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川島式直接排除型除霊工法  作者: いけたらいく
§5.施工事例その3 石塔のある家
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ソースカツ丼

この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。


「そうだな…。」


と数秒だけ思案して、例えばだ、と話し始めた。


ソースカツ丼で有名な店があったとする。


目当てはソースカツ丼だから、当然、ソースカツ丼を頼む。


自分が頼んだ後に、誰かがソースカツ丼を頼んだ。


店員が言う。


「申し訳ございません。ソースカツ丼は終わりました。」


ラッキーと思うか、申し訳ないと思うか。


「半々ですかね。」


では、と続ける。


ソースカツ丼にありつけなかった客が、ひどく落ち込んでいる。


どうしてそんなに落ち込んでいるのか、と落ち込む客に誰かが尋ねた。


()()が…この場合の()()は誰でもいい。この例え話の目的として、誰が聞いたのかは、問題ではない。阿呆のシネフィルのように、設定に辻褄(リアリティ)を求めるな。


「求めてませんよ。」


「顔に出ている。」


どうしてそんなに落ち込んでいるのか、と落ち込む客に誰かが尋ねた。


客は、同情の余地しかない悲惨な半生を語る。()()()だから、悲惨な半生の内容そのものは、思いつかないが、客の背負う哀しみが、ソースカツ丼で救われるという話に帰結したとする。


「想像しにくいですね。」


「仕方ないな。」


ため息をまじえた。


じゃあ、ざっくりと、その客は、その店のソースカツ丼が大好物で、年間300杯も食べていたような男だったが…


「…200杯にしようか?」


「300でいいですよ。」


「じゃあそんな顔をするな。」


「どんな顔ですか。」


「リアリティを求めるシネフィルの顔だ。」


「どんな顔ですか。」


「時を戻そう。」


舌打ちを置き去りにして、話を進める。


大好きなソースカツ丼を年間300杯も食べていた男は、ある時、大きな病気に罹り、健康な体を取り戻すべく、仕方なく、ソースカツ丼を断つことにした。ところが、八方手を尽くしても、病気は善くならない。それどころか悪化して、余命宣告を受けることになった。


生きる為にソースカツ丼を食べないことを選択した男だったが、希望を失った今、ソースカツ丼を食べないことに、意味はなくなった。


「どうぞ、お好きなものを食べてください。」


死ぬ前に、まだ余力があるうちに、ソースカツ丼を食べられる体力があるうちに、男は、最後の晩餐として、当然、ソースカツ丼を選んだ。


病弱だからなのかわからないが、何の気なしに、繁盛する時間帯を外して、男は店に入った。店に行かなくなって、何年も経っていたが、店は当時のままだった。厨房から漂ってくる懐かしい()()()()で、記憶が一気に蘇る。ああ、ソースカツ丼が食べられる、と期待に胸が膨らむ。


男がやせ細ってしまっていたからなのか、ホールの店員が最近雇ったアルバイトだからなのか、かつての常連客に、店はまだ気づかない。


男は、日本人らしく、手を挙げて、すみません、と店員を呼び止め、注文をする。


「ソースカツ丼をください。」


「すいませんお客さん。ソースカツ丼、終わっちゃいました。」


「譲りますよそんなソースカツ丼!」


「いや、時間差で、お前はもうソースカツ丼をほぼ平らげている。」


「ひどい…。」


「もう一度、尋ねる。ラッキーと思うか?申し訳ないと思うか?」


「申し訳ないですね!!」


「じゃあ、お前が悪いのか?」


「い、いや、僕は悪くないですけど…。」


「でも罪悪感はあるんだよな?」


「はい。」


「それだ。」


「え?」


「それだよ。」


「いや、違いますよ。」


「違わないよ。それだよ。」


「僕が聞きたい()()()()()()()()()は、そういうのじゃないですよ。」


「でも、()()()()()()()()()だろ?」


「そうですけど。」


腑に落ちない。


()()()()()よ。ジョーカーみたいなヴィランのことだろ?」


「わかってるんじゃないですか。」


()()()()()()()()()が出てくる映画』を中務は知りたかった。


そこで川島は、()()()()()()()()()を定義づけするところから始めた。


面倒くさい男たる所以である。


「いっぱいあるよ。」


「例えば?」


「えーと。」


「すぐ出てこーへんのかい!」


()()()()()()()が出てくる映画、と言えばよかったのかもしれない、と中務は思った。


()()()()にとっての川島さんは、間違いなく悪役だ。


とりわけ、敵対した場合は、とびきりの悪役となる。


慈悲の心を持たない。


そう。あんなにも無慈悲だ。


第6駐車場は、真の意味で、心霊スポットではなくなってしまうのだろう。

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