クレジットカード
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
「絶対に嫌だ!」
「大丈夫だって、何にも映ってないから。」
「観ない!絶対に観ない。観るわけないだろ!」
「俺も観たけど、何にも映ってなかったわ。面白くない。」
竹脇は、断固として、観ようとはしない。
「霊感のある子にみせたけど、全然だったから。」
竹脇は、観るくらいなら帰る、とすら言い出した。
「わかったよ。もういいよ。絵島さん、これ、処分しといてよ。」
「自分とこのコンテナに捨てろよ。」
「今、決まった現場がないから、できないんだよ。」
「しょうがねえな。」
「なんで俺が、聞き分けのない子みたいになってるんだ。」
「飲みなおすか。」
「キャバクラでも行く?」
心にもない提案をした。中務と違って、おっさんふたりは、乗ってきた。しかし、
「キャバは、いいわ。もっと落ち着けるとこがいい。どっか店ないか?」
「えー。最近は(街に)出ても、バーしか行かないからなー。バーでいい?」
「川島君のいうバーって、オーセンティックのだろ。流石に落ち着きすぎだわ。」
「うちの社長が行ってるとこでいいなら。」
「俺たちは、経費で飲めないんだぞ?割り勘なんだから、高いとこは勘弁。」
「社長がボトル入れたばっかりだから、ちびちびやれば、大丈夫だろ。」
「貧乏サラリーマンは、世知辛いねえ。」
とはいえ、酔っ払ったオッサンの財布の紐は緩い。それに、川島は、そこそこのカードを持っている。
川島は、若い頃、すすめられるままに、クレジットカードを作っていた。川島が二十歳そこそこの頃、クレジットカードの審査が緩かった。色んなお店で、カードを作りませんか、と言われて、そうですかと作っていた。5枚ほど作ったところで、こんなにいるのだろうか、と疑問に思った。
財布の中がカードだらけになっていて、これはいかん、と思った。整理をしよう。まず年会費のかかる奴を解約しようと考えた。契約は簡単だが、解約は困難だ。すごく面倒くさい。
会社の先輩に、そのことを話したら、無料の奴を解約しろよ、と助言された。
川島の持っている、年会費のかかる奴は、その辺の若いサラリーマンが作ろうとしても、なかなか審査が通らない。なかなか審査が通らないってことは、信用できるカードってことだ。フリーターでも作れる年会費無料のカードよりも、年会費が多少かかっても、信用度の高いカードの方がいい。クレジットカードなんだから、と説得された。
そう。クレジットカードのクレジットは、販売信用。信用会社が会員を信用して先払いをしてくれる。審査が通りにくいカードは、持っている会員の、信用の高さをあらわしている。
「え。でも、カードの審査、すぐ通りましたよ。」
「五輪だからだよ。」
そう。信用会社が信用しているのは、若い社員個人ではなく、若い社員が勤めている会社を信用して、カードを発行している。
「なるほど。」
年会費無料を率先して解約した。
信用できるクレジットカードが、ポケットの中の財布に入っている。少々の支払いなら、大丈夫だ。
行こう行こう、と3人は、一軒目を出た。
竹脇を先頭に、繁華街を闊歩する。竹脇もそうだし、川島もそう。絵島に至っては、見るからにそう。そんな三人が、繁華街を歩くと、人を避ける必要がまったくない。だからといって、輩のように歩きたくはないので、真ん中ではなく、大人しく、端っこを歩いて、店を目指した。
店の名前は、linda といった。




