表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇に飲み込まれた謎のメトロノーム  作者: 八戸三春
第一章
72/85

71話 ムラト、戦いの士気を上げる儀式

午後3時半になると、天気は曇り空となり、何もすることがないような静かな午後が訪れた。ムラトはテレビの番組を無言で見ている様子で、アリスは他人の家で勝手に箪笥を物色している。そんな二人を放置して、俺は窓辺に立って外の景色を眺めた。



曇り空ではあるものの、雲の切れ間からは光が差し込んでおり、まるで天気が快晴であるかのような明るさが広がっていた。雨が降りそうな気配はなく、散歩するには最適な日和だった。



窓から見える街の景色は静かで穏やかであり、人々がのんびりとした時間を過ごしているようだった。遠くには高い塔や青々とした木々がそびえ立ち、空には鳥が飛び交っている。風がそよそよと吹き、心地よい涼しさが身に染みる。



そんな穏やかな光景を眺めながら、俺は心が落ち着き、リラックスした気持ちになっていた。この静かな午後を大切に過ごすために、今日は特別な何かをする必要はないと感じた。ただただ、この瞬間を静かに味わいたいと思った。


「お?!これは?!」宝を発見したかのような反応をするアリスは、箪笥から取り出したのは白いレースがあしらわれた下着だった。その光景に俺は驚きを隠せなかったが、一方でムラトはテレビを見ながらニヤニヤしている。



アリスはその下着を持って俺に近づいてくると、俺の目の前に突きつけた。「空!お宝だ!」彼女の声には興奮が込められており、その様子に俺も少し笑ってしまったが、同時に止めに入った。



しかし、俺がムラトの方を見ると、彼はまだテレビを見ながら微笑んでいるばかりで、アリスの様子には全く反応していなかった。俺は彼に助けを求めるが、「ちょっと待って、今いいところだから」と言われてしまった。



アリスは喜び勇んで、「わーい!お宝だー!空!これ貰って良い?」と俺に許可を求める。しかし、俺は即座に断った。「ダメに決まってるだろ!」と、彼女に言った。



その間、ムラトはまだテレビを見ながら微笑んでおり、「何のお宝ですか?」と答える。アリスは彼にその白いレースの下着を見せながら、「ムラト!これだよ!」と言った。



ムラトは微笑みながら、「面白いね」とだけ言って、俺の嫌な予感を確信させるような表情を見せた。



「ちょアリス、それ戻せって」俺が叱ると、ムラトは素早い動きでアリスを拘束し、首を絞めるキャメルクラッチの技を決めて彼女をベッドに連行した。



その一部始終を目の当たりにして、俺は驚きと困惑を隠せなかった。ムラトの行動は予想外であり、アリスも戸惑いの表情を浮かべていた。彼女は必死にムラトの腕を振り払おうとしていたが、その抵抗はむなしく、彼女は容易くベッドに連れ去られた。



俺はその光景に手を出すべきか、それとも止めるべきか、迷いながらも立ち尽くしていた。だが、ムラトの行動を見ていると、それがただの冗談や茶番ではないことを感じ取った。彼の表情は冷徹であり、彼の行動は真剣そのものだった。



アリスの状況を見て、俺は慌ててムラトに向かって言った。「ムラト。何をしているんだよ」しかし、彼は無言でアリスを拘束したまま、俺の方を向くこともなく、ただ静かに微笑んでいた。



そしてムラトはキャメルクラッチのまま、やっと俺に向かって言った。「見ての通り、犯人を確保しました。犯人は黒だったようですね」と。その言葉に、俺は少し戸惑いながらもムラトの言うとおりにアリスを見つめた。



「いや、白……んーまぁーそうかな」と、俺は迷いながらも言った。しかし、ムラトはそれを聞き入れず、アリスの首を段々と締め始めた。アリスは苦しそうに手を叩きながら、「ギブ!」と必死に叫んでいた。



その光景を見て、俺は身動きが取れなくなってしまった。ムラトの行動に戸惑いながらも、何かをすることができずにいた。アリスの苦しそうな様子に心が痛み、彼女を助けたいという衝動が湧き上がるが、その一方でムラトの様子にも警戒しなければならなかった。



しかし、突然ムラトがアリスを解放し、彼女はぜぇぜぇと荒い息を吐きながらベッドに倒れた。彼女の姿を見て、俺は安堵の息をついた。



ムラトはアリスを睨み付けながら言う。「今のは20パーセントです。100パーセントなら貴方は一瞬で死んでたでしょうね」「海国人って怖いね~、あたしなら普通に死んでたよ~」「いや、怒らせるお前が悪いだろ」俺はアリスに言うがアリスは知らんぷりしてそっぽを向く。ムラトはテレビを見ながら言う。「さて、お宝も回収したしそろそろお祈りをしないと」「お祈りって?」俺が質問すると、ムラトは説明する。「シヴァ神のお祈りです。まず、供え物をして仲間だと認知させ、もしいざというとき、血液を捧げたらシヴァ神のご加護を賜るという儀式です」ムラトは棚からバナナとリンゴとヤム芋の蒸し焼きを持ってきてそれをお供えして、目を瞑りながら手を合わせて呟く。俺とアリスの二人は呆然として見つめる。ムラトはカーテンの方に向いて唱えるが、ムラトの言葉は全部現地語で何を言ってるのか分からない。アラビア語だとすぐ理解したが、日本語に変換しようにも早口すぎて全く聞き取れなかった。すると、アリスは俺に言う。「ね~、シヴァ神って何なの?ゲームとかアニメとかでも見た事ないんだけど」「ヒンドゥー教の最高神です。この世界で最も偉大な神の一柱で別名はブラフマーと言います」俺は感心して言う。「ほお~博識だなムラト。でも、その神に何を願ったんだ?」すると、ムラトは苦笑いしながら言う。


「何時でもこの人達を抹殺できるようにお願いしました」「お祈りじゃねえのかよ」俺はムラトにツッコむ。やはり、ムラトの考えてることはよく分からない、いつか神の生贄にされそうだけど今でも抹殺されるんじゃないかと俺たちは冷や冷やしながらムラトを見つめた。


ムラトは静かに立ち上がり、儀式を終えた。彼の表情は穏やかで、まるで何事もなかったかのようだった。俺とアリスはただ呆然とその様子を見つめていた。ムラトの行動は一貫して冷静であり、その冷静さが逆に恐怖を煽っていた。



「これで終わりです」とムラトは静かに言い、供え物を片付け始めた。アリスはまだ息を整えながらベッドに座っていたが、徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。



「ムラト、あの、さっきのは本当に必要だったのか?」俺は恐る恐る問いかけた。ムラトは手を止めて俺の方を見つめ、微笑みながら答えた。「必要でした。あなたたちが神のご加護を得るためには、真剣さを示す必要があったのです」



その言葉に、俺はさらに戸惑いを覚えた。ムラトの真剣な表情と穏やかな口調には、嘘や冗談が一切含まれていなかった。その一方で、アリスはやや不機嫌そうにムラトを睨んでいたが、再び箪笥を物色し始めた。



「ところで、次は何をするんだ?」俺はムラトに問いかけた。ムラトは考え込むように少しの間黙ってから、「と言われましても、私は特に何もすることがありません」と静かに答えた。俺はその言葉に少し困惑しながらも、何か提案をしようと考えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ