平井という女
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
五輪建設は高いから、といって、平井の伝手で、地元の解体業者を紹介されたという。
そこで、話を一旦遮って、
「五輪建設に連絡したことを、平井さんは、ご存知なのでしょうか?」
念の為、尋ねた。
他の会社が請け負う話を進めていた場合、施主の希望とはいえ、何も言わずに横から浚うというのは、筋が通らない。柔らかい表現で、その旨を説明した。
「それは、大丈夫です。」
何がどう大丈夫かは知らないし、わからない。ただ、ここで断りを入れておくことで、後々に弁解が必要となった場合に、免罪符として、有効となる。おそらく、この話では、必要のないことだが、必要なことだ。何事にも、順序や段取りがある。牛の糞にもだんだんがある。
石田さんは、続ける。
妹が放棄した以上、誰も住むあてがない家は、必要ない。
父親の説得をどうするかは、置いておいて、石田さんは、家を手放す準備を進めることにした。
売却について、不動産会社に勤める平井に頼った。
貸すのはどうか、という提案を、石田さんは却下した。持っていて、将来、邪魔にしかならない、と考えたからだ。
更地にして売却、とする場合で、解体費用を売主が持つ場合、解体にどれほど費用が掛かるのか、という話の中で、石田さんが、同じグループの五輪建設に見積をとろうかな、と口に出したところ、大仰に平井は否定した。
「五輪なんてとんでもない。高いだけよ、あんなところ。」
同じグループなのに、ひどい言われようだな、と川島は苦笑した。
石田さんと平井は、様々なパターンを想定した。そのまま売却する。取り壊して更地にして売却する。売主が解体する場合と別に、不動産会社で解体費用を持つ可能性も考慮し、平井は、自社で融通の利く、解体業者に見積を取るつもりだと言った。そして、その見積書を石田さんにも送る、と。
解体の見積を取るには、物件を現調する必要がある。石田さんは、用事が立て込んでいたことから、立会のスケジュールを心配した。それほど急いでいる話でもなかったので、先送りにしようとしたら、平井が、ぐいぐいと詰めてきた。そして、平井の、私が立ち会うのでよければ、という提案に、甘える形になった。
「任せておいて!」
平井は、何やら自信満々だった。
父親に、解体工事の見積の為に、鍵を貸して、と言える段階ではない。家の鍵は、妹さんも持っていたから、妹さんに繫いだ。ダメ元で、妹さんに立会を頼んだら、
「絶対に、嫌。」
と拒絶された。
とんとん拍子に、現調の段取りがついた。平井から、この日に現調するから、と石田さんに連絡があった。
しかし、前日、平井から、連絡が入った。申し訳なさそうに、流行り病に罹ってしまった、という。1週間、家に籠って、人と会うな、そう医者に言われたのだという。日を改めるのかな、と思ったら、その解体業者は、信頼できる会社なので、業者さんだけで現調してもいいかしら、と懇願された。
平井という人物は、よく言えば、思い立ったが吉日。善は急げの人なのだろう。ごり押しの感じが、ちょっと新見っぽいな、という印象を、川島は持った。
自分のものでもない。思い入れもない。まあ、いいか、と石田さんは思った。




