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闇に飲み込まれた謎のメトロノーム  作者: 八戸三春
第一章
32/85

31話 殺人事件

都心から離れて、昔の名残が残る専門店や商業施設が立ち並ぶ街へと到着した。

ここは以前まで商店街だった場所で、今はもう営業していない場所だ。

だが、今でも取り壊されずに放置されている場所で店はシャッターが閉まって営業していない。

ユキはそこに行きたかったらしい。空はその理由が分からなかったが、とりあえずついていくことにした。

歩道を歩けばレストランやコンビニが並んで、上を見上げばマンションやホテルが密着している。

その先は下り坂となっており、景色は一望できる。まるで、ビルが林立する都会と田舎を足したような街並みだった。

だが、ここらへんは人の姿はない。閑散としている。

やがて、目的地に到着した。そこは寂れた雑貨屋があった。

店の外にはゴミが散らばっている。店内は薄暗く、埃っぽい空気に満ちていた。天井に蜘蛛の巣が張られ、床に散乱した瓶や缶が足を踏み入れるのを躊躇させる。

だが、二人は臆せず中へ入っていく。

そこには、様々な物が置いてあった。日用品や衣類、玩具や家電製品などもある。

他にも、ガラクタ同然の古びた商品が並んでいる。雑貨屋というより中古品店に近い。だが、人の気配は一切なかった。


ユキは辺りをきょろきょろと見渡している。何かを探しているようだ。

すると、棚に置かれていた古ぼけた人形を見つけた。大きさは三十センチほどで、木彫りのクマの形をしていた。

犯人の証拠なのか探し物なのかは分からないが、ユキは人形を手に取るとバッグにしまった。それから、レジまで行くと店主はいないかと声をかけた。返事はなかった。

「何やってるんだ? 犯人を捕まえないと駄目だろ」

空が注意する。

「すいません。欲しかった物があったので」

ユキは申し訳なさそうに謝った。

空は呆れて、溜息をつこうとしたが堪えて首を横に振った。

それに対しユキは人形を眺めて嬉しそうな顔をしていた。ユキは目を輝かせながら、空に人形を見せる。

空はまた溜息をつきそうになったが、どうにか耐えることができた。

「で、買わないのか?」

空が尋ねると、ユキは残念そうに肩を落とした。そして、諦めたように店の外へ出ようとした。

その時だった。扉の向こう側から悲鳴が聞こえてきた。同時に、何かが崩れるような音が響く。

空とユキは互いに顔を見合わせると、急いで店から出た。


裏口の外に出ると一般人らしき人物が血を流しながら倒れていた。

近くには死体と血まみれの壁、地面に散らばっているレンガの破片が転がっていた。

身体にはナイフのような鋭利なものが深く切れており、それは赤黒い液体で服を濡れている。おそらく、被害者のものだろう。

空は目を大きく見開き、すぐにユキの方を見た。

ユキは冷静に現場を観察しており、怯えている様子はなかった。

「どうする? 警察に連絡するか?」

空が尋ねたが、ユキは無視をした。仕方なく、空は携帯を取り出して警察に通報しようとした。しかし、ユキが通報するのを静止した。

「どうして止めるんだ!?」

空が叫ぶと、ユキは睨みつけた。

「この惨状を見て何も思わないの?」

確かにユキが言う通り、殺人現場にしては奇妙な点がいくつもあった。

まず、被害者は刃物のような凶器で首の動脈を切られてる。

誰かに恨みがあったか、殺意があって殺されたのは間違いないが、しかし、それだけではなかった。



道端に垂らした血痕跡がないこと。これだけ大量の血痕が残っている以上、犯人は返り血を浴びていなければおかしいのだ。

そして犯人が使用したと思われる凶器が見当たらないのだ。

つまり、凶器はどこかへ捨てたか、犯人が持ち去った可能性が高かった。

それに加え、動脈が切られてるのはどうも不自然だ。動脈は大きな血管であり、切れるだけで多量出血で死亡する。

しかも綺麗に一直線に切られているため、非常に技術が高い犯行と考えられる。

これらの事柄から考えられる可能性は三つあった。一つ目は犯人が非常に手慣れた優秀な犯人であること。

二つ目は突発的な犯行であること。

そして最後三つ目は計画的犯行であること。

しかし、空が考えるにこの事件が計画的だとは思えなかった。何故なら、この犯行そのものが犯人か犯人に協力した人物によるものだからだ。

状況から見ても、犯人は被害者を殺すために意図的にこの場所に連れてきている。つまり、最初から殺す意思があったのだ。計画的な犯行でなくともあり得るのは、偶然居合わせた人物によって凶行が行われた場合だ。だが、それも可能性が低いだろう。一般人が刃物を持ってるはずがないし、第一、一般人を刃物で殺害するほどの動機もないからだ。つまり、この犯人は人の命を奪うことに躊躇いを持たない人物であり、しかも犯行を平然とやってのける冷酷さを持つ冷酷な殺人犯である可能性が高いと言えるだろう。


それを確信した瞬間、改めて恐怖を覚えた。(こんな恐ろしい事件が身近にあるなんて信じられないよ)

そう思い、震える手で力を込めながらペンを握ると文章を書き始める。

そして、これまでの情報を整理した上で自分が考えた推理を書いていった。

ユキの指摘通り、この殺人犯は相当な技術の持ち主のようだ。

不倫問題か、それとも人間関係の問題だろうか。しかし、それならなぜ刃物を使用して殺害したのか。

しかも心臓を狙わず、動脈を切ったのはどういう意図があるのだろう。

もしかして早めに始末したかったのか、殺害方法なんてどうでもいいと思ったのかもしれない。

しかし、その真意を解明しないと警察的には未解決事件になってしまうし、被害者も浮かばれないだろう。

「政府関係者……」

ユキはぽつりと呟いた。

──もしかしたら政府はこの事件と関連しているかもしれない。


警察関係者は殺人事件調査課を立ち上げ、多くの人員と予算を当て、あらゆる手段を駆使して事件解決に向けて取り組んでいる。だが、この事件については全く手を付けていないようだった。理由はわからないものの、ユキの言葉通り、政府関係者。つまり、公的機関が関与している可能性があると考えられる。そうなれば、事件解決の糸口になる情報を得られるかもしれない。

──だが、それをどうやって調べればいいのだろうか。いくら考えても答えは出なかった。

「酷いよね……痛かっただろうね……」

一般人の頭を撫でながら呟く。

「この人がどんな人かも知らずに殺されるなんて、かわいそうすぎるよ」

すると突然、ユキの口から言葉が漏れた。それは涙声だった。俺も泣きたいがエージェントとしての使命感がそれを許してはくれない。俺は黙って話を聞くことにし、耳を傾ける。



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