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川島式直接排除型除霊工法  作者: いけたらいく
§5.施工事例その3 石塔のある家
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素人の戦い

この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。


自分は素人だ。


戦いというものについて、自分は素人だ。まず日本には徴兵制度が未だないから、軍事訓練を受けていない。義務教育においても、格闘技や武道を習っていない。体育の授業で柔道の受け身をやったような気がするが、その程度だ。小学、中学のクラブ活動では、スポーツを選択したが、柔道剣道空手レスリングなどの格闘系ではない。高校は、帰宅部だ。筋トレをしていて体格はいいが、格闘技に落とし込む為にやっているわけではない。


好きな映画のアクションにしても、好きな剣豪小説や武侠小説にしても、虚構という前提で見ているから、真似はするが、格闘技や武道の門を叩くきっかけとまではいかなかった。


興味はあるが、自分が熱心に取り組むものではない。


プロスポーツとして日本で成立している、野球、サッカーやバスケ。スポーツとして好きだが、観戦は余り好きじゃない。テレビ観戦はつまらないし、スタジアムに観に行ってもつまらなかった。観ているくらいなら、実際にやりたい。バッティングセンターにはよく行くし、年に1度開かれるグループ対抗戦のソフトボール大会には、積極的に参加している。


スポーツは、観ているより、プレイする方が好きだ。


では、格闘技はどうか。


若かったころ、大みそかの特番は、格闘技大会だらけだった時代がある。


たのしく観戦できた。


ボクシングも大相撲も観る方が好きだ。


格闘技は、やるより観てる方がいい。


つまり、格闘技は、好きであっても、やりたいことではない。


生活圏内にジムや道場が出来ても、へー、できたんだ、というくらいのものだ。


格闘技は習っていない。


平和に生きてきたから、殴り合いのケンカという場面もない。いや、全くないというわけではないが、素人の()()だ。


ずぶの素人だ。


アクション映画や格闘技の大会を()()()()()で観ていないから、自分の中に落とし込まれることもない。


何よりもまず、身体を動かすことを前提とした場合、観て覚えるというのは、余程の天才でなければ無理だろう。そして、そのレベルの天才はこの世には、いない。


もしそれが可能なら、洋画を字幕で何十年も観てきているのに、まったく英語ができないのは、どういうことなのか。確かに、()()()()()で観ていないのだから、それはそうなのだが。


ただ、勉強するつもりで活用しているならまだしも、聞き流して覚えられるわけがない。


赤ちゃんは聞いて覚える?


赤ん坊のころの学習能力は特別だ。一緒にするな。


とにかく、格闘技に関して、自分は素人だ。


「それなのに、いきなり突っ込んで、殴りかかったんですか?」


()()()んだよ。」


「え?」


「手強そうだなと思っていたら、それを見透かしたように、()()()んだ。」


「はあ。」


()()()()()、と思ってしまった。」


直後、新太郎の声が聞こえたことは、黙っておいた。秘密主義と言われれば秘密主義だが、新太郎のことをわざわざ言う必要もないと思ったからだ。


「そんな短絡的な感じで突っ込んだんですか?」


()()()とは思ったが、()()()()とは思わなかったからな。」


「もし敵わなかったら、どうするんですか。」


「倒せたろ。」


()()()ですよね。いつもそうとは限らないじゃないですか。」


氷河期世代(おれら)はな、鬱積しているから、物の弾みで、そういう行動を取ってしまうんだ。魔が差すってやつだな。」


「そんな、超人みたいな。」


「緑色にはなってないだろ。」


「でも、超人みたいな暴れ方でしたよ。」


首を横に振りながら中務がそう言うと、川島は笑った。


「そりゃそうだ。素人なんだから、素人のような暴れ方だったろう。ただ()()()の超人のような。」


ただの()()()が通用した。


()()も、素人だったから通用したのかもな。」


「武道の心得がある幽霊なんて聞いたことないですよ。」


「いや、いるかもしれないぞ?武術に精通したお化け。」


「いたら、少年漫画みたいな展開になりますね。」


「テコ入れされて、バトル漫画になってしまうのかな。」


「誰からテコ入れされるんですか。」


「編集長。」


「いませんよ。」


「着いたぞ。」


路肩(と呼んでもいいのかわからないようなところ)に車を止めて、ふたりは降りた。


トランクを開けると、幾重にもかけられた金縛りによって、雁字搦めにされた()()が、身動きが取れないながらも、僅かに蠢いていた。赤いマニキュアが印象的だ。


「しぶといな。」


掴み上げると、慣れた足取りでトンネルに向かう。


「許容量とか、大丈夫なんですかね。」


「大丈夫だ。」


オトコが答える。


携帯のライトがトンネルを照らした。


ポイっとトンネルに放り込むと、スッと奥の暗やみへ吸い込まれていく。


「なんか、やってることがヤクザみたいですよね。」


「映画の観過ぎだろ。」


バタン、とトランクを閉じる。


「どうする?夜景でも見て帰るか?」


()()()()()。男ふたりで気持ち悪い。」


嫌の方の()()()()()の言い方だ。


第6駐車場の怪異は、物理でぼこぼこに殴られて、倒されてしまった。


幽霊がどういう思考回路を持っているのか、わからないが、まさか、物理で倒されるとは思っていなかっただろう。


いや、()()を物理と呼んでいいのか、甚だ疑問だが、見た目は確かに物理攻撃そのものだった。


殴る蹴る。殴る蹴るだ。


「川島さんの除霊って、世間が想像しているものとはかけ離れていますよね。」


「独学だしな。俺は()()しかやり方を知らない。」


「事実は小説より奇なり、ですかね。」


「パネマジを信じて嬢を選んではいけない、だ。」


「(発想が)おじさんですね。」


「おじさんだからな。」


車を発進させる。


「ラーメンでも食って帰るか。」


青竜軒は、日曜定休日だった。

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