めながら、岩橋が言った。
「もしかしたら、交代してもらわなければならない可能性がある。」
「それはないでしょう。昔はよくあったかも知れませんが、今の時代、監督交代なんて聞いたことがない。」
何度もあるし、何度も尻拭いをした。しかし、現場に行く前から交代ありきなど、冗談でしかない。
「嫌味を言うな。」
「冗談を言わないでください。」
そう何度もあってたまるか、と、紙ナプキンで口を拭った。
小さな違和感は、放っておくと大きな問題になる。これは、川島が四半世紀以上同じ仕事に従事して得た法則の一つだ。
冗談と受け止めていたが、違和感は残っていた。