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川島式直接排除型除霊工法  作者: いけたらいく
§4.施工事例その2 鉄橋
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ビッグ・ブリッヂ

この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。


橋を架けるのは、困難な場所を通る為だ。それは、川であったり、海であったり、谷であったり、道路であったり、線路であったり。誰かと誰かを繋げることも、橋渡しと言う。


橋は、入り江にあった。いや、規模としては、湾か。だから、大橋と名付けられている。


船が通るからか、最高高さが海抜50メートルを超える。構造はラーメン。近代建築の主流。橋は、土木分野だが。


見晴らしがとてもよかったのだが、身投げが後を絶たず、自殺の名所になってしまった。そこで、高いフェンスが設置された。その高さは、人類が到達できるであろう身長の限界をさらに超えていた。よじ登る()()もろくにないので、投身自殺は高いフェンスに阻まれ、やがて()()()()()という悪名は、過去のものとなった。


「あんな高いところから、よく飛び降りられるよな。」


と言うと、自称・高所恐怖症の武村が答えた。


「高いところが怖いのは、落ちるのが怖いからじゃない。飛び降りたくなるから怖いんだ。」


なぜ、自殺の名所などと言うものは生まれるのか。


不法投棄と一緒だ。ひとつのゴミが捨てられて、放置されていると、そこにゴミを捨ててもいいんだ、と思う人が現れる。やがて、どんどん捨てられて、ゴミがたまり、やがて、()()()()()()()となる。


看板や監視カメラの設置で心理的に訴えかけ、物理的な柵でブロックする。やがて、捨てられることはなくなり、()()()()()()()という悪名も、なくなる。


だが、この世から不法投棄をする輩は、いなくならない。どこかまた、別の棄てやすい場所を見つけて、捨てている。いたちごっこだ。


自殺者もまた、いなくならない。他の、死にやすい場所を探しに行く。


死にやすい場所を見つけて、最初のひとりとなった者が、さらにほかの自殺者を呼び寄せている、というのは、とても怪談的だ。死にやすい場所をみつける、という目的を持った者が共有する、意味のある偶然の一致(シンクロニシティ)。自殺はニュースになる。マスメディアという大きい媒体から、井戸端会議の噂話ほどの小さい媒体にまで、自殺は話題となる。自殺がよくある場所、という噂が広まれば、死にやすい場所を探しているものが集まってくる。自殺の名所となる。


ある意味、そこで自殺した者が、招き寄せている、というのは、その通りかもしれない。しかしそれは、二次的三次的な副産物だ。怪談によくあるような、自殺した者が、意識して、招き寄せている、というのとは違う。


川島も、怪談を漁っていたころは、そのまことしやかな理論を、(演出としてではあるが)受け容れていた。


しかし、今は違う。


自殺の名所には、()()()


自殺者の多くは、生きるのが嫌になって、死を選んでいる。


()()()が嫌になって、自ら死を選んだ者が、()()()に縋っていることはない。


この世(こんなとこ)にいたって、しょうがないだろう。」


(まだ現世で迷っている)自殺した者には、この言葉が効く。


もちろん、切腹の類は除く。切腹の類の中には、この世に、未練を残すものもいるだろう。恨みつらみもあるかもしれない。


ただ、そう、自殺の名所にやってくるものは、生きるのが嫌になって死にに来る者が多い。


わざわざ、死んだ後に、同じ道に引きずり込んでやろうという怨念を持つものはいない。


自殺の名所は、自殺の名所であり、心霊スポットにはなり得ない。


橋に設置された高いフェンスを見て、ふと思う。フェンスと一緒に、慰霊碑を設置できないのは、なぜだろう。世間体だろう。事故や、災害、戦争で死んだわけではない。生きたいのに死んでしまったものには、立派な慰霊碑が建てられる。しかし、自分から死んだ者へは、世間はぞんざいだ。あまつさえ、他人に迷惑をかけてまで、と思われている。どこかの教えでは、天国に行けない、とさえ、されている。


自殺した者は、生を捨てているのだから、それすらも、もはや、関係がない。


橋は、ラーメン構造だから、コンクリートだ。


鉄橋ではない。

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