32話 送り迎え
「この人の人生って何だったのかな?」
その言葉を聞いた瞬間、ある答えが心の中で浮かんだ。(きっと誰かに好かれたかったんじゃないか)
俺はそう思いつつも口に出さず黙っていたが、心の中では既に答えが決まっていた。
そう思うようになったのはユキと出会った時からだった。
あの可愛らしい容姿に惹きつけられ、一目惚れをしたのだ。
それからというもの、俺はユキを気にかけていたのだが、同時に心配もしていた。
何故なら、ユキは誰かに頼りっぱなしだったからだ。何をするにもアリスに頼っており、俺としてはそれが気にくわない部分でもあった。
(もっと頼って欲しい)
そう思っていた矢先に今回の事件が起こったのだ。正直、自分は動揺していた。
こんなにも小さな少女が危険にさらされていることに憤りを感じたのもある。だが、それとは別の感情も湧き上がっていたのだ。
それは同情。ユキはきっとまだ子供だろう。それなのにこんなひどい目に遭っているなんて、かわいそうで仕方がなかった。
それと同時に決意した。ユキを守ることを第一優先にしようと。ユキを見て決意を新たにした。
ユキはその男性をじっと見つめている。
その間男性のポッケを漁り、免許証を確認する。坂木大誠という名であり平成23年5月27日、年齢は47歳で血液型はA型だった。特に目留まる情報はないが、今後の事件のために重宝するようカメラを撮影する。
そして傷の方向だが右側だった。急いで逃げたなら恐らく右の道へ逃げたと思う。
それからも俺たちは調査を続けたが何も証拠が出なかったため、一度引き上げることにした。
とりあえず今日は終わりにすると言いユキを家に送るよう言う。するとユキは首を横に振った。
「家はないですよ」
その言葉に絶句する。しかし、ユキは表情一つ変えず、淡々と話を進める。
どうやらユキは両親はおらず一人で家事や手伝い、買い物をしていたという。
そして今は教会に住んでいる。そこまで聞いて空は驚く。
まさか教会に住んでいるとは思っていなかったからだ。
しかも学校にも行ってないらしい。ユキは勉強はできる方だが、学校に行く費用がないとのこと。現在は12歳、ゲノム少女の中では高齢な方だった。
「あのー、私の話しを別に聞かなくて結構ですよ」
そう言いながら話を止めた。何の答えを返せばいいか言葉が詰まり、首に手を当てながら辺りを見回す。
「とても焦ってるように見えますね。表情と動き方が分かりますよ」
ユキはクスクス笑い始める。俺は少し呆れながらユキの方を向く。
「あのなぁ……」
「すいません。とても面白い人だと思ったのでつい」
ユキは表情を変えず、声だけ笑いながら答える。俺は少し呆れながら、ユキに質問する。
「ユキは教会に住んでいるんだよな」
ユキは少し考え込む。そして首を横に振りながら答える。
「住んでいるわけではありません。廃墟になった教会を修理、住み着いている状態です」
なるほどと思い出す。確かに、さっきもそんなこと言ってたな。それなら家がない理由も納得がいく。
「じゃ、送って上げるよ。もう夜の7時だしな、ここから教会は結構遠いだろ」
ユキは小さく首を横に振りながら、また話し始める。
「いえ、大丈夫です。タクシーを拾って帰ります」
そう言って去ってしまう。俺はそんなユキが心配になり、警視庁協力のもと監視用のカメラやドローンを飛ばすことにした。
――家に帰り、真っ暗な部屋に明りを点けて冷蔵庫にあった焼きそばと麦茶を取り出し、食事する。
毎日焼きそばだと飽きるかなーと考えながらテレビをつける。
適当にチャンネルを変えながら今日のニュースやバラエティ番組も見ていた。
どの番組も人類がなんとかベータ144に大勝利したと嘘ぶっこいてそうだったが、フェイさんに聞いたところ結局嘘だったみたいだ。
やっぱりか、と思った俺はフェイさんの言葉を思い出していた。
「同じニュースでつまんね」
リモコンを手に取り、チャンネルを切り替えても同じような内容の報道ばかりだった。俺はテレビを消しベッドに寝転ぶ。天井をただぼーっと見つめ、今日のことを振り返る。もっと早くアリスの存在を嗅ぎつけてたら、あんな目に遭わずに済んだんじゃないか。それに、犯人も不明のままだし。それにしても、アリスが意識を取り戻すことを願って時間をかけて探していたはずなのに、この騒ぎのせいで随分先を急がされた気分だ。それもこれも黒幕たちのせいなのだが、結局奴らはどこに消えたんだ? アリスの意識が回復したら飯は焼きそばではなく、ラーメンを食べさせようかな? いや、やっぱりラーメンにはマヨネーズだろう。そんなことを思いながら、天井を見つめていた。




