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闇に飲み込まれた謎のメトロノーム  作者: 八戸三春
第一章
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69話 白熱した議論

2035年のある日、突然現れた未知の怪物によって、日本列島は未曾有の危機に直面していた。九州地方が最初の標的となり、その破壊力は計り知れないものだった。巨大な体躯と恐るべき力を持つ怪物は、都市を一瞬にして瓦礫の山に変え、人々は逃げ惑うばかりで成す術がなかった。福岡市は壊滅的な被害を受け、続く熊本や鹿児島でも同様の惨状が広がった。



怪物はその勢いを止めることなく、次々と近畿地方へと進撃を続けた。大阪、京都、神戸といった大都市も次々とその牙にかかり、無数の建物が崩れ落ち、多くの命が奪われた。交通網は寸断され、救援活動もままならない状況が続いた。人々は避難所に押し寄せたが、物資の供給が追いつかず、混乱が深まるばかりであった。



中部地方もまた、怪物の猛威にさらされた。名古屋市を中心に甚大な被害が広がり、中部圏の経済活動は完全に麻痺した。人々の心には恐怖と絶望が渦巻き、どこに逃げても安全な場所はないと思われた。



そして、怪物は中部地方から関東地方への侵攻を開始した。その報せが東京に届くと、政府はただちに非常事態を宣言し、自衛隊の総動員を決定した。最新鋭の武器と兵器を装備した自衛隊員たちは、怪物の進撃を食い止めるため、必死の防衛線を築いた。だが、その全ての努力は怪物の圧倒的な力の前には無力だった。重火器やミサイルも怪物の硬い皮膚には通用せず、自衛隊の兵士たちは次々と倒れていった。



多くの犠牲を払いながらも、政府は新たな対策を講じるため、科学者や専門家たちを集め、怪物の解析と対抗手段の研究を急がせた。しかし、時間は刻一刻と過ぎていき、怪物はゆっくりと確実に関東圏へと近づいていた。




ここ1か月の死者数は4200人、行方不明者数2300人、負傷者数は1万5千人を超え、事態はますます深刻化していた。政府は非常事態宣言を発令し、自衛隊の武装強化と怪物対策の研究が急務とされた。全国民が一致団結してこの脅威に立ち向かう決意を新たにしたが、現実は厳しく、犠牲者の数は増えるばかりだった。



その中で、政府の戦略会議が連日開かれ、各分野の専門家や自衛隊の高官たちが集まって議論を重ねた。怪物の巣穴とされる基地を爆撃する案が浮上したが、幕僚長はこの提案に対して一貫して反対の姿勢を崩さなかった。彼は、住民の安全を最優先に考え、基地への爆撃がもたらすリスクを重く見ていた。「住民の被害が危うい」という理由から、その意見を強く主張したのだ。



一方で、多くの自衛隊員や戦略会議の参加者たちは、基地を爆撃することで怪物に大打撃を与え、状況を好転させる可能性が高いと考えていた。彼らは、「住民を安全に避難させてから正確に目標地点を爆撃すれば、住民の被害は最小限に抑えられる」という理論を展開し、爆撃の実行を強く訴えた。さらに、巣穴を空爆することで怪物が大打撃を受け、その後に総攻撃をかけることで決定的な勝利を収められるという希望を持っていた。



その日の会議も白熱した議論が続き、私はその場に参加していた。会議室には緊張感が漂い、誰もが一刻も早く結論を出すことを求めていた。しかし、幕僚長は頑として「NO」の姿勢を崩さなかった。「我々は住民を守るために戦っているのだ」と、彼は強い決意をもって言葉を紡いだ。



「だが、怪物を倒さなければ、さらなる犠牲者が出るのではないか?」と、若い自衛官が反論する。「基地を爆撃すれば、我々が主導権を握ることができる。その後、総攻撃をかけて怪物を殲滅することができるのだ」と。



他の参加者たちも次々に意見を述べ、会議は紛糾を極めた。科学者たちは、怪物の巣穴の構造や怪物の弱点について最新のデータを報告し、その情報を元に作戦の具体案が練られた。しかし、どの案にもリスクが伴い、簡単に決断を下せる状況ではなかった。



「我々は冷静に、そして確実な方法を模索しなければならない」と、幕僚長は続けた。「感情に流されて行動してはならない。住民の安全を最優先に考え、慎重に対策を講じる必要があるのだ。」



その言葉に対し、参加者たちは一瞬沈黙した。重い空気の中で、私は思考を巡らせていた。確かに幕僚長の言うことも理解できる。しかし、時間は刻々と過ぎていき、怪物の脅威は日に日に増している。このままではさらなる被害が出るのは避けられない。


そして、結論を出せないまま会議は中断となり、俺は重い足取りで会議室を後にした。外に出ると、薄暗い空が広がっており、風が冷たく感じられた。駐屯地を出ようとする俺の前に、見慣れた二人の姿が立っていた。アリスとムラトだ。



そして、俺は重苦しい会議室を後にし、廊下に出た。長時間にわたる議論の疲れがどっと押し寄せる。冷たい空気が頬に触れ、一瞬気持ちが引き締まった。その時、アリスとムラトがまるで俺を待ち構えていたかのように廊下の先に立っていた。二人とも、この緊迫した状況下でも全くぶれない様子だった。



「お疲れ!空!」とアリスが明るい声で声をかけてきた。彼女の口元には微笑みが浮かび、その右手はまるで犬のように尻尾を振っているかのように動いている。アリスのこの無邪気な態度は、どんな状況でも変わらない。彼女の軽やかな態度に、少しだけ心が和らぐのを感じた。



「そろそろ命令する気になりました?依頼者さん」とムラトが静かに続けた。彼の無表情はいつものことだが、その眼差しには深い洞察力と強い決意が宿っていた。ムラトは常に冷静であり、どんな困難な状況でも感情を表に出さない。それが彼の強みであり、俺にとっても頼りになる存在だった。


俺はムラトに命令する気にはなれず、彼女に質問した。「ムラト。怪物はどうやって巣から出てくるんだ?」すると、ムラトは少し考え込んだ後、不確かな答えが返ってきた。「洞窟の奥の方から出てくることは間違いないよね」



「あーなるほどね」と俺は頷いた。洞窟から出てくるということは、怪物の巣穴はその奥深くにあるのだろう。どうしてそのような場所に巣を作っているのかはわからないが、怪物の巨大な体を考えると、広い空間が必要なのだろう。巣穴を守るために怪物が出てくるタイミングや経路を把握することが重要だと感じた。



俺はふと思い出した。ボスがわざわざ人間の目で見えるのは巣の穴を守るためだと教わったことがあった。確か、アリスが来たばかりの頃だった。あの時、上官が危険だからと言って教えてくれたが、その詳細は覚えていない。あの上官も今はもういないし、気にするだけ無駄な話だ。



アリスのことを考えると、彼女が怪我をせずに3日後に退院したことを思い出した。あの白い部屋で寝ていただけの彼女が、いつも元気で前向きな姿を見せてくれた。その時、俺との会話で彼女が最近誰かに見られているという噂を聞いたことがあると言っていた。俺はその噂の発信源を特定し、上官に報告するという彼女の決意を聞いていた。彼女がその後3日で退院したのは、彼女の強さと決断力の表れだった。



その後、俺は怪物の巣を爆撃しようと考えたが、幕僚長に止められた。彼の意見を尊重しつつも、俺はいつでも行動に移せるように準備をしていた。現在も命令待ち状態であり、何か進展があるのを待ち続けていた。

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