3話 謎の少女
東郷機関事務所の4階。そこはオフィスのような部屋であり、そこには神薙空とアリスがいた。彼らは仕事の打ち合わせをしていた。
様々な諜報機関がここで重大な仕事を請け負っている。空はエージェントとして、この事務所で働いていた。
上司に呼ばれて、空は社長室に向かっていた。
ノックして社長室に入ると、そこにはスーツを着た女性が立っていた。ワッペンに書かれてる名前はレナ・メレル。眼鏡茶髪ショートヘアで元警察組織の中で最も偉い人だった。彼女はこちらに気づくと、笑顔で手を振りながら挨拶をした。
「あ、神薙空くんじゃん。お久しぶりー」
空は彼女に挨拶を返した。彼女は東郷機関の社長であり、空とは顔見知りだった。彼女は空に話しかけた。
「神薙くん。最近ベータ144が活発になってきたね。あなたはどう思う?」
ベータ144というのは、遺伝子組み換え技術の産物だ。
この技術は、人間のDNAに特定の塩基配列を組み込むことにより、任意の生物の遺伝情報を再現できるというものだ。例えば、犬の遺伝子を組み込んだ人間を作ることができる。
だが、これは倫理的に問題があるとして、現在は禁止されている。
しかし、裏では密かに研究が続けられ、完成品が秘密裏に取引されていたのだ。
そして今、ベータとも人々は呼ばれていた。
「そうだな。確かにここ最近は、やたらとベータが暴れてるよな」
空はそう答えて、コーヒーを一口飲んだ。
「そう。このベータ144は、人間の脳に干渉する能力を持っているの」
レナは淡々と語り始める。ベータ144という生物は、人類の敵である存在。彼らは人類を滅亡させるためだけに、存在する。彼らは、人の心に寄生する生物だと言われている。彼らが宿主の脳内に侵入している間は、人間は夢遊病のような状態になり、意識を失う。その間に、彼らの肉体は変異して増殖を続けていく。
やがて、彼らは人を完全に支配してしまう。彼らの目的はただ一つだけ――地球を乗っ取ることだ。
「それで? 俺たちに何をしろって言うんだよ?」
空は尋ねる。すると「あなたたちには、ベータの駆除をしてもらいたいの」
「はぁ!? 何でだよ! そんなの自衛隊の役目だろうが!」空は思わず声を荒げた。だが、レナは全く動じずに答える。「えぇ。もちろん、自衛隊も動いてはいるわ。でも、彼らの手には負えない。だから、私たちが動くしかないの。それに、私たちは自衛隊よりも強い力を持ってる。だからこそ、こうしてお願いしているのよ。どうかしら?」
空は少し考えた後、「わかった。引き受けよう。ただし、条件がある」と返事をした。
「何かしら?」とレナが首を傾げると、空は言った。
「俺は、あんたが嫌いじゃない。むしろ、好きだと言ってもいい。だけど、まだ信用できない。そこで、交換条件として、アビリティーインデックス2位のアウレリア能力者を連れてきてくれ。
そいつがいれば、安心できるし、信頼もできる。どうだ?」と空が提案する。
すると、レナは微笑を浮かべた。
「いいでしょう。連れてくるわ。その代わり、今は海外派遣中なので、しばらく待っていてね。それと、報酬は前払いで払うけど、構わないかしら?」
彼女は訊くと空は前払いの理由に疑った。
「前払い? 珍しいな。普通なら、成功してから報酬をもらうのに、今回は違うのか?」
空がその質問した。
「えぇ。これは、あなたの命に関わる仕事なの。失敗すれば、死ぬかもしれない。だから、お金は惜しまないつもり。もし、成功した時は、通常の倍の金額を支払うと約束するわ。期間は3ヶ月、それでも、不満かしら?」
レナが真剣に答えたので、空は納得することにした。だが、空は不安だった。この女が、本当に信頼できるかどうか。
だが、今は信じるしかなかった。レナと話をした後、空たちはオフィスを出た。
外に出ると、すでに日が暮れていた。空たちが乗る車は、レナが用意してくれた黒いタクシーで、運転手が運転すると空は車内で、後部座席に座っていた。窓の外を見ると、山から街のネオンが輝いている。だが、それはどこか寂しげな光を放っており、街は静まり返っていた。
到着するとこの近くの人気がない路地裏の場所に、生物学者の地下部屋があった。地下の中に入ると、そこには様々な本や資料が散らばっている。どうやら、ここで研究をしているらしい。
蝋燭が照らす部屋の中、奥の扉をノックした。
「失礼します」
扉が開くと、中には一人の魔導師の服を着た女性が立っていた。髪は長く、眼鏡をかけた知的そうな女性だ。年齢は10代後半くらいだろうか? 女性はこちらを見て微笑む。
彼女は、「あ、ようこそ! お待ちしておりました!」と歓迎してくれた。
女性の名は、天咲ソラ。
この屋敷の主である。「あの、初めまして。私は天咲ソラと申します」
そう言って、頭を下げる彼女。礼儀正しい人で良かった。彼女の手には、一冊の本を大切に持っていた。
この本に書いてあった内容が気になり、どうしても知りたいのだという。
空は、それを聞くと、
「えっと、本の内容ですか?」
彼女は答えた。
「はい。この本は、私が書き記した日記なのですが、ある日を境に急に内容が変わったのです。今までは普通の日常を書いていましたが、ある日を境に、突然、血生臭いものに変わったんです。そして、最後には、こんなことが書かれていました。『私は、もうすぐ殺される』と。それで、怖くなって、誰かに相談しようと思いました。でも、相談できる相手がいなかった。そこで、この図書館に来たら、貴方がいました」
「な、なるほどね。つまり、俺に助けて欲しいってことだな。その前に、一つ聞いていいか? ベータ144の経緯を詳しく教えてくれないか?」
空は彼女に願うと、静かに語り始めた。「はい。わかりました。あれは、3年前のことです。私の家に、ある人が訪ねてきました。その人は、とても綺麗で、まるで天使のような人でした。何も名前を教えてくれなかったけど、彼女は私のことをよく知っているようでした。ある日、私はいつものように、読書をして過ごしていると、ある異変に気がつきました。それは、本の一部のページが勝手に破られてるのに気づいたことでした。最初は、なんだろうと思いましたが、すぐに理解しました。生物学の細胞に関する本を破いたのは、きっと彼女のしわざだと」