絵島だった
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
見事に剃髪された後ろ頭。もしかすると禿頭かもしれない。
とにかく、便器から、スキンヘッドの後ろ頭が突き出ていた。
なんだこれは。
怖さよりも混乱が強い。
「つるピカはげあたま、か。」
掴みにくいな、と川島は思った。
田代は、自身が体験した恐ろしい話を続けていたが、川島は考え事をはじめてしまったので、田代の話を、もう聞いていない。
その禿頭を除霊してくれ、ということなのだろう、と推測した。
要は、その禿頭を便器から取り出してしまえば、解決する話だ。
話を最後まで聞かずに、勝手に結論付けるのはよくないが、この場合、川島への要望が何か、容易に推測ができた。まず間違いない。話の途中で勝手に先読みして、要望に対する処理方法、段取りのシミュレーションを考え始めるのは、ついやってしまう悪癖だが、実施に移っていないから後戻りできるし、手遅れという話でもない。諸々は、後で確認すればいい。
何より、出オチの怪談っぽいし、話の面白さも、禿頭が便器から出ていたところがピークだろう。あとは蛇足だ。つまり、退屈だ。
そうじゃないのかもしれないが、どうしようかなあ、という考えの方に集中してしまった。
掴みにくい。
物理的に掴むわけじゃないが、川島にとっては、物理的に掴むようなものなので、掴みにくいというイメージがあると、失敗してしまうだろう。両手を使えばいいのだろうが、保険として、片手は残しておきたい。片手で掴み上げて引きずり出したい。
簡単にバスケットボールを片手掴みできるような手じゃない。川島の手はデカいが、指が短い。
せめて髪の毛があれば、髪の毛を掴んで、引っ張り上げられる。便器から引きずり出せる。
川島は、禿頭だった武田の頭を思い浮かべて、ああいう感じかな、とイメージしていた。
人の頭だから、バスケットボールほどではないか。バレーボールくらいかな。でも武田さんは、頭が大きかったからなあ。
頭の中で、武田さんの禿頭を掴んだ。
ちょっと笑ってしまう。
「ふふっ。」
「笑いごとじゃないんですからぁ!」
田代に咎められた。
「ごめんごめん。続けて。」
聞いちゃあいないけど。
バレーボールくらいなら、まあ何とかなるか、と手をにぎにぎする。
これは、トイレの詰まりを直す、修繕工事みたいだなあ、とぼんやり思った。
トイレの詰まりの修繕。仕事でもやっていることなので、それについては、抵抗がない。
しかし、しかしだ。
便器に嵌っていた禿頭を引きずり出して、処分場に持っていく為には、自分の車に載せる必要がある。厳密にいうと汚物ではない。汚物ではないのだろうが、気分の問題だ。自分の車に載せるのには、抵抗がある。いや、載せたくない。便器から出てくるようなお化けだ。穢れは汚いに違いない。
となると、田代の車か。
いや、処分場を田代に教えるのは、なんかイヤだ。具体的にどうイヤかは言えないが、なんかイヤだ。知られたくない。
そうなってくると、結論はひとつ。
絵島だ。
絵島は、巻き込んでもいい。
「絵島さんから聞きました。」
絵島だったのだから。




