第1話 だから盾を持つことにした
「この盾金貨10枚だってよ。どんな物好きが買うんだよ」
小さな都市の治安はそれほど良くない。特に武器を扱う店は冒険者が多く、はたから見たら少し怖いほどだ。
「…ちょっと失礼」
そんな彼らの合間を縫うように盾を持ち去っていく。
「この盾を売ってくれ」
「あいよ。金貨10枚だ」
極東に位置する城塞都市フラーデン。別名「はじまりの街」。魔王城から最も離れたこの街は周辺に魔物が少なく、冒険者の数もそれほど必要としていない。しかし、自身の力に自信のない多くの冒険者が拠点としている。
つまり、この街は平和だ。
「今日も依頼が更新されていないのか…」
ギルドに張り出された依頼は素材回収とその他少々であった。
「おうジン。やっぱり帰ってきてたのか。武器屋で高価な盾を買っている冒険者がいるって噂になってたぞ。はじまりの街で高価な盾買う奴なんてお前ぐらいだよ」
「ご無沙汰です…ギルド長」
「…すまんな。この街は平和だから依頼もそれほど多くないんだよ。それなのにこいつらと来たら、この街から出ようともしねぇ。こんなんじゃ新人がいづらくって仕方ねえよ」
ギルドの中は張り出された依頼の数より人が多い。
「はは…まあこんなやつらでも魔物が来た時には頼りになりますから。いないよりマシですよ」
「おいおい、ひどいじゃねえか」
僕らの会話に聞き耳を立てたジョッキたちはこちらを見ずに盛り上がる。
「…まあそういうことだから、金稼ぎたいなら別の街に行くか…ギルドの育成係の席はいつでも空いてるからな」
「ありがとうございます。でも、僕には人に教えられるほどの実力も才能もありませんから」
「実力も才能もない…か。この街にいる冒険者は誰もそんなこと思ってないのにな」
場所に似合わぬ高い城壁を振り返り、はじめてこの街に来た頃を思い出す。
「育成係、僕には向いてないよなあ。だって僕はパーティを組んだことすらないからな…。さて、次はどこへ行こうかな。」
今日も日記に記す。
『盾の購入。スライム3匹、ファイアボールによって討伐。的中率100%…』
「今日も少しだけ成長できたかな…」
街から少し離れた森は少しだけ静かだった。
どれだけの月日が流れたのだろうか。僕は過去の記憶をあまり持っていない。神から与えられたスキル【不老不死】。その恩恵は同時に災厄でもあった。
はじめて死んだときのことは覚えている。魔物に食べられ、消化され、それでも痛みだけは鮮明に。溶けた体の一部はやがて自信の意識と切り離され、核から蘇生がはじまる。けれど、修復は痛みを伴い、長い年月を要した。死にたいと思考することはできずとも、すべての細胞はきっとそう願っていた。
目覚めたときには体は完全に修復されており、はじめて不死を実感した。そのときだった。
盾を持つことにしたのは。