4話 本の一部のページ
その時のことを思い出しているのか、悲しげな表情を浮かべていた。空は、そんな彼女をじっと見つめながら話を聞いていた。
空は、続けて質問する。
「どうして、君は、その人だとわかったんだ?」と聞くと、彼女は答えた。
「実はですね、その人は、ずっと生物の死骸を運んでました。それも、たくさんの。おそらく、何かの実験に使うのだと思いました。それに、あの時の彼女の目は、どこかおかしかった。まるで、操られているような感じでした。だから、もしかしたら、彼女は、人間じゃないんじゃないかと思ったんです。それから、しばらくして、今度は、大量の血痕を見つけたんです」「なるほどね。それで? どう思ったのかな?」
すると、少女は、少しだけ顔を曇らせた。そして、「正直に言うと、怖かったです。でも、それ以上に興味もありました。だって、こんなにたくさん死体があるんですよ! 一体、どんなことをしているのか知りたかったのです!」
とんでもない言葉を放ったのだ。
空は呆れたように溜息をつくと真剣な眼差しで彼女を見据えて報告する。
「君は好奇心旺盛だね。だけど、それは危険なことだ」
「危険? どうしてですか?」
彼女は首を傾げる。空は、彼女の質問に答えた。
「この世界には、様々な種類の人間がいるということを説明する。例えば、殺人鬼のような犯罪者もいるし、君のように無邪気に残酷なことを楽しむ人もいる。そういう人間は、いつどこで何が起こるか分からないんだ。だから、あまり一人で出歩かない方がいいよ」
そう言って、空は彼女に忠告した。すると、少女は少し不満そうな顔をしていた。
どうやら、納得していないようだ。空は、そんな彼女を諭すように説得すために、再び口を開く。
「いいかい。世の中は、善人だけじゃなくて、悪人も大勢いる。もし、君の身に何かあった時に、誰も助けてくれる人がいなかったとしたら、その時は、もう手遅れなんだ。だから、気をつけるんだよ。分かった?」と、空は優しく語りかけた。
だが、それでも、まだ、不安な様子だった。そこで、空は、さらに言葉を紡ぐ。
空は、優しい口調で言う。
「大丈夫だ。僕が、いつでも、そばにいる。僕は、絶対に、君を守る。約束する。それに、もしも、悪い奴が襲ってきたとしても、返り討ちにする。だから心配しないでくれ」
空は力強く宣言する。だが、それを聞いた途端、何故か彼女が不機嫌になった。空は不思議に思って、理由を聞く。
「あのー、どうかしたか? 俺の顔に、なにかついてる?」と、空は慌てて尋ねる。彼女は、しばらく黙っていたが、やがて、ゆっくりと話し出した。
「別に、なんでもないです。ただ、あなたって、本当に鈍感な人なのですね。私は、あなたのことを信頼しているのに、なぜ、私が怒っているのか、その理由が、まったく分かっていないようですし。まあ、仕方ありませんよね。だって、私の気持ちなんて、全然、分かってくれないのですもの。でも、いつか、きっと、分かる日が来ると思います。それまで、待っていてあげます。ふぅ、やれやれです」
急な落ち込みに戸惑う空だったが、彼女の言っている意味が分からず、「えっ、どういう意味です?」と、聞き返す。
今度は、彼女は、少し怒ったような顔になって、こう言い返してきた。
「もういいですよ。どうせ、分からないんでしょ。知りません」と、言って、そのまま、どこかへ行ってしまうので呼び止めた。
「お、おい! 待ってください! 悪かったですよ!」
「本当ですか? 本当に大丈夫なんですね?」
「本当だ。だから許してくれ」
「分かったよ」
「ありがとう」
空はそう言ってお礼をした。暫く気分が落ち着いたソラは、どうしてこんなところにいるのかという事について聞いてきたので、空は事情を説明した。
「あぁ、最近ベータ144の活動が活発になって来ていてね。それで君には何かベータ144の特性とか弱点はないかなと思って聞きに来たんだ」
空は言うと、彼女は少し考えてこう返答した。
「ベータ144の特性と言っても生物学のページ破られてしまって、分からないです。でも、もし、私が知っているとしたらそれは、人間を喰らうという特性があるということだけです。確か人間と謎の薬品を融合すると誕生します。だから、薬を飲んでいる人は、襲われやすいかもしれません」彼女は真剣な眼差で空を見つめながら語った。
その話を聞いていたが、正直あまり理解できなかった。
だから知ってる話しを聞いてみた。
「それは、ベータ144の遺伝子が組み込まれてある薬のせいか?」
そう聞くと、少女は顔を傾けて理解できていなかった。
「え? そうなのですか? 確かにそれなら納得できるかもです。はい」と答えたので空は安心した。そして本題のベータ144の倒し方を聞いてみた。
「ベータ144の弱点は?」と聞いてみると、「えーっとね。確か、頭かな。あそこは脆くて攻撃されやすいのよ。だから、あいつは頭が弱点だってみんな知ってるよ」
「なるほど……」
頭って皆信じてるけど実戦では頭は弱点じゃないんだ。
だから頭を狙うのは間違い。実際の戦闘は脳を3つ潰せば死ぬ。警察機関ではそのことを警告するポスターが貼られるほどである。だが、そんなことを知らない市民は頭を狙えば良いと思っている。もちろんそれを知らない人は多くいるが、統計では大多数が警察機関の説得力がないと言う。確かにそうかもしれない。あの警察機関の連中はノルマを達成するために必死で嘘をつく。理不尽に逮捕したり女を強姦したりすると聞いた。
そのせいで市民は反抗心が芽生え、警察に信用されないのだと。本当にこの国は終わっている。
だが今はそんなことはどうでもいい。とにかく、今は倒すよりも市民を救うことが先だ。
この子もいつか怪物になるのかと思うと、胸が苦しくなった。
この子の両親は、こんな化け物を生み出すために、今まで努力してきたというのだろうか。
僕は、この子が怪物にならないことを願わずにはいられなかった。
「ソラ、そういえばお友達できた?」
空に聞かれて少し戸惑っていた。
「う、うん! 一応いるよ」
「そうか、じゃあ仲良くなったらその子を紹介してくれないか?」空は嬉しそうな顔をしていた。
「は、はい! 仲良くなったら友達を紹介します」
すると、少女は目を輝かせて嬉しそうに笑っていた。