72話 ババ抜き対決
しかし、アリスが先に口を開いた。
「じゃあさ、みんなでゲームでもしない?」アリスは箪笥を物色している手を止めて提案した。
「ゲーム?」ムラトは少し首をかしげた。「どんなゲームですか?」
「カードゲームとか、ボードゲームとか。何か持ってない?」アリスが尋ねると、ムラトは少し考え込んだ後、部屋の片隅にある古い木箱を引っ張り出してきた。
「これはどうでしょう?」ムラトが取り出したのは、年代物のトランプセットと、数種類のボードゲームだった。どれも古びていたが、手入れが行き届いていることがわかる。
「おお、いいね!じゃあ、まずはトランプから始めようか」俺はトランプを手に取り、デッキをシャッフルし始めた。アリスとムラトもテーブルの周りに座り、ゲームを始める準備を整えた。
最初はシンプルなゲーム、ババ抜きから始めた。俺たちはそれぞれのカードを慎重に引き、ババを避けるために神経を集中させた。アリスは特に真剣な表情でカードを選び、ムラトも無言でゲームに集中していた。
最初はシンプルなゲーム、ババ抜きから始めた。トランプの束を手に取り、俺は慎重にシャッフルを始めた。カードが一枚一枚混ざり合う音が部屋に響く。アリスとムラトはそれぞれの席に座り、ゲームの準備を整えている。アリスは興奮気味に笑顔を浮かべていて、ムラトはいつもの冷静な表情を崩さずに俺の手元を見つめていた。
「準備はいいか?」俺が尋ねると、アリスは大きく頷いた。「もちろん!負けないわよ!」ムラトも静かに頷き、言葉を交わさずにカードが配られるのを待っていた。
カードを配り終えると、それぞれの手札を確認する。ババ抜きのルールは簡単だが、緊張感が漂う。ババを引かないように慎重にカードを選ぶ必要がある。アリスは少し考え込みながらカードを選び、ムラトも同じく無言でカードを引いていく。俺たちの間には、カードの動き以外の音はほとんど聞こえなかった。
最初の数ターンは静かに進んだが、徐々に緊張感が増していった。アリスが一枚のカードを引くたびに、彼女の表情が微妙に変わる。ムラトは依然として冷静だが、その視線には鋭さが感じられる。俺は既に出揃っているので関係ないが、お互い真剣になってることが目つきで伝わった。突然、アリスがムラトに煽るように誘い込んだ。
「ムラト、そんなに真剣な顔してどうしたの?」アリスはニヤリと笑って挑発するように言った。ムラトは少し眉をひそめたが、冷静なまま相手の二枚のカードを見つめた。同じカードを揃えばムラトの勝ち、カードが揃わなければアリスの勝ちとなるが全くカードを引かないムラトは、静かに相手の手札を見たり、アリスの顔色を探るような仕草をする。彼女の落ち着いた態度に対して、アリスは不安定な笑顔を見せるが、それでも挑発をやめなかった。
「ムラトー。この右のカードがジョーカーだよー。引かない方がいいよー」アリスは興奮気味に誘導する。ムラトはアリスの挑発に微笑みながら応じた。「そうですか……でも日本人特有の噓つきにはもう少し油断したほうがいいですね」ムラトは冷静な口調で答え、アリスの挑発に応じない様子を見せた。
「何言ってんのよー、右のカードがジョーカーだよ?絶対に引かない方がいいってー。早く左のカード引いてよー」ムラトはアリスの言葉に微笑みながらも、自らの手札を静かに整理し続けた。彼女の表情は変わらず冷静で、アリスの挑発に対しても動じることはなかった。アリスはやや焦りを感じ始め、目を細めてムラトの手札を窺いながら、自分の手札を隠そうとした。
俺は二人のやり取りを静かに見つめていた。ムラトの冷静な態度に感心しながらも、アリスの緊張感も感じ取れた。このババ抜きのゲームが、ただの遊び以上の何かを表しているような気がした。それぞれが自分の立場を守り、勝利を目指している。
「アリス。日本人特有の噓つきは、詐欺師がお客に対してまず、最初の半額以下の商品を提案すればお客は得をしたと錯覚する。しかし、詐欺師はお客が得をした最初の半額以下の商品は、その後料金をさらにさらに追加する。これを繰り返せば、定価の価格以上を稼いだことになる。つまり、騙されない人間でも被害に遭う可能性があるという意味です」とムラトが静かに説明すると、アリスは唇を噛んで黙り込んだ。彼女の顔には戸惑いと焦りが交じり合っていた。
ムラトは静かにカードを選び、次々と手札を整理していく。彼の動作は迅速で、二枚のカードを見る後も表情には何の変化も見られない。アリスはムラトの様子に焦りを募らせ、緊張感が高まっていく。
「でも、日本人達はとても『親切な生き物』だと聞きましたので」とムラトが静かに言うと、躊躇うことなく右のカードを引いた。アリスの手札にはジョーカーが残っており、ムラトは冷静に勝利を収めた。
「負けちゃった……てっきり左かと思った」アリスはため息をついて、落胆した表情を浮かべた。一方で、ムラトは満足げに微笑んでいた。
「ムラト、さすがだね。冷静さを失わずに勝利を収めた」と俺が称賛すると、ムラトは控えめに頷いた。「ありがとう、でもアリスの心理戦もとても上手かったです。あの急かすような心理は、人間の判断能力を著しく低下させる恐ろしい武器です」
「ムラト、やっぱり君はすごいわ!」アリスはムラトに感心しながら言った。ムラトは謙虚な笑顔でアリスに頭を下げ、「ありがとうございます、アリスさん。ただ、このゲームでは冷静さが重要です。感情に流されないこと、言葉の言動に気を付けることが勝利の鍵だと思います」と答えた。




