縁
――城外の林――
清心城を出て一時間程経っただろうか
二人は城外の周りに生い茂る林の林道を歩いていた
きちんと整備されている訳では無いが 人が三人並んで歩ける程度の広さはある
ここまで来ると流石に人気は無い
特に何を話す訳でも無く 黙々と歩き続けながら 一体どこまで連れて行かれるのか 等と考えていると林道の先に開けた場所とその中にある小さな小屋が目に入った
「ようやく見えてきたね あれが私の住処だよ 」
沈黙を破り見知らぬおじさんがようやく口を開く
「やっと到着ですか 結構遠いんですね」
「そうだね 普段は気にしないがいざ歩いてみると退屈してしまう程度には やはり遠いらしい」
「普段は気にしないって しょっちゅう城まで往復してるんじゃないんですか?」
「確かに清心城にはよく足を運ぶが 私は普段歩かないんだ 君を連れているからこの度は歩くしか無かったという訳さ」
「ちょっと話の意味が分からないですね こんな道幅じゃ馬車も通らないし歩く以外の選択肢が無い気がするんですけど」
「・・・まぁ ゆくゆくわかるようになるだろう 何事も答えが一つという訳ではないんだ 世の中は君が思っているより広い」
「そ そうなんですね 」
(うーん わからん その内わかるっていうなら何か仕掛けがあるんだろうけど・・・もし本当なら目からウロコなんて話じゃないぞ)
見知らぬおじさんの話が全く腑に落ちない様子で あーでもないこーでもない と自問自答を繰り返すが当然それらしい答えが出る訳も無い
そして星河は考えるのをやめた
――林の小屋――
「ここまでよく着いて来てくれたね お茶を用意するからそこの椅子に座って待っていてくれないかな」
そう言うと庭先にある長椅子を指さし 頷く星河を見ると見知らぬおじさんは小屋の中へと入って行った
「はぁー・・・随分歩いたな 一時間は軽く超えただろ」
「城に行くたび一時間以上歩いてたらもはやちょっとした修行だな しかし歩かないとか言うしいったい何者なんだあのおじさん」
「それはそうと・・・この長椅子 素人目で見ても高級って分かるぞ 一枚板だから頑丈そうだし」
椅子に座り辺りを見渡すと目に映る木々
虫や鳥の鳴き声が響くこの情景は田舎の村を思い起こさせる
まだ村を発って半月も経たないが 懐かしさとも呼べる感情に浸っていた
すると茶道具を持った見知らぬおじさんが小屋から出てきた
「待たせたね さぁ お茶にしようか」
用意したのは急須と茶碗が二つ しかし村のみんなが持っているようなのとは違い 明らかに価値のありそうな質感だ
「あのー この急須とかってすごくお高いんじゃ・・・」
「そう見えるかい?それが実はそうでも無くて五千霊石もあれば買えるんだ」
「これが?その値段で?欲しいなぁー 今度お店を紹介してくださいよ」
「残念ながら清心国で売ってる物では無いんだ 北域に居る知人が作っているのだが品質は確かでね この値段で買えるような物では無いと私も思っているよ」
「なるほど・・・いつか機会があれば是非購入したいですね」
「そうするといい その時が来たらまた知人を紹介するとしよう とりあえずは冷めない内に飲んでやってくれ」
急須から入れた熱々のお茶を手渡されると 漂う今までに飲んできたお茶とは全く違う香りに胸が高鳴る
「う うまい!なんて美味しいんだ!それに何だろう・・・ほんのり霊気を感じるような・・・」
「気づいたか これは九頻古茶と言って市場にはめったに出回らない銘茶だ そして察しの通り霊気を含んでいるから修練にも役立つ」
「へぇ こんな凄いお茶があるなんて 本当に世の中は広いんですね 毎日でも飲みたいくらいだ」
「ここに来ればいつでもご馳走するよ 私もこのお茶が好きで大量に茶葉を仕入れているからね」
「さっきめったに出回らないって言ってたのに大量にって・・・おじさんはいったい何者なんですか?」
「そういえば自己紹介がまだだったね 私の名は 葉重玄 見ての通り隠居暮らしをしているただのジジイさ」
「ジジイって・・・そこまで歳いってるようには見えないですけど」
「そうか君は知らないようだね 武者や錬成師は境界を突破する度に寿命も増えるんだ 私の場合は元力を使って若さを保っているが中身は結構に歳をとっているんだ」
葉重玄の話は初めて聞く話ばかりだが 星河にとっての常識に当てはめると根本的な疑問が湧いてくる
「え ちょっと待って・・・ 元力を使ってって 重玄さんは一般人じゃないの?元力の波動も感じないし・・・」
「ここに来る道中も話したが 何事も答えが一つだけとは限らない ましてや見識の浅い君の見出す答えなんていうのは真実とは程遠い とも言える」
「そんな・・・と言うことは重玄さんは武者か錬成師だって事なんですか!?」
「その通り 私は九霄境五重頂点の武者だ」
「きゅ・・・九霄境!?それも五重頂点!?そんな強者は清心国には居ないって・・・」
「確かに 清心国には六道境以上の武者は居ない だが私はもう十年はここで暮らしている 誰にも気付かれずにね」
「どうやってそんな・・・まさか元力・・・」
「そう 元力を意図的に隠して一般人のフリをしているのだ そうしなければ清心国と周辺の国々の力関係が崩れてしまう」
「仮に清心国が私の力を当てにして戦争を始めたとしよう 私が手を貸せば隣国は滅ぶし手を貸さなければ逆に清心国が滅ぶ 九霄境の力というのはそれほど強大なのだ」
「だから・・・星河 君はこの話を一切誰にも話してはいけない」
葉重玄が言葉を発すると同じくしてズシリと体が重たくなった まるで大きな何かに威圧されているような感覚だ
「わかりました・・・ってもこんな話 誰も信じないだろうけど・・・それで 俺をここに招いた理由は何なんですか?」
「理由か・・・では単刀直入に言う 星河 私の弟子になれ」
「で 弟子だって!?」
謎の人物 葉重玄は九霄境の武者だった
清心国に居ないはずの圧倒的強者を前に星河の答えとは




